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俺に告白してきたのは元カノの娘でした  作者: 三折 佐天
第十章 変わった日常2
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第68話 どっちにするの……?



午後3時。この時間帯は、弁当屋にほとんど客が来ることはない。弁当屋の忙しい時間帯はお昼、そして五時〜七時だ



客足が少ない時間に香織は少しの休憩を入れ、再度店番に立った



「あ、いらっしゃいませー……あ」

「……あ」



足を運んだのは、菜由だった



今日はやけに知り合いに会う日だなぁ……と、香織は心の中で思った



「……焼肉弁当。あとのり弁とハンバーグ弁当」

「……合計で2120円になります」



菜由はぴったりお金を出した



そして弁当の入った袋を持ち、何も話すことなく帰っていった……



「……はぁ」



数日一緒に暮らしたが、表面上何もわだかまりのないように取り繕っていたが、やはり菜由は香織のことを許してはいない……ましてや誰も見てない今の状況で、わざわざ話すことはしなかった



「……私のせいだから仕方ないよね」



菜由が来た後、約一時間、客が来ることはなく、ただひたすら時間が経つのを待つ香織。忙しいのは困るが、暇すぎるのはもっと困る



と、そこに新たな来客が……



「あらー。香織さんじゃない!」



買い物袋を持ち、濃い化粧に鼻がつーんとしそうになるぐらいキツイ香水の匂いが漂う少し太った中年女性がやってきた



「ああ……片桐さんですか」



片桐(かたぎり) 久美子(くみこ)。栁内家の隣に住む独り身の女性だ



「あなた……こんなところでバイト始めたのねぇ」

「ええ。お金が必要だったので」

「あらぁ……仕事始めたなら教えてくれたらよかったのにぃ」

「わざわざ教えるほどの仲じゃないでしょう」



嫌味ったらしく絡んでくる。それには理由がある



「……ねえあなた……まさかまだ京に手を出そうだなんて……考えてないわよね?」



そう……この人は自治体内でもかなりの京愛好家なのだ



「そんな事考えてないですけど」

「あらそう?なら早くあの家から出て行って頂戴?私の(もの)と私の間に入って不愉快だから」



長年、京の隣の隣に住み続ける久美子は突然隣に入居してきた栁内家の二人を疎ましく思っているのだ



「嫌です。私達は家賃を払ってあそこに住んでるんです。あなたにとやかく言われる筋合いはなので」

「なっ……!あなたいい加減にーー」

「それと、京ちゃんならもうすぐ引っ越しますからね」

「……へっ?」



間抜けな顔を晒す久美子



「あれ?もしかして知らなかったんです?私の(もの)なんて抜かしておいて?」

「し、ししし知ってたわよ‼︎」



明らかに動揺していた。どうやら本当に知らなかったようだ。……と、そこに新たな来客が……



「あ、いらっしゃいませ」

「あれ?香織か?」

「……京ちゃん?」



来たのはスーツを身に纏った京だった



「なんだ。お前ここでバイトしてたのか」

「そうよ。というか帰るの早くない?」

「商談終わったら直帰していいって言われたから、ちょっと早く終わったんだよ」

「なるほど……そういうことね」



と、ここで香織は久美子が固まっていることに気がついた



「あ、そうだ。この人が京ちゃんに話があるみたいなんだけど、聞いてあげてくれない?」

「ファッ?」

「話?……別にいいけど」



突然の香織からのパスに驚く久美子



「ほら。早く話しなよ」

「あ……えっと……」

「……?」

「ひ、久しぶり……」

「……えっと」



京は少し苦笑を浮かべながら言い放った



「……会ったことありました?」



この言葉は久美子に大ダメージを与えた。約十年近く、京の隣の隣に住み続けたのに、存在を認識されていなかったのだから



「……な」

「……な?」

「なんでもないわよぉ‼︎」



と、言い残し、体型からは想像できないスピードで走り去った……



「……何だったんだ今の……」

「グッジョブ。京ちゃん」

「は、え?何の話?」



スッキリ爽快の香織。何が起こったか理解出来ずにモヤモヤする京だった



「何でもないの。あ、注文聞くね」

「ああ……うん。えっと……唐揚げ弁当一つ」

「唐揚げ弁当ねー。500円になります」

「……はい」



と、京はぴったり千円札を出した



「あんまり無理して働くなよ?」

「そんな訳にはいかないよ。京ちゃんへの借金も返さないとだし」

「だから返さなくてーー」

「だからダメ。京ちゃんのそういうところは良いところでもあるけど、悪いところでもあるよ?貸したものはちゃんと返して貰わないとダメ」

「……借りた側がそれ言うんだな」

「うっ……おっしゃる通りです……」



お弁当を袋に詰め、お釣りの500円を手にする香織



「はい。お釣りの500円」

「ん。ありがとう」



お互い手を出すが、香織は500円を握った手を緩めない



「……ねえ京ちゃん」

「ん?どうした?」

「どっちにするの?」

「どっちって……何の話だ?」

「とぼけないで。()()()()()()()()()



香織の「聞いてたんでしょ?」というのは、香織は白瀬を。菜由は芹を応援するという話のことだ



「どっちにするの?」

「……」



悩む様子を見せる京



「……俺は、香織を選ぶって言ったら?」



真剣な表情で香織を見つめる京。だが、香織の答えは決まっていた



「私にあなたは荷が重い。だから遠慮するわ」



と、返答した。その返答に京は笑いながら言った



「……そういうと思ってた」



握った拳から500円を無理やり取り、お弁当の入った袋を持って、京は振り向くことなく帰っていった



「……私を選ぶ気なんてないくせに……変な嘘つかなくて良いっての……」



流れる涙を拭い、香織は仕事に戻るのだった……

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