第58話 三人の会話……?
「あ!おじさんだぁ!」
「おう久しぶりだな時雨。元気してたか?」
「うん!」
鷹斗が時雨を保育園から連れて帰ってきた。四歳児というだけあって自由奔放で元気だ
「ねー今日なんでいーっぱい人いるの?」
「色々あってね。しばらくここにいることになったんだよ」
「え!しばらくいるの‼︎やったー‼︎」
可愛らしくぴょんぴょん跳ねる時雨
「ねーねーおじさん!遊びに行こうよ!」
「えっ?あー……」
「ダメよ時雨」
と、そこに仲裁として菜由が割り込んだ
「おじさんは今、外にでちゃダメなの」
「えー!なんでぇ!」
「おじさんはね……今、悪い人に狙われてるの」
とまあ、あながち嘘ではない嘘を息子に吹き込んだ
「ええっ!おじさん殺されちゃうの?」
「い、いやそこまでのことじゃないけど……」
目元に涙を溜める時雨。痛い……そのピュアな目線で見るのやめて……
「だから時雨?遊ぶなら家の中で遊んでもらいなさい」
「うん!分かった!」
そういうと、時雨は京の手を引き……
「ゲームしよ!」
と、二階へと上がっていった……
「さてと、晩御飯の準備しますか」
「あ、すいません菜由さん」
「うん?どうしたの芹ちゃん?」
「実は……作りたいものがあって……」
芹は昨日の晩御飯時の話をした
「ふーん……まあいいけど。あ、でも挽肉ないなぁ……鷹斗、買ってきて」
「……はい」
鷹斗は反論することなく、靴を履き替え、外へ出た
「あの……足で使いすぎじゃ……」
「いいのいいの。いつもは本当に何もしないし、匿おうって言い出したのは鷹斗だしね。その条件に何でもするって言ってたんだから問題ないわ」
鷹斗は京のことを信頼し、憧れていた。その為、今回の京の危機に馳せ参じたのだ
「じゃあ帰ってくるまで少し話しましょうか」
リビングのソファーに座り、香織と芹も対面のソファーに座った
「……ずっと前から思ってたけど、香織さん」
「……なに?」
「なぜ、また兄さんの前に現れたんですか?」
菜由はお茶を一つ啜ってから言った
「……たまたまだよ。たまたま引越し先に京ちゃんがいて、たまたま隣に京ちゃんが住んでただけだよ」
香織は何もやましいことは無いように言った
「……そうですか。ならいいんですが」
菜由は手に持ったお茶を机に置いた
「ただ、もう兄さんに手を出すのはやめて下さい。あなたのせいで兄さんは壊れました。……だから私は、あなたを許す気はありません」
「……」
菜由と香織の間には冷たい空気が流れていた。芹はおどおどしながらも軽くお茶を啜った
「……許されるなんて思ってないよ。……でも菜由ちゃん。心配することないよ」
香織も机の上に手に持ったお茶を置いた
「私、もう京ちゃんのことは諦めてるから」
菜由と芹は驚いた顔をしていた
「……私ね。迷惑かけ過ぎたの。昔の事もだし、今も迷惑かけてばっかりで……。私に京ちゃんと結ばれる資格なんてないの。だからね……私は手伝うことにしたの」
香織は芹の方を見て言った
「私は……京ちゃんには、白瀬さんが相応しいと思ってるの」
香織は芹ではなく、白瀬の手伝いをすることを宣言した
「あの子の京ちゃんへの想いは本物よ。あの子なら……必ず京ちゃんを幸せに出来る……私は確信してるの」
自身の考えを芹に示す香織。芹は黙ったまま香織の話を聞いていたが、ここで口を開いた
「……想いで負けてるつもりはないよ。私が香奈宮先輩に劣ってるとしたら……それは京さんと知り合った期間だけだよ」
と、芹も自信を見せた
「……芹はまだ若いんだから、もっと若くていい子を探すべきよ」
「若いのは白瀬さんも同じでしょ?それに、私は歳なんて関係ないって思ってる」
「……京ちゃんと付き合うなら他の人達からの嫉妬の目とか気にしないといけないのよ?」
「そんなのどうでもいい。どう見られようと気にしないし」
香織の言葉には応じず、自分の意思を示す芹
「……変わったわね」
「そう?あんまり変わってないと思うけど?」
「いいえ。すごく変わったわ……」
香織は一つ息を吐き……
「正直言うと、私の元カレと娘が付き合うってなんかモヤモヤするけど、本当に好きなら芹も頑張りなさい」
「……お母さんに言われなくてもそうするつもりだよ。悪いけど、京さんのことになったら、私はお母さんの気持ちなんて無視するからね」
「……それでいいのよ」
そして二人とも言いたいことを言い終わったのかお茶を啜り……
「あ、菜由さんごめんなさい!私達だけで話しちゃって……」
「いえ、いいんです。……芹ちゃん」
「……はい?」
菜由は立ち上がり、芹の後ろに回り込み、芹の肩に手を置いた
「私は、あなたに協力するわ」
「……!本当ですか⁉︎」
「ええ。私はあなたが兄さんに相応しいと思う。さっきの言葉を聞いて私はそう思ったの。だから協力させて」
「こちらこそ!ぜひお願いします!」
白瀬には香織が。芹には菜由がついた
「……めっちゃ入りづらいんだけど」
リビングの外から京が中の様子を伺うようにしていた
「充電器取りに来ただけだったのに……あんまり聞かない方が良かったな……」
入るタイミングを失った京はこっそりと上に戻っていく
「……いい加減、俺も決めないとな……」




