第39話 久々登場……?
「……近くないですか?」
「んー?なにがー?」
「……距離が」
「んー……気のせいだと思うなぁ」
香織に芹についての忠告をした次の日。今は会社に向かっている最中だった
白瀬は芹と腕が触れ合う程の距離感で歩いていた
「いややっぱり近いですって⁉︎あと……おかしいです‼︎」
急速に白瀬と距離を取る芹。何か自身に危機が訪れるのではないかと警戒している様子だった
「おかしいって……何が!」
「私の隣で歩いてることです‼︎いつもは京さんの隣を歩いてるじゃないですか!」
いつもの配置だと、真ん中に京。そしてその京を挟んで歩いている二人だが、今日の配置は芹が真ん中で、それを京と白瀬で挟む形になっていた
「気分転換だってー。たまには良いじゃん?」
「やめて下さい。気持ち悪いです」
「辛辣すぎないかな?私そんなに嫌われるようなことした覚えないんだけど……」
明らかに嫌そうな顔をしている芹は京の背中に隠れた
「芹……一応先輩なんだからそんな態度とったらダメだろ?」
「うっ……それもそうですね……一応先輩ですもんね……」
「一応じゃなくて先輩なんだけど……8歳も年上なんだけど……」
前々から先輩扱いされてないことは分かっていたが、それでも少し悲しいものがある
「……はっ!」
芹は何かに気がついたように自身のカバンの中を漁りだした
「……あれ……ある」
「何を探してたの?」
「こんなに近づいてくるのはおかしいから、財布でも取られたのかなって」
「取らないよ‼︎あと、私お金に困ってないから!」
芹にツッコミを入れる白瀬。いつもはボケ担当なのだが、今日に限ってはツッコミを入れることが多い気がする
「……怪しいなぁ。なんか隠してると思うんですよね……」
疑いの目を向けられる白瀬。最近どんどん芹の勘が良くなってきている気がする
「じぃーっ……」
疑いの目がどんどん強くなる。……仕方ない。ここは一発、話題を変える為に大きな種を蒔くとしよう……
「そ、そんなことより芹ちゃん!一昨日私見ちゃったんだよねー」
「一昨日……?って日曜日の話ですか?」
「そうそう。お昼の……2時過ぎぐらいだったかな?とあるお店に一人で入っていくのを見たんだよ!」
「2時過ぎ……?とあるお店……?……ま、まさか……」
芹の顔が若干青ざめた
「見たん……ですか?」
「見る気は無かったんだけどねぇ。でも芹ちゃん。18歳であんな黒のセクシーな下むぐぅ!」
「そ、それ以上言うならこのまま窒息させますよ‼︎」
背後から口に手を当て、喋れないようにした芹。口走る白瀬をなんとか黙らせることに成功した
「ん゛ん゛ん゛ん゛‼︎わかっだ!わかっだがらぁ!」
必死に抵抗し、なんとか芹の腕から解き放たれた口で、約束した白瀬。まさか話題を逸らしただけで、命の危機に陥るとは思いもしなかった
一部始終を見ていた京は仲睦まじい二人を見て少し安心したようだ
ーーーーそのまま芹とべったりくっついて離れないまま、会社に到着した三人。エレベーターに乗り、オフィスに入った
ここからは仕事の都合上、芹と離れることになる。席が芹とは真反対側にあるからだ
どうしても離れてしまう場面はこの場面だけ。ただ、京も前の席に座っているので、何か仕掛けることはない……はずだ
「京さん。ここなんですが……」
「ああ。それはこれがここにきて----」
幸い何か分からないことがあっても、京にしか聞かないので、芹から誰かに話しかけたりはしないだろう
「……あれ?教育係は私だったのに……」
きっと席が遠いせいだ。頼れない先輩だからではない。うん。きっとそうに違いない
----その後も頻繁に芹の確認をしつつ仕事を進める白瀬。普通なら気にし過ぎで、ノルマが終わってなかったりするものだが、仕事だけは出来る女と京から称される白瀬は、いつもよりは時間がかかりはしたが、朝のノルマは達成し、お昼休憩を迎えた
「今のところ、誰か近づいてきてもなかったなぁ……まあでも、そもそもこの会社、あんまり自治体メンバーいないしねぇ……」
この会社は京達の住む街の端っこに位置する場所にある。その為、違う街から出勤してくる人達もいるのだ
自治体メンバーは街の女性全員。その為、この会社には自治体自体あることの知らない人はたくさんいた
街の外から出勤してきている人には、京の情報を漏らさないよう、局長が躾けているので、漏れることはない。どうやって躾けたかって?それは……知らない方がいい。
「ってこんな呑気にしてる場合じゃなかった!芹……芹ちゃんは⁉︎」
芹の机の方を見ると、カバンからお弁当箱を取り出していた。二つも
「二つも持ってきてるの……?食いしん坊過ぎない?」
と、思っていたら、片方を京に手渡した
「……なっ!」
京も遠慮する素振りもなく、弁当を受け取り、弁当を食べ始めた
「……また……またなのね……私のは食べたことないのに……」
白瀬は芹達に近づいていく
「おおー。美味い!出汁が効いてて、冷めてても美味しいな!」
「そうですか?……よかったです!……ってあれ?香奈……あ……、あの状態は……」
「ん?……あ、これはマズイな」
二人は白瀬が近づいてきている事に気がついた。だが、そんなことよりも、白瀬がいつもと雰囲気が違う様子だった
「あれは……」
「ああ。間違いなく……」
白瀬のあの雰囲気……久々の登場だ
「「ヤンデル状態だ!」」




