第60話 出回ってしまった情報……?
「……暇だな」
「……暇だね」
京と菜由は畳の敷かれた部屋で二人寝転がっていた
共同生活を送り始めて一週間が経った。未だに京の部屋の前からテレビ関係者が減らず、ずっと張り込んだ状態だった
もちろん、マンション内から追い出せとの声が上がってはいたが、テレビ関係者達は騒がしくせずに、邪魔にもならずにただひたすら待ち続けていた為、住民達からも文句が言いづらくなっていた
芹と鷹斗は仕事へ。時雨は保育園に。そして香織は、パートの面接に向かった
京は香織に、お金は返さなくていいと言ったのだが、「それはダメ。時間はかかるけど必ず返す」といって引かなかった。そのお金を稼ぐ為に、パートの面接に向かったのだ
そして家に残されたのは、京と菜由の二人。家事はいつも菜由一人でやっていたのだが、京が手伝ったことで早く終わりすぎてしまい、暇になるのだ
「……兄さん。面白い話してよ」
「それ、最悪のフリだからな?」
「じゃあ何か面白いことして?」
「それは無茶なフリだな」
たわいもない会話を繰り広げながらただただ時間が流れていく
「テレビは?」
「ワイドショーか、再放送のサスペンスドラマか、不倫系のドラマしかやってない」
「どれも菜由の嫌いなやつだな……」
「バラエティーでもやってたらなぁ……」
菜由はドラマなどでドキドキウキウキするより、お笑いなどで笑う方が好きなタイプだ
「……とりあえずテレビつけてみたら?何かいいのやってるかもしれないし」
「うーん……まあいいけど……」
菜由はリモコンを手に取り、テレビをつけた
「んー……やっぱり面白いのやってないね……」
「だな……ん?……これって」
とあるワイドショーで、見覚えのある景色が広がっていた
「あれ?ここってすぐそこだよね?」
左上に生放送と表示されている。ということは、今、そこにテレビ局の人達が集まっているということだった
『こちら、○○街に来ております!えー、噂の男性ですが、一週間程張り込みをしていましたが、まだ見つかっておりません』
マイクを持った男性がスタジオのアナウンサーに向けて返答していた。噂の男性とは京のことで、ネットでは『美の神』やら『交通不便を起こさせた美の化身』やら『彼がいれば、世界から争いが消す事が出来るほどイケメン』やらで京の存在が広まり始めている
ただ、名前が分かっていない事と、顔自体を撮られていないので、ネットに画像が出回っていない事で、信憑性に欠けることから、『その話自体が嘘なのでは?』『そんな男は存在するわけがない』との声もあがりはじめていた
このまま情報が全く集まらないままいけば、時間が解決してくれるかもしれない
そして、京の情報が全く出回らないのは、赤坂京保護自治体が総出で根回ししているおかげだ
こればかりは感謝しかないと思う京だった
『家には帰ってないと?』
『それがですね、ちょうど私達と入れ違いで引っ越したとの情報が入っております』
これも自治体が流したデマ情報だ
『あ、そうなんですか!では、なぜまだそこで張り込みを?』
『引っ越し先の情報がなく、完全に見失ってしまいまして……もしかするとまだ何か用事で戻ってくるのでは?と思い、張り込んでいたんですが……結局戻ってくることはありませんでした』
『あーなるほどーー』
「……聞いてる限りだと、どうにかなりそうだね」
「そうだな」
「……でもあの部屋は引っ越した方がいいかもね」
「うーん……居心地良かったんだけどなぁ」
少しでも見つかる可能性を考慮すると、引っ越しはやむを得ないかもしれない……ただ、この街から出ることは出来ないが……
『ーーですが!その噂の男性の隣に住む女性の情報が手に入りました!』
マイクを持った男性から不穏な言葉が出た
隣に住む女性……ということは、芹か香織の情報がバレてしまったのだ
『とある中年女性からの情報なのですが、隣に住む女性のえー、娘さんの方と噂の男性が付き合っているそうです』
自治体は、あくまで京を守るために作られたもの。芹と香織は保護対象外であり、ましてや他の女性と比べても明らかに京との距離が近い二人。そんな二人を疎ましく思った女性が与えた情報だった
「名前とか明かされたわけじゃなくて良かった……」
「そうね……これぐらいならバレても平気ね」
「てか、付き合ってないんだけどな……」
「まあまあ。遅かれ早かれ芹ちゃんと付き合うことになるって!」
「お前なぁ……」
『そしてその女性の勤めている会社が判明したので、今から向かいたいと思います!』
「はあ⁉︎」
京は思わず声を上げた。今に始まったことではないが、あまりに人のプライベートを無視するテレビに対しての怒りの声だった
今放映されているワイドショーは炎上覚悟で相手のプライベートのことも考えずにテレビ放送する有名な番組。今回も芹のことも考えずに生放送で芹の顔を全国に晒そうとしていた
「絶対許せない‼︎」
京は立ち上がり、部屋を出ようとする
「待って!兄さんが出たらダメ‼︎」
「そんなことーー」
「今、兄さんがテレビの前に出たら、他の人達の頑張りが無駄になる‼︎」
「うっ……」
京の足が止まった
「……我慢して。お願いだから」
「……くそっ!」
何も出来ない自分に、そして自分のせいで芹に迷惑をかけてしまっていることに京は苛立ちを隠せないでいた
「とりあえず、会社に連絡して。仕事中の人達は多分テレビ局達の人が来ることを知らないと思うから。電話を入れて、なんとか対処してもらうしかないよ」
「……分かった」
京は急いで社長に電話をかけた……




