第49話 とある昔の約束……?
「……ねえ京ちゃん……ねえってばぁ‼︎」
昼寝をしていた所を横に大きく身体を揺さぶられた
「……んあ?なんだよ……今寝てたのに……」
「寝てる場合じゃないよ!ほらっこれみて!」
目の前の女性は手に持った紙を見せた
「見てって……これ明日だろ?」
「違うの‼︎今日なの!私が勘違いしてて、本当は今日なの!」
紙に表記された日付を見ると、確かに今日だった。それも……一時間後だ
「やばいじゃん!」
京は身体を飛び起こした
「えっとー……ここから何分かかるんだっけ……」
「30分ぐらいだったはずだよ。だから急いで準備済ませて行かないと!」
今から行こうとしているのはとあるコンサートをしている会場。一日限定であと一時間以内に入場しなければならなかった
「私もすぐに準備終わらせるから、京ちゃんも早くしてね!」
「分かってるって。まあ俺は着替えるだけだしな」
タンスから服を引っ張り出した。今は夏なので涼しい格好
に着替えた
「おーい、終わったぞ」
「ちょっとだけ待って!すぐメイク終わらせるから!」
普段は30分程かかる彼女のメイクだが、時間短縮の為か、何手順か飛ばした軽いメイクを施しているようだった
「ーーーーよしっ。これで大丈夫かな……京ちゃん終わったよー!」
「よしっ!じゃあ行くか!」
アパートから出て、借りているガレージに向かった。そしてガレージから黒い軽自動車を出した
「結構余裕をもって出られたね……この時間ならゆっくり行っても大丈夫だよ」
「だな。安全運転でいくわ」
「急いでる場合でと安全運転でお願いね。京ちゃんに死なれたら困るからね?」
「分かってるよ」
車内で途切れることなく会話を続ける二人。そして、目的地であるコンサートホールに到着した
「チケットを拝見します」
「えっと……はい」
チケットを受付をしていた女性に手渡した
「お客様は右側の道にある扉からお入り下さいませ」
案内された道を辿り、扉を開けると膨大な広さの誇る空間が目の前に広がっていた
大きな舞台に大量の座席。そして大勢の人。ただ人がたくさんいるとは思えないほど静かだった
「席は……ここだな」
「結構前の方だね。真ん中だし、見やすそう!」
「そうだな。結構良い席が取れたんだな!」
既に座っている人達の前を通り、自分達の取った席に座った
「はー!やっとこの時が来たねー!」
「ずっと待ってたもんな」
「そりゃそうだよ!三ヶ月も待ったんだもん!」
今回のコンサートは大人気で、彼女もずっと応募をしてきて、当たらなかったのだが、今回ようやく当てることが出来た。それもあって彼女は当たった日からずっとソワソワしながら生活していた
……まあそんな大事なコンサートの日程を勘違いしてたのも彼女らしくはあるが……
ーーーーしばらくすると舞台の幕が上がり、広大な空間内から人の声が消えた。聞こえるのは舞台上から鳴り渡る迫力満点の演奏のみ。力強く、そして美しい……人気と言われていることも頷ける
ーーーー演奏が終了し、コンサートホールから出た二人。二時間ほどの演奏だったが、あっという間だった。それほど聞き入ってしまったのだ
「凄かった……なんというかその……あー!私の思いつく言葉じゃ形容出来ない!それぐらい凄かった‼︎」
車内の助手席で興奮しっぱなしの女性。両手をバタバタさせ、まるで子供がゲームを買ってもらって喜んでいるかのようだった
「まあ確かに凄かったよな。詳しくない俺でも分かるぐらいな」
「お、京ちゃんも分かってくれたんだね!うんうん!」
すごく嬉しそうに頷く彼女。やはり自分の好きな事を理解してくれるのは嬉しいことなのだろう
「また行こうね!」
「次のチケット取れるのか?今回もやっとの思いで取れたぐらいだぞ?」
「今回の人達じゃなくてもいいの!またコンサートを一緒に聞ければそれでいいの!」
「絶対……また一緒に行こうね‼︎京ちゃんーーーー」
ーーーー目の前にはいつもと同じ天井があった
「……久しぶりに夢なんて見たな」
どうやら夢を見ていたらしい。ただ内容は昔の思い出。……香織との思い出だ
「絶対……か。あれから結局行けなかったな……」
約束は守られる事はなく、18年も経ってしまった
「……帰ってきたら連れていってやるか」
昔の約束。香織はもうその約束を忘れているかもしれない。もうコンサートになんて興味がないかもしれない
……それでも、約束したのだから……守らないといけない
「だからさ……探し出してみせるから」
隣で寝ている芹の頭を軽く撫でた
「芹の為にも……自分の為にもな」




