第28話 香織の弱点……?
「香織の弱点……弱点……弱点?香織の弱点ってなんだ?」
「いや……それを聞いてるんだけど……」
京は頭をフル回転させて考えた。だが、一向に出てこない
「やばっ……見当たらねえ……」
「それはさすがにないでしょ!誰にだって弱点はあるはずだよ!私でさえ見た目が幼いって言う弱点がっうえぇぇぇぇん!」
「自分で指摘して泣くなよ……」
泣いている瑠奈を横目に考え続ける
「あ、洗濯が苦手って言ってた気がする。色分け、生地分けが難しいって」
「グスッ……意外だね。他には……っ?」
涙を拭き取り、なんとか持ち堪えた瑠奈
「あとは……すぐに寝ちゃう所とかあと、コンビニのポイントカードを財布のどこに直したか分からなくなって結局出せなくなって損したりする……ぐらいか?」
「ふむふむなるほど……」
京の情報を元に瑠奈が再度京に問いただす
「その弱点使えないよね?」
香織をギャフンと言わせる為に弱点を教えて欲しいと頼んだはずだったが、「どこに使えるの?」「どう使ったらいいの?」なものしかなかった
「まあ……そうだな」
「困るよー!もっとないのー!」
小さい身体で京を揺さぶる瑠奈。側からみれば親子にしか見えなかった
「って言われてもな……あとはホラーが苦手なことぐらいしかないし……」
「あるじゃん!すごく良いのあるじゃん!」
京が流すように言った事は瑠奈にとっては大事な情報となった
「え?こんなのでいいのか?」
「むしろそれ以外の情報が不要だよ」
瑠奈はホラーが苦手という弱点を使って香織に何かしらのアクションを起こすことに決めた
「まあ役に立てたなら良かったよ」
「ええ。大いに役立ちましたよ。なのでもう帰ってもらって構いませんよ」
意外とあっさり帰ることを許可された
「あと二つはいいのか?」
「今日で全部使い切ってしまうのは勿体ないので、またいずれ頼みますよ」
てことはまたいずれこのストーカーハウスに来ないとダメなのかと気が重くなった
だが、それよりも京はある重要な事に気がついた
「なあ、一つ聞いていいか?」
「何ですか?答えられる範囲なら答えますよ」
早速作戦を練るために机にメモ用紙とシャーペンを用意する瑠奈に京は気がついたことは事実か確認した
「瑠奈は……別に俺のこと好きじゃないだろ?」
瑠奈はしばらく無言になっていたが、やがて真意を話し始めた
「はい。だって私、女の子にしか興味ないですから」
京は瑠奈が他の女性達と反応が違うことに違和感を感じていた
女性は京と目が合えば、そこでサッと目を逸らしてしまう。理由としては〈かっこよすぎて気絶するから〉や〈尊すぎて石になってしまうから〉、挙句の果てには〈私が眼差しを合わせてしまえば穢れてしまうから〉などと訳の分からない理由があるらしく、基本的にアピールしてくる女性達とは目が合うことはほとんどない
だが、瑠奈はずっと目を合わせて話を進めるので多少の違和感を感じていた
そして確信に変わったのは他の意見を要求された時に揺さぶられたことだ
この街の女性達は決して自分から京に触れることはないのだ。それも先程の理由と同様で、色々と取り返しのつかない状況になるからだ。ただ、京から触られる場合は必ず生身ではなく、衣服の上から触れられるようにと最新の注意を払っている
以前、会社の飲み会で京が酔った際、京に抱きついてもらっていた女性が何人もいたのだが、その際も肌を一切出さずに抱きついてもらっていた。その状態で、気絶する者が大量に発生した。生身で触られてしまえば鼓動が正常に稼働しなくなってしまうかもしれない
だが、瑠奈は京に自ら触れ、そして肌が直接触れていた。
それが決定打となった
「なら何で局長なんてしてるの?」
京のための自治体。それ以外の役割はないこの自治体に入っているのか疑問だった
「……私は姉の代理であることは分かってくれてますよね?」
「あ、ああ。そうみたいだな」
あくまで瑠奈は局長代理。姉に頼まれ、一時的に局長になっているだけだった
「もし、私がこの自治体をしっかりと纏めあげた暁には……可愛い女を紹介してくれるらしいんです!」
瑠奈は自分の目的を高らかに発表した
「じゃあこの部屋から録音した音って……」
「はい。私の独り占めじゃなくて自治体内での共有財産です」
なんてこった……自分のプライベートな部分が皆に見られていたなんて……
「そういうことなので、もう帰って下さって大丈夫です」
冷たくあしらうように扱われる京。この様子だと本当に興味がないようだ
部屋の外に出た京。エレベーターに乗る前より空は暗くなり、風もほんの少し冷たい
「あっ、帰る前に一つ。お仕事終わって疲れてるところ申し訳ありませんでした。お詫びにこれをお渡ししておきますね」
瑠奈は自身が着ている学生服の胸ポケットから物を取り出し、京に手渡した
「……なにこれ?」
「見れば分かりませんか?飴です」
透明な包み紙にオレンジ色の球体が入っていた
「いや、なんで飴?」
「疲れた時は甘いものが一番です」
瑠奈はもう一つ胸ポケットから取り出し、袋を開けて、自分の口に放り込んだ。口の中で歯と当たってコロコロと鳴っている
「……ありがたくもらうよ」
京はこの飴を素直に受け取ることにした
「それではまた。あ、言い忘れてましたが、盗聴した音声は共有財産って言いましたけど、あれ冗談なので」
とだけ言い残して扉を閉めた
「いや……盗聴されてることに変わりないじゃん……」




