第44話 今だからこそ……?
「ーーーーお母さん……どこ行っちゃったの……お母さん……」
「……芹」
栁内家に集まる芹、京、白瀬
芹誘拐事件から1週間が過ぎた。芹は無事に帰ってきたのだが、新たな問題が起こった
香織の消息が掴めなくなってしまったのだ
芹を誘拐したのは陽動するため。本来の目的は香織の誘拐だったようだ
警察にも相談したが、取り合ってはくれなかった。誘拐されたという確信がない。だが、捜索願を出すことは出来る。と返答されてしまった。もしかしたらこれも美穂が圧力をかけているのかもしれない
ちなみにだが、尋は今回の件で会社から解雇されてしまった。元々、未成年の頃に性犯罪で一度逮捕歴があったのだが、社長である父親が尋が更生したと重い、社員として雇ったのだが、今回の騒動で家族の縁をも断ち切ったようだ
捕まらなかったのは、芹が「実害に及ぶことはされてない。だから逮捕までしなくていい」ということだったので、刑務所行きになることはなかった
ただ、次に芹に近づいた場合は即逮捕するという条件付きではあるが……何にしろ、1週間前の誘拐事件については粗方片付いたのだった
「……以前、香織さんの行方は分かりません。ただ分かっているのは……今回の首謀者は東我謝 美穂で間違いないです。美穂さんに電話を入れてみましたが、着信拒否にされていました。他の方々も同様に。おそらく自治体メンバーの電話は全員着信拒否にしているかと……」
香織が消息不明になった日から三人は会社の時間以外は香織の捜索、情報収集に努めていた。ただ、それでも情報はない。分かっているのは美穂が関連していること、そして予測だが、もうこの街にはいないことだけだった
美穂を目撃したという情報がこの一週間で一つもなかった。芹を除くこの街の女性は皆、美穂の顔は知っている。当然だ。自治体の局長なのだから
そんな顔の広い美穂を見ていないということは町外、もしくは県外に出てしまっている可能性が高いという判断だ
「皆んなが嘘をついてその局長を庇っている……とかは考えられないか?」
「……今回の件は自治体内でも〈やりすぎ〉だと言う声が9割方上がっています。数名は嘘をついている可能性は否定できませんが、それでも虚言をしていない人の方が圧倒的に多いかと……」
元々、他の自治体メンバーは芹を排除することで同意したとはいえ、それは京と芹の関係をどうにか策を講じて破断させる程度にしか考えていなかった。つまり、芹を危険な目に合わせるつもりは毛頭なかった
そのため今回の誘拐の件で局長の信頼は墜落。他のメンバーも香織を助けようと白瀬に協力的になってくれていた。中には捜索に手伝う者、県外の者に協力してもらうように手を尽くす者もいた
だが……それでも一向に有益な情報がない……
「……お母さんは……お母さんはなんで……狙われたんですか?」
ショックで伏せていた芹が白瀬に問いかけた
「……これも推測でしかないけど、美穂さんは芹ちゃんより、香織さんの方が京さんにとって大切な存在だと睨んでいるからだと思う……」
白瀬は自身の推測を明かした
「……ちょうど良い機会です。聞いておきましょうか。……京さん」
「……なんだ」
「芹ちゃんと香織さん……それとも私……誰が一番大切ですか?」
白瀬は真剣な表情で問いかけてきた
「今はそんな話してる場合じゃ----」
「いいえ、今だからこそです」
目を逸らさず、眼差しはずっと京に向いていた。いつものおふざけなんかじゃない。本気で聞いていると京は理解した
「……分かった。答えてやる。ただその前に一つだけ、二人に聞いてほしいことがある」
意を決した京は二人に秘密を打ち明ける
「俺は……女性が苦手なんだ」




