第75話 一度壊れた……?
「「本当にすいませんでした‼︎」」
お店のレジの前で店長に必死に謝る芹と菜由
他に客がいなかったとはいえ、大声で話し、席を水浸しにしてしまったのだから、謝るのは当然だ
「シャワーまで貸して頂いて……本当にご迷惑をおかけしました……」
店長が濡れた芹を見て、シャワーを貸してくれたのだ。ちなみに着替えは、菜由が近くの洋服店で急いで買ってきたものに着替えていた。濡れた服は、店長から頂いた紙袋の中に入っている
「いえいえお気になさらないで下さいませ」
怒られても文句の言えないことをしたはずだが、店長は怒っている様子もなく、許してくれた
「それより、私も良い言葉を聞かせて頂きました。愛してるなら、些細な問題……ですか」
「ちょ、ちょっと恥ずかしいので口に出すのはっ‼︎」
「恥ずかしい?私は良い言葉だと思います。この言葉を聞けただけでも、私は今日、徳を得てるんですよ」
そして優しそうな店長は芹の方を見た
「……事情は分かりませんが、頑張ってくださいね」
「……はい‼︎」
初対面の人にも応援され、芹は一層気合を入れた。京の隣に娘としてでなく、一緒に居続ける為に……
「私……お母さんと話してきます」
お店を出て、芹は菜由にそう告げた
「そう……ちゃんと自分がどうしたいか話してきなさいね」
「はい!」
芹は小走りで自分のマンションへと走っていった……
「……私も帰ろっと」
菜由は帰り道、昔の事を思い出していたーー
♢ ♢ ♢
ーー私は少し年の離れた兄さんが大好きだった
学生の頃、「菜由のお兄さんカッコいいよね!妹とか羨ましいー!」なんて言われたこともあった
……私からすれば、あなたたちの方が羨ましい……
私は妹……兄さんとは結婚出来ないのだから……
だから……香織さんと付き合い始めた時は辛かった……
昔は色んな女の子に手を出してた兄さんだけど、誰か本気で愛してた様子はなかった
だから……兄さんが本気で愛してた香織さんのことが大嫌いだった。裏切った香織さんが大嫌いだった……
彼女のせいで……私と兄さんは一度壊れた
でも……そんな時だった
「……面倒くさいなぁ」
菜由はとある事情により、市役所を訪れていた
「えっと……あ、二階にあるのか……」
案内を見て、二階に登る菜由
「あ、すいません!」
目的の場所に到着し、役員の人に声をかける菜由
「あ、はい!いかがなさい……っ!」
菜由が声をかけた役員は菜由の方を見て固まっていた
「えっと……どうかしました?」
固まって動かない男の役員を心配する菜由
「……美しい」
「……へっ?」
あまりの唐突な言葉に変な声が出てしまった……
と、またも唐突にその男の役員は手を握ってきた
「お、お名前をお聞かせいただいても?」
「い、いやぁぁ‼︎」
握られた手を振り払い、人目もはばからずに大声で叫んでしまった
皆の目線がこちらに向いた。周りもざわつき出した
だが、その男はそんなことを気にするそぶりも見せなかった
「すいません……自分から名乗るべきでした」
振り払った手を再度握りしめられ……
「中畑 鷹斗と申します。よろしければ……僕とお友達からでもいいので仲良くなって頂けませんか!」
周りから注目を浴びていたこともあって、そのフロアにいた全員がヒソヒソし始めた
「わ、分かりましたから!は、離して下さい‼︎」
「本当ですか⁉︎あ、ありがとうございます‼︎」
周りの目に耐えきれず、私は思わず返答してしまった……
♢ ♢ ♢
「ーー出会い方は変で最悪だったなぁ……」
でも、鷹斗と出会えたおかげで、壊れた自分を修復することが出来た。壊れた部分をくっついたのは鷹斗のおかげだ
ーーまだ兄さんは壊れたまま……でも、少しずつくっついてきてる……私は、壊れた部分をくっつけてくれているのは、芹ちゃんだって確信してる……
そして……完全に修復出来るのも、芹ちゃんだけだって信じてる
「兄さんのこと……よろしくね。芹ちゃん」
菜由は歩みを止め、携帯を取り出してメールを送った。文章はこうだ
〈……ありがとね〉
ーー十秒しないうちに返事が来た
〈どういたしまして!〉
「ふふっ……なんのことかわかってないくせに」
菜由は携帯をポケットに直して歩き始めた
「……今日はご馳走にしてあげようっと」




