第67話 香織の仕事っぷりは……?
「ありがとうございましたー!」
駅前にあるお弁当屋さんで、美しい女性が店番をしている……そう噂され出したのは約一週間前ーー
「姉ちゃん!唐揚げ弁当一つ!」
「はーい!唐揚げ弁当ね。えーっと……500円ね!」
愛想が良く、対応もしっかり出来る。男達が噂を聞きつけ、その弁当屋に通うまで時間はかからなかった
お昼の時間。わざわざ会社を抜け出してきているのか、スーツ姿の男性、作業着姿の男性で列が出来ていた
そして何を隠そう……この長蛇の列を生んだのは、香織だった
京へお金を返すために働き始めた香織。雇われてから二週間。最初は一日、数十人程度の客を捌くだけだったが、噂のせいで店が大繁盛。このせいで香織は店主から崇め奉られていた
「……ふぅ。お昼休みの時間終わったぁ……」
ピークの時間を過ぎて、客が店の前からいなくなった。集中の糸が切れた香織は一つ息を吐いた
「お疲れ様。香織ちゃん」
「あ、店主。お疲れ様です」
店主は五十代の女性で、元々夫婦で経営していたのだが、そこに雇われる形で入ったのが香織だ
「休憩するかい?お茶でも入れてあげるよ?」
「あ、いえ。まだ大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「そうかい?休みたくなったら言いにおいでな?」
「はい!ありがとうございます!」
と、腰を曲げながら店の中へと戻っていった。香織は少し手元を整理していると、新たに客が来た
「いらっしゃいまーー」
「どうもどうもー!香織さん、久しぶりですねぇ!」
「ちょっと!あんまり大きな声出さないで下さい!」
「芹ちゃんの叱る声の方が大きいよ……」
店に来たのは、スーツ姿の芹と白瀬だった
「いらっしゃい二人とも。それより昼休みはもう終わってるはずよね?サボり?」
「そうなんです!芹ちゃんったら二人きりになりたいからって強引に私を連れ出してーー」
「違うよ!私と香奈宮先輩だけ、休憩時間がズレたの!」
必死に訂正する芹。白瀬と芹。どちらの言葉が本当なのか……それは聞かずとも、芹の言っていることが正しいのは誰でも分かった
「二人とも何買うの?」
「うーん……香織さんのオススメで!」
「あ、じゃあ私もそれで」
「はーい。それなら……芹にはこれ。鶏めし弁当」
芹にチョイスしたのはご飯の上に大きな鶏肉が置かれた弁当だ
「で、白瀬さんはこれ。特性天ぷら御膳」
沢山の種類の天ぷらが入った弁当。芹の弁当よりも、一回り大きな箱に入っている
「じゃあ私はお母さんが選んだこれで」
「はーい。白瀬さんは?」
「あの……私のだけ高くないですか?」
芹の鶏めし弁当は400円。対して白瀬のお弁当は1600円もする
「量も多いからね。それぐらいするよ」
「……私、昼はあんまり食べなーー」
「オススメって言ったよね?」
「……あぁ!もう分かりましたよ!買えばいいんでしょ⁉︎」
「まいどあり〜♪」
芹は財布から500円玉を、白瀬は2000円を出した
「100円と、400円のお釣りね。ありがとうございましたー!」
知り合い相手でも、「ありがとうございました」とちゃんと言う香織
「お母さん。また後で。仕事頑張ってね」
「うん。芹も無理しない程度に頑張ってね」
「あ、私も無理しない程度に頑張りますね!」
「はーい」
「雑っ⁉︎返事が雑っ⁉︎」
二人は袋を片手に会社へ戻っていった
そして五分後ーー。新たに客が店に足を運んだ
「いらっしゃいませ……って瑠奈さんじゃないですか」
「久しぶりー。元気してた?」
今度は瑠奈が店にやってきた
「何かお話でも?」
「いやいやー。今日は冷蔵庫に何もなかったからお弁当買って帰ろうと思って寄っただけだよ」
「……そうですか」
そこからしばらく無言で、瑠奈はお弁当を選んでいた
「あの……」
「ん?なに?」
「……ありがとうございました」
「え、何の話?」
急な感謝に戸惑う瑠奈
「瑠奈さんが美穂さんの電話のことを伝えてくれたおかげで、私はまた、この街に戻ってくることが出来ました。……本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる香織
「あー……まあでも私は伝えただけだから。何もしてないのと一緒だよ。だからそんなに感謝されるいわれはないよ」
少し気恥ずかしいのか、頬を人差し指でポリポリと掻いた
「あ、私こののり弁当にしよっと」
「のり弁当ですね。600円です」
「はい。ちょうどね」
お金を渡し、お弁当の入った袋を持った瑠奈
「あの!」
「……今度は何?」
香織は帰ろうとする瑠奈を呼び止めた
「……今度、お礼にご飯。連れて行きますね」
香織はニコッと微笑んだ
「……暇だったらね」
とだけ言い残し、瑠奈は帰っていった
「……ありがとうございましたー!」




