第38話 迫る危機……?
「……なんだったのかしら」
突然の訪問、そして怒るだけ怒って立ち去った菜由に香織は戸惑っていた
「あの人って、京先輩の妹ですよね?」
「……そう。菜由ちゃんって言うの」
「やっぱり妹さんのことも知ってるんですね」
「仲良かったからね……昔は」
白瀬は懐かしむ様子の香織。以前見た様子では仲が良さそうには見えないが……
「……さて、本題に入りますね」
わざわざ有給を取ってまで話しに来た理由を明かした
「自治体内で可決されてしまったことがあります。正直……最悪です」
自治体とは赤坂京保護自治体のことである
「……何があったの?」
かなり険しい顔をしている白瀬に香織は問いかけた
「……芹ちゃんが排除対象になりました」
物騒な言葉が聞こえた。排除……つまりは消されるということになる
「……排除って……何するつもりなの……?」
「……分かりません。各々で排除に向けて動くとのことなので……」
大きくないとはいえ、この街の成人女性全員が在籍する自治体。数は500人はゆうに超えている。そんな数の人が各々排除に動く……正直、かなり絶望的な報告だ
「……さすがに殺したりはしない……と思います」
「そんなの当たり前でしょ‼︎」
いつもは能天気で明るい白瀬の顔にも焦りが見える。それほど最悪な自体なのだ
「私も排除行動はダメと局長と止めたのですが……すいません……」
「そもそも、なんで芹だけ排除しようとするの!そんなのおかしいでしょ!」
「……京さんがあれだけ親しく話す女の子は芹ちゃんだけなんです。原因は間違いなくそれでしょうね」
つまりは京に近づきすぎた。これが排除対象になった理由だ
「……身勝手すぎるわ……分かってたけど……やっぱりイカれてるわ。この自治体……」
「間違いなく。元々は京先輩の幸せの為に設立された自治体だったはずなんですが……いつのまにか京さんと幸せになることを阻止する自治体になってしまいました……」
京の為から自分の為の自治体になってしまっていた。京が誰かの物にならないように手を尽くす……そんな団体になってしまったのだ
「私は芹ちゃんを危険な目に遭わせたくない……だから香織さんにも手伝って欲しい……そのお願いを今日はしにきたんです」
「お願いなんてされなくても守るに決まってるわ!あの子は私の大事な娘なんだから!」
白瀬は香織の言葉を聞いて少し安堵の表情を浮かべた
「……ただ、この事は京先輩には内緒にして欲しいんです。京先輩が芹ちゃんのこと庇ってしまうと、更に反感を強めてしまうかもしれないので」
「……そうね。分かったわ」
「芹ちゃんを、一人にしてはいけません。必ず……必ずです。私と局長でなんとか鎮火させます。それまでなんとか耐え抜きましょう」
白瀬は芹を守ることに全力を注ぐことを表明する。ただ、香織は一つ違和感を感じていた
「……ねえ。聞いてもいいかしら」
「……はい?なんですか?」
「香奈宮さんも京ちゃんが好きなんでしょ?それなら芹の存在は邪魔なんじゃないの?」
確かにそうだ。自治体内でも排除対象になっているということは周りから見ても、京と一番距離が近いのは芹ということになる。その芹さえいなくなれば、白瀬にとっても都合のいいことなはずなのだ
「……確かに芹ちゃんがいなくなれば、現状では私……もしくは香織さんが一番になれるのかなと思います。でも、私も香織さんと一緒で、芹ちゃんが大切なんですよ。可愛くて生意気な後輩なんです」
白瀬は更に続ける
「あと、私が望むのは京先輩の幸せです。京先輩が一番だと感じた人と、私は結ばれて欲しいなって思ってるんです」
曇りなき眼差しで語る白瀬。冗談ではなく、本気で言っているのだ
「でも……こういうのって本当は男の人が言うことなんでしょうけど……私は京先輩を一番幸せにする自信があります!」
堂々と宣言する白瀬。白瀬にとってはこれは香織への宣戦布告の意味合いもこもっていた
「……すごいね。本当に……」
……私も……京ちゃんと出会った時なら、こんな風に胸を張って同じことが言えてたのになぁ……
「とまあ私なりの宣戦布告も終えたところで、話は終わりです!お腹も空きましたし、何か食べに行きませんか?」
「……そうね。じゃあファミレスにでも行きましょうか」
「香織さんの奢りですか?」
「……まあ仕方ないわね。大事な情報を教えてもらったし……いいわよ」
「よしっ!高いやつ頼も!」
「少しは遠慮してね……」
二人で守り抜けばなんとか乗り越えられる。二人はそう考えていた。……だが、現実はそう甘くないと知らされることになるとはこの時はまだ……思いもしなかった……




