第3話 同居生活スタート……?
京が作った料理を会話をしながら食べ進めていく。白米に鮭。そして味噌汁に昨日作って余らせた母親仕込みの肉じゃがが並んでいた
「美味しいですね……特に肉じゃがが美味しいです。ジャガイモも柔らかくて、優しい味付けですね」
食べ進める芹は感想を述べた。空腹だったのは明らかだったが、それでもがっついて食べる訳ではなく、しっかりと一噛み一噛みを大事に食べていた
「芹は美味しそうに食べるんだな」
「……?普通にしてるつもりなんですけど……」
(無意識でその顔するのは卑怯だな……俺は恐怖心増したけど、他の男なら落ちてるぞ……)
と、ふと先ほどした質問の返答が返ってきていないことを思い出した
「で、なんでこっちに引っ越してきたの?」
一瞬だけ芹の食べ進める箸が止まった。だが何事もなかったようにまた食べ始めながら喋りだした
「そういえば明日は1日晴れるみたいですね」
あからさまに話をそらす芹。確実になにかいえない事情があるのだと京は理解した
「……別に言いたくないんならいい……無理に聞くような話でもないしな」
「……ごめんなさい」
「謝ることはない。誰しも言いたくないことはあるからな」
京は無理に話を進めずに話題をそこでやめた
「そういえば家の鍵がないんだろ?どうするつもりなんだ?」
芹を部屋にあげた原因の鍵の紛失の話題に切り替えた
「それなんですが……鍵はお母さんが持ってるみたいなんです」
一人暮らしをする訳ではないとこの言葉で京は理解した
「鍵はお母さんの手元にあるやつだけなの?」
「私用にも作ってたんですけど……忘れてきちゃったみたいで……」
「お母さんはいつ来るの?」」
「……一週間後です」
「一週間⁉︎」
明日や明後日あたりにくるものだと予想していた京はあまりの期間の長さに驚愕した
「大家さんが合鍵とか持ってないの?」
「ちょうど鍵の破損があったらしくて鍵屋に連絡入れたみたいなんですけど、2週間待ちみたいで……」
「マジか……鍵ってすぐ作ってもらえると思ってた……」
少なくとも一週間は家のドアを破壊しない限りは入ることが出来ないということだった
「……他に当てはあるの?」
「遠い所から来たので知り合いはいないです」
となるとホテル……最悪ネットカフェで一週間過ごすことになる
だがここで京の優しさが出てしまう
ホテルは大金がかかってしまう。ましてや若い女の子。一週間丸々泊まるとなるとお金が足りなくなる可能性がある。ネットカフェは見知らぬ土地であまり環境の良くない所での一週間。その間に精神が参ってしまうかもしれない……
そういったケースを考えた上で京が出した答えは……
「なら一週間だけ、俺の部屋に住まわせてやる」
男気溢れる一言。だが心は裏腹に弱々しくなる。ただでさえ他の女の子よりも恐怖心を引き出す相手。それを今ご飯を共にするだけでも気づかれないように振舞ってはいるが軽いパニックを起こしているのだ。それを一週間。もしかしたら死ぬ可能性だってある
「……いいんですか?」
申し訳なさそうに京を見つめる芹。女嫌いの京でなければ確実に落ちていただろう
「ただし家のことは手伝ってもらうからな」
「分かってます。京さんの性しょ----」
「それはしなくていい」
「……冗談です。料理とか掃除ですよね。任せてください……私、こう見えて料理得意ですから」
料理が得意と豪語する芹。相当自信があるようだ
「飯食い終わったら色々決めようか。お互いの役割みたいなのを」
ここで芹は不思議そうな顔をした
「……私に全部任せるんじゃないんですか?」
「芹一人に全部やらせる訳ないだろ?」
普通のことを言ったはずなのになぜか信じられない言葉を聞いたかのような表情をしていた
「ほらっ。そうと決まればさっさと食って役割決めの話するぞ」
「……うん」
そこから十分ほど会話なく黙々と食べ進め、机に置かれた食べ物全て残さず綺麗に食べ終わった。お椀にも米粒一つ
ついていなかった
----食器を洗い終え、ご飯を食べた場所と同じ位置に座り、役割分担の話を始めた
「まずは料理だな。さっき得意だって言ってたから芹に任せるとして……掃除と買い出しはさすがに俺がやるか……」
「じゃあ私は……お金出します」
「出さんでいい。おっさんの財政力舐めんな」
「だって……私料理以外役割ないし……性処理役になるしか……」
「何回も言わせるな!しなくていいの!」
なぜこんなにも処理したがるのか疑問だ。まさか本当は他の女と同じなのかもしれない……
「でも……さっき会ったばかりなのにこんなにしてもらうのは……」
申し訳なさそうにしているところを見るあたりやはりいい子なのだろう
「俺に妻子がいればこんなことはしてないが、独り身相手に遠慮なんかする必要はないさ」
「……やっぱり襲うつもりじゃ……」
「あーもう!そんなに言うなら俺を拘束でもしろ!絶対に襲わんから!」
処理の申し出を断っているのにわざわざ襲うかっての……
「ってやば!明日は早いからもう寝ないと1日もたねえ!」
もしもの時用の敷布団を地べたに敷き、睡眠の準備に取り掛かった
「京さんはお風呂入らないんですか?」
「あ……忘れてた……もういい!朝入る!」
お風呂入る時間を確保する為、いつもよりアラームを早めにセットした
「……そういえば言い忘れてました。私も明日は朝から出ないといけないんですよ」
「そうなのか?何時だ?」
「8時には出とかないとです」
「俺の30分後か……そんな朝早くからどこ行くの?」
「明日は入社式なんです」
(入社式……てことは仕事は決まってるんだな……)
「そうか……明日から社会人になるのか」
「はい。そういうことになりますね」
「そうかそうか。頑張れよ……ん?」
ここで京は大事なことに気がついた
「君は服の替えは持ってないんだったよね?」
「……?そうですよ?なので今は京さんの服をお借りして----」
「入社式はスーツじゃないの?」
「……あ」
そう。服の替えは持ち合わせていない。ということは見つけた時に着ていた真っ黒の服しかないということ
スーツなんて持っていなかった
「どうしましょう……黒の服だし……スーツって言い張ればどうにか……」
「さすがにならんだろ……」
「じゃあ〈スーツの赤山〉に----」
「もう営業時間過ぎてるぞ」
「……朝早くからいけばなんとか----」
「営業時間前だぞ」
八方塞がり状態だった。明日の朝からいるものを用意出来ていない。新入社員として会社に自分の悪いイメージを付けたくないところなのに……
服がスーツでない。悪印象どころかそのまま解雇の可能性だってある
「……仕方ありません……この服でいきます」
「いやいや……それはまずいだろう」
「どうすることも出来ませんし……鍵忘れてしまった私が悪いですから」
明らかに落ち込んだ様子の芹。憔悴する芹を見てまたもや京の優しさが出てしまう
「はぁ……仕方ない……ちょっと待ってろ」
そういうと、京は少し厚めのコートを羽織り、靴を履いた
「どこに行くんですか?」
「妹の家。この近くに住んでてな。スーツ持ってるから借りてくるよ」
「そんなっ……悪いですよ!」
「いいのいいの。本当にすぐそこだし。じゃあ行ってくるから留守番よろしく」
京は家のドアを閉めた。そして冷たい夜風を浴びながら妹の家へと歩き始めた
----内心心臓ヤバいから離れる口実が出来て正直助かった……