第4話 女の子嫌い治ったの……?
「こんな時間に何の用?もう子供も寝てるんだけど……」
妹が住んでいる家に着いた京。妹は夜遅くに連絡も入れずに家に押しかけたことに若干怒っているようだった
「すまんな。菜由。実は貸して欲しいものがあってな」
赤坂 菜由。今は結婚した為、夫の姓である中畑菜由と名乗っている
「なに?夜遅くに押しかけてきたんだからしょうもないもの借りに来てたら許さないよ?」
京に対してこれほど辛辣に対応するのは妹ぐらいだ。さすがは家族
「えっと……お前の仕事で着ていってるスーツを貸して欲しいんだ……」
「…………」バタンッ
無言で玄関の扉を閉めた菜由
「待って!理由聞いて!」
再度ゆっくりと扉が開いた……と思いきや顔が少し覗き出せる程度だけ開け、厳重にチェーンまで掛けていた
「……なんで貸さないといけないの?匂い嗅ぐつもりなの?」
「嗅ぐか!」
なぜこんなにも女は男が匂いを嗅ぐものだと思っているのだろうか……
「じゃあ何に使うのさ?」
「明日着ていくためだけど?」ガタンッ
またも扉を閉める菜由
「すまん俺が悪かった!今の言い方は誤解招くよな?悪かったからもう一回開けて!」
再度ゆっくりと扉が開く。先程よりもさらに開きが縮んでいた
京は菜由に事の事情を伝えた。隣に新しい人が越して来たこと。その人が明日入社式なのにスーツを持ってないことなどを誤解を招かないように話した
「……そういうことならまあいいよ。新入社員にとって第一印象は大切だもんね」
「ありがとう妹よ。感謝します」
「……スーツ取ってくるから待ってて」
扉が閉まり、階段を上っていく音が聞こえる。どうやら本当に持って来てくれるようだ
「……これでどうにかなったな」
ホッと一息ついた京。これで明日に関してはどうにかなった
待つこと数秒。家の中から階段を下りてくる音が聞こえ、玄関の扉が開いた
「はい。サイズ測ってないけど大丈夫なの?」
「見た目的には相違ないし、大丈夫だと思う」
スーツの入った紙袋を受け取った京
「それにしても兄さんが女の子の為にこんなことするなんて……やっと女の子嫌いが治ったの?」
「治ってないよ。そんな簡単に治ったら苦労してないっての」
「でもその子の為にわざわざこうやって私にスーツ借りに来たんでしょ?」
「……そうだけど」
そういえばそうだ。女嫌いなはずなのに……ましてや恐怖心が他の人より多く起こる相手なのになぜこんなに尽くしているのか……
「兄さんの結婚もそう遠くないのかもね……」ボソッ
「……ん?なんか言ったか?」
「別に……ほらっ早く帰って!見たいテレビの途中だったんだから」
京に帰るようにと催促する菜由は背中を押した
「そのスーツもう着ないからあげるってその子に言っといて」
「分かった。遅くにありがとな」
「次はちゃんと連絡入れてから来てよね」
「分かってるよ。……じゃあな。おやすみ」
「……おやすみ」
ゆっくりと玄関の扉が閉まった。今回のやりとりだけで扉が何回開け閉めされただろうか
帰る道中、紙袋を開けると、スーツ一式分が二着入っていた
「もう着ないというかまだ着てないの間違いだろ……」
そのスーツには値札が付いていた。まだ着たことなかった新品を渡してくれたようだった
「……変なところ素直じゃないよなーあいつ……まあ今度なんか奢ってやるか」
新品のスーツの入った紙袋を持って京は家へと帰った
----家に帰るとかけていないはずの鍵がかかっていた
「あれ?俺鍵かけてなかったよな?」
ポケットをまさぐって鍵を探しているとガチャッと音と共に扉が開いた
「私がいるからって鍵かけていかないのは不用心ですよ?」
ジャージ姿の芹が出迎えてくれた
「あ……ありがとう。たしかに迂闊だったよ」
「それに今日知り合ったばかりの人を一人で家に置いていくのもどうかと思います。もし私が盗人だったらどうするつもりです?」
「う……ごもっともです……」
芹のために行動したはずだったが感謝の言葉ではなく罵倒される始末。なぜこの子のためにこんなに行動してるんだろうか……
「……でも……ありがとうございます。……おかげで明日の入社式に出れそうです」
先ほどの罵倒とは違い優しい口調で感謝の言葉を口にした芹。心なしか少し顔が赤くなっている気がした
「……明日頑張れよ。社会人への第一歩目なんだから」
「……はい。頑張ります」
「その意気だ。……っともう寝ないとな……」
明日に備え、布団に入る二人。電気を消し、部屋は真っ暗になった
「……じゃあおやすみ」
「……おやすみなさい」