第23話 京の豹変……?
「えー……では皆さん!乾杯!」
「「「「「乾杯ー!」」」」」
仕事を片付け、京達の部署の約30人が一堂に会し、とある居酒屋に集まっていた
とある居酒屋というのはたっつー……京の同級生が営む居酒屋を貸し切りにしてもらったのだ
「悪いなたっつー……貸し切りにしてもらって……」
「気にするな!元々貸し切りOKの店だし、俺はちゃんと金さえ払ってくれればなんでもいいからな」
若い子達と年をとった人達も一緒になって酒を飲み、唐揚げなどのつまみを頬張る。いつもは厳しい部長も皆んなで盛り上がっていた
ただ京は酒に弱いこともあり、厨房に避難していた。……なぜか芹も一緒に
「やべっ……酔いそう……」
充満する酒の匂いに避難しているとはいえ、多少の匂いは京に届いていた
「酒弱いのになんできたんだよ……」
「こいつが来てくれってうるさくてな……」
京はアゴでなぜか一緒に避難していた芹を指した
「ほぉ……これが噂の彼女か?」
「だから違ーーーー」
「そうです!」
否定しようとする京の言葉をかき消すように芹は言った
「やっぱりそうなのか!」
「だから違うって!彼女はいないって前に言っただろ?」
「でもこの子は彼女だって言い張ってるぞ?」
「ちょっと待ったー!!」
3人の話に割って入るように厨房に悪びれもなく入ってきた
「芹ちゃん!嘘は良くないよ?京先輩困ってるでしょ?」
割って入ってきたのは白瀬だった
「京先輩の彼女は私なんだから!」
制止してくれたのかと思いきや、さらに話をより難しい方向へと持っていっただけだった
「京……二股は良くないぞ?」
「……もうなんでもいいよ……」
否定するのも疲れたようだ
「というか白瀬。お前は何しにきたんだ?」
「京先輩と芹ちゃんが見当たらないから連れ戻しにきたんですよ!」ガシッ
白瀬は京の腕を掴んで宴会の席へと引っ張っていく
「やめろって!くそっ!力強ぇ!」
成人男性が本気を出しているにもかかわらず、白瀬の引っ張る力にまるで対抗できない
そして足掻きも虚しく、厨房の外まで引っ張られてしまった
「く……くせぇ……」
店内にはお酒、揚げ物、焼肉、タバコなどの様々な匂いがしていたが、圧倒的にお酒の匂いが強く充満していた
「さあ!飲みましょ飲みましょ!」
机に置いてあった瓶ビールを持ち、京に近づけた
「やっ……やめ……うっ……」バタッ
京は酒の匂いに耐えられなくなったのか、その場で倒れてしまった
「やった!これであの状態の京先輩が出てくるわ!」
白瀬が入社して1年目の頃に一度だけ京は酔っ払った姿を白瀬に晒したことがあった。その状態とは……
「ひぐっ……どうせぇ俺は……ひっく……ダメダメですよぉ〜ぉぉぉ……」
自虐に走って、自身をなくしている状態になるのだ
酔っ払うと人は、〈おしゃべりになる〉、〈暴力的になる〉、〈すぐに寝てしまう〉、〈泣き上戸になる〉などなど色々なタイプがある。その中で京は〈泣き上戸になる〉タイプで、酔っ払うと元々自信家ではないが、自信をほとんど失った状態になるのだ
「仕事出来ないしぃ……ぐすっ……ブサイクだしっ……ひっく……おまけに独身だしぃ……いいところないよぉ……」
自信をなくしはするが、事実でないところで自信をなくすのだ
専門の自治体が設立されるほどの人気者がブサイクな訳はないし、結婚もしようと思えばいつでも出来るだろう
仕事もかなり上の役職を与えられている為、全て当てはまってはいないのだ
そして白瀬がこの状態になった京を待っていたのには理由がある。
それはこの状態の京は〈流されやすいのだ〉
「京先輩……そんなに自分を責めることないですよ」
「ぐすっ……そ、そうかなぁ……」
「そうですよ。ほらっ。慰めてあげますから抱きついてきてください」
普段の京ならば女に抱きついてきてと言われて抱きつくことはありえない。だが、酔っ払っている今、流されやすい今ならば……
「ふぇーん!白瀬ぇー!」ダキッ
と、流れ作業のように抱きついてしまうのだ
「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
白瀬は聞いたことないような奇声をあげ、顔を真っ赤にして今にも天国に飛んでいきそうになっていた
白瀬はこれをしてもらう為だけに今回の飲みの会に京を強引に参加させていた
「はぁぁぁぁっっ……満……足ぅ……」
今にも昇天しそうな白瀬だったが、京の後ろから禍々しきオーラを放つ一人の女の姿を見た
「あ……やばっ……」
その禍々しきオーラを放ち、ゆっくりと着実に白瀬に向けて歩みを進める。
その禍々しきオーラを放っていたのは芹だった
白瀬は危険を察知して逃げようとするが、京に抱きつかれ、身動きが取れない。否、力尽くで剥がすことは出来たが、京に抱かれている快感に負けて離れることが出来ないのだ
そして白瀬は芹にガッシリ腕を掴まれた。ミシミシッと骨の軋む音が鳴るほど強く、逃がさないという意思を表現しているようだった
「……外でお話……しましょうか」
目を見開いてニッコリと笑う芹。ただし、目は笑っていなかった
「は……はい……」
白瀬は芹に引きずられ、居酒屋の外に出て行った……




