第6話 ストーカー……?
「まさかうちの会社の新入社員とはな……」
「私もびっくりです」
現在17時。長々と続いた入社式を終えた2人は会社内にある自販機の椅子に座っていた
「そういえばお前はどの部署所属になったんだ?」
「第2支部です」
「マジかよ……俺と同じじゃん……」
会社の後輩どころか部下になった芹。翌日からの新人研修は京がやることになっていた
「てことは俺がお前に教えるんだよな……はぁ……」
「ちょっと!なんでそんなに嫌がるんですか!」
「いや……別に」
ただでさえ一時的とはいえ一緒に暮らしてずっと心臓バクバクしているのに仕事場まで一緒だと安息の地がない
もしかしたら鼓動の早すぎで心配停止するかもしれない……
「……他に第2支部に所属する子はいる?」
「私ともう一人。男の方が配属されるみたいです」
「そうか……じゃあ助かった……」
「助かった?」
思わず口が滑ってしまった京。少し何か怪しいものをみたかのようにじぃーっと見た
「こ……この前十字のネックレス買ったんだよ!俺って十字架のことを数字の〈タス〉って言うからさ!〈タス買った〉って言ったんだよ!」
「そうなんですか?変な言い回しするんですね……というか今の流れ的にネックレス関係ないですよね?」
「ふ……ふと思い出しただけ!だけだから!」
「……そうですか」
無理矢理な言い訳でなんとか誤魔化せたようだ
「よう京!お疲れ様!」
同僚である篤が京に話しかけてきた
「ってその子……新入社員の子だよね?」
「そうだよ」
「……なんで一緒にいるの?……まさかお前!もう手を出したのか⁉︎」
「んなわけねーだろ!大体なぁ----」
女が嫌いであることを打ち明けそうになったがギリギリ踏みとどまった
「とにかくお前が思ってるような事はしてない!……ってかお前なら分かるだろう?」
「まあそりゃそうか。お前ならありえんわ」
実は京が女嫌いであることは家族以外は篤含め、数人しか知らないのだ
「っと話してる場合じゃなかった……社長に呼ばれてたんだった……それじゃあな!」
篤はそう言い残して近くにあったエレベーターに乗ったのだった
「はぁ……全くあいつは……あ、今のやつは覚えなくていいからな。部署が違うから関わることはないから」
「わかった……覚えないでおきます」
おお……冗談のつもりだったんだが……意外と残虐だな……
「あっ!先輩ここにいたんですか!探しましたよ!」
京にまた新たな訪問者が現れた。朝一緒に出勤してきた白瀬だった
「あれ?この子は確か……」
「ああ。ほらっ……同じ部署の先輩になるからちゃんと自己紹介しとけ」
「は……はい。えっと……やな----」
「あー。言わなくていいよ!あなたの事は全部知ってるから!」
「そうなんですか……えっ?全部?」
入社式で自己紹介しかしていないのに全部知ってると言った白瀬
「栁内 芹。誕生日は8月24日の乙女座で血液型はO型。身長は153㎝に体重は40kg」
「ちょっ!」
「スリーサイズは上から7----」
「わぁー!わぁーーーー!やめてください!」
事細かに芹の個人情報を吐き出す白瀬
「な……なんでそんなに私のこと……っ!私……名前しか言ってないです!」
「だって調べたからね!」
調べた?なぜ?どうやって?
「私は栁内さんのこと知ってるけど栁内さんは私のことなんにも知らないよね!それじゃあちょっと可哀想だから教えてあげる!」
白瀬は芹に自己紹介を始めた
「私は香奈宮 白瀬!先輩と出会ってから四年目の26歳で先輩のストーカーだよ!よろしくね!」
なにかがおかしいと芹は違和感を感じた
「す……すいません。……もう一回教えてもらっていいですか?」
「もう一回?社会人になったんだからちゃんと一回で聞き取れるようにしなよ?……ゴホンッ……じゃあもう一回……私は香奈宮 白瀬!先輩と出会ってから四年目の26歳で先輩のストーカーだよ!よろしくね!」
もう一度自己紹介を聞いて芹は京の方を見た。京は少し呆れた顔で口が引きつっていた
「えっと……ストーカーしてるんですか?」
「してるよ!」
「誰のです?」
「京先輩の!」
「いつからですか?」
「四年前から!」
つまり出会った当初からストーカーしていることになる
「ちょっと京さん!この人……この人おかしい!」
比較的静かな性格をしている芹があまりの意味不明さに冷静さを欠いたのか、大きな声で……ましてやこれから先輩となる人の事を侮辱していた
「京さんのストーカーですよ⁉︎警察に電話しないと!」
「んー……でも今のところ一回カバンの中に下着入れられたぐらいで実害はないし……」
「実害あるじゃないですか!」
「まあ生活の邪魔になるようなことはされてないし……オッケーかなって」
「オッケーかなって……」
「ふっふっふ……諦めなさい栁内さん!私は自他共に認めるストーカーなの!」
自他共に認めるストーカー……そんな事が……そんな言葉がこの世に存在することに芹は驚きを隠せなかった……