第62話 芹の怒り……?
ワイドショー放映から4時間後。芹が中畑宅へ帰ってきた。既に時雨と香織も帰宅しており、帰ってきていないのは鷹斗だけとなった
「……おかえり。芹ちゃん」
「あ……ただいまです。えっと……京さんは?」
「そこの部屋にいるよ」
と、菜由は部屋の場所を指差した
「おかえり。仕事お疲れ様」
「はい。ただいまです」
少し沈黙が流れる。そして会話の口火を切ったのは京だった
「白瀬はどうなった?」
「……実はあれから一度も見てなくて」
「……そうか」
テレビのインタビューが長引いていたのか、はたまた何か会社側から違う仕事を任されていたからなのかは分からないが、芹の前に白瀬が姿を現すことはなかったという
「……香奈宮先輩はどうしてあんな嘘をついたんでしょうか?」
「……分からない」
すると、京はポケットに入れた携帯が鳴った。相手は……白瀬だった
「もしもし!お前大丈夫なのか⁉︎」
『うん?何がです?あ、それより私に連絡入れるなんて、もしかして愛の告白ーー』
「ふざけてないで答えてくれ!」
『……さぁどうでしょう。大丈夫かもしれないし、ダメかもしれません』
曖昧な答えが返ってきた
「こっちは真剣にっーー」
『私も真剣に答えてます』
真剣なトーンで答える白瀬。京も白瀬がふざけた回答をしたわけではないと察した
「……どういうことだ?」
『まだ分からないんですよ。上手くいったのか……明日にならないと私にも分かりません』
明日にならないとわからない……この言葉の意味を京は理解した
「明日のワイドショーでどう放映されるか……ってことか?」
『察しが良いですね。その通りです。私はあの後、インタビューを受けたんですが、それをどう捉えているか……本当だと信じて撤退するのか、デマだと考え、まだ京先輩を探す事を続行するのか……』
その答えが得られるのは明日のワイドショーが放映されるまではわからない……その為、白瀬は明日にならないとわからないと答えたのだ
『上手くいかなかったらすいません。でも、出来る事はやったつもりです』
「……お前に頼りっぱなしで悪いな」
『良いんですよ。私が好きでやってることだし、それにまだ18歳の芹ちゃんに負担をかけさせる訳にはいかないですからね』
「……ふざけないで下さい‼︎」
電話越しに話を聞いていた芹が京から強引に携帯を奪った
『せ、芹ちゃん?』
「いつもいつもそうやって香奈宮先輩は自分の事を軽視しすぎなんです‼︎私や京さんのことになったら身体張って……今回だってそうです‼︎噂のイケメンと付き合ってるっていって顔出しして……それでもし誰かが香奈宮先輩を羨んで……憎んで……侮辱して……最悪、殺されたりするかもしれないんですよ‼︎」
芹の言うことは決して大袈裟ではない。京の姿を見たことない人達からすればどうということはないが、駅で目撃した者、タクシーに乗った京を目撃した者達ならば、殺意が湧いてもおかしくない。実際問題、自治体内に芹と香織に殺意を持つ者も少なくない
……嫉妬に狂った者は殺しだってする。それが人間だ
「少しはっ……!自分の身を守ろうとして下さいっ……!」
芹は涙ながらに言った
『……分かったよ。芹ちゃんがそこまで言うならね』
「……わかれば……いいんです」
芹の叫びは白瀬の心に届いたようだ
『でも、今回の件はもう後戻り出来ないから、私に任せてほしい。自治体内でも話し合いを進めて何とかするから』
「……分かりました」
『じゃあ京先輩に代わってもらっていい?』
芹は携帯越しで見えないと分かっているが、コクリと頷き、京に携帯を返した
「……本当は芹じゃなくて、俺がお前を怒るべきだったんだけどな」
『……芹ちゃんには頭が上がりませんね』
「だな。本当に……何から何まで……助けてもらってばっかりだ」
『ふふっ。女の子に助けられる男……それもまた良いと思いますよ?それだけ京先輩は好かれているということですからね』
嬉しいことだが……情けない。一回りも年下の女の子二人に助けられてばっかりで……
『……撤退、してくれるといいんですが……」
「……そうだな。これ以上他の人達にも迷惑かけられないしな」
『でもですね、以外とみんな喜んでるんですよ?』
「なんで?」
『赤坂京の役に立つことが出来るー‼︎って』
「ああ……そういうこと……」
ほんの少し。間接的に役に立てるだけで喜ぶのだから、もし京と結婚なんてした暁にはその場で昇天してしまうのではないだろうか……
『……明日、また連絡入れますね』
「ああ。……お前ももう無茶するなよ?」
『分かってます。芹ちゃんの願いを聞かない訳にはいかないので。……それではまた明日』
と、白瀬からの電話はそこで切れたのだった……




