第83話 香奈宮白瀬という女性……?
「「はぁ……はぁ……」」
二人の論争は息切れが起こるほど続いた。二人は手元の飲み物を飲み、息を整えた
「落ち着いたか?」
「「なんとか……」」
二人共器の中は空っぽになっていた
「毎回思うが、仲いいな。お前達は」
「はぁ⁉︎な、仲良くなんてありません‼︎」
「こらこら。照れ隠ししちゃってぇ」
二人は対照的な態度をとった
「こんな堂々と人前でストーカー宣言するような人と仲良くなんか出来ませんよ‼︎」
「うぐっ……ほ、ほぉ……言ってくれるじゃない……私だって泣き虫の人とはあんまり仲良く出来ないなぁ!」
一度鎮火したはずの言い争いに再び火がついた
「誰が泣き虫ですか⁉︎」
「いやいや相当泣き虫だよ?最近泣いてばっかりじゃない?」
白瀬が自身の身体を大切にしなかった時、京の娘と明かされた時、京にもう、女性として見ることは出来ないと告げられた時、自分は京の娘ではないと明かされた時。白瀬が辰馬に情報を売ったと知った時。芹が直近で泣いた場面はこの五つだ
「ぜ、全部見てたんですか?」
「全部は見てないけど大抵想像つくよねぇ」
芹は顔を真っ赤にした
「し、仕方ないじゃないですか‼︎全部泣いてもおかしくないレベルでしょ⁉︎」
「まあまあ確かにそうかもしれないけど、でも泣きすぎだよね。体内の水分足りなくなるんじゃないってぐらい泣いてたもんね。私の布団もびしゃびしゃにしたし……」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!やめてぇぇ‼︎」
芹は顔を抑えてうずくまった
「私に喧嘩売るにはもうちょっとお口が達者にならないとねぇ」
「うぅ……も、もう嫌……この先輩……」
白瀬に言い負かされた芹。芹が言い争いで白瀬に勝てる日は来るのだろうか……
「あ、すいません京先輩。醜いものをお見せしちゃって……」
「もう何回も見てるから」
芹と白瀬は言い争うことはほとんど日常茶飯事だ。そして、決まってその場には京も居合わせることが多い
「……それより、白瀬に伝えることがあるんだ」
「あー。言わなくても良いですよ?もう分かってるので」
白瀬はもうすでに察していたようだ
「良かったね。芹ちゃん」
白瀬の表情は、京を取り合った相手とは思えないほど優しい顔だった
「……香奈宮先輩」
「んもう。そんな泣きそうな顔しないの。本当に泣き虫なんだから……」
「だ、だってぇ……香奈宮先輩も京さんのこと……」
芹の瞼に溜まった涙を白瀬は拭った
「いいのいいの。選ばれたのは芹ちゃんだし、私も相手が芹ちゃんなら文句なんかないから」
背中をさすり、芹を落ち着かせる白瀬
「京先輩……芹ちゃんを諦めないでくれてありがとうございました。あのまま嘘に踊らされて、後悔することにならなくて本当に良かったです」
ーー誰よりも相手を理解し、誰よりも人に寄り添える
「正直、選ばれなくて悔しいし、残念だけど……さっきも言ったように、芹ちゃんなら文句なしです。むしろお似合いの二人すぎてちょっと嬉しいぐらいです!」
ーー自身が想いを寄せた人が他の子と付き合うことになっても、自分のことのように喜んでくれる……
「だから……絶対に芹ちゃんを幸せにしてあげて下さいね」
ーー上手くいくように応援までしてくれる……それが香奈宮 白瀬という女だ
「……ああ。誰よりも幸せにするよ」
京の目に迷いはなかった。偽りもなかった
「……その言葉、信じてますよ」
白瀬は目一杯の微笑みをみせた……




