第21話 女が大好き……?
「なんとか上手くいったな!」
「ほんとに……マジでダメかと思ったわ……」
京は篤と共に他会社との商談に出向いていた
「いやマジであそこで社長夫人が来てくれなかったら終わってたわー!」
相手方の男社長との商談中、相手は今回の商談に難色を示していた。だが秘書を兼任していた社長夫人がお茶を運んできた際に夫人が社長を言いくるめたのだ
「これもお前のおかげだな!」
「意味わからん。俺なんもしてないぞ?」
「本当鈍感だなお前は」
夫人が社長を言いくるめた理由は京との関係を持つためだ。ここで商談を断ってしまえば京がここの会社に出向くことはなくなってしまう。それを防ぐための夫人の一手だった
「何はともあれこれであの会社とも契約締結出来たし、このあとはもう帰ってもいいらしいし、飯でもいくか!」
「またあそこに行くのか?」
「俺らといえばあそこしかないだろ!」
「はぁ……まあ俺も久々だし……わかったよ」
京と篤は会社に報告の電話だけ入れ、そのまま二人がよく行く居酒屋へと足を運んだ
「たっつー!唐揚げと枝豆とビールだ!」
居酒屋の入り口を開けるや否や注文する篤
「席に着いてから言いやがれっていつも言ってんだろ!」
厨房ののれんを左手でどかしながら覗き込む大柄な男がいた
「ったくよ……で、京はどうすんだ?」
「そうだな……俺も唐揚げ一つ。あとお冷で」
「はいよ」
大柄の男は厨房へと引っ込んでいった
今はお昼の三時。他の客は誰も入っていなかった
カウンター席は厨房の中が見え、客との会話が出来るような構造になっているため、カウンター席に座ることにした
「なんだなんだ?客いないけど不景気か?」
「こんな平日の真っ昼間に居酒屋にくるやつなんざいるかっての」
「間違いないな」
親しげに話す三人。実はここの店主と二人は高校の同級生で、たっつーとは店主。相楽 達郎のあだ名だった
「というか仕事はどうした?スーツ着てるし、休みってわけじゃないだろ?」
「商談終わったら帰っていいって社長からのお達しに甘えたんだよ」
「そういうことか。サボりじゃないなら存分に呑んで金を使ってけ」
たっつーはサボりに厳しく、もし仕事をサボってここに来た暁にはぶっ飛ばされていただろう
「そういえば……京。お前彼女でも出来たのか?」
「お前もそれいうのか……」
この間鷹斗にも言われたばかりだった
「ウチのガキが若い女と一緒に歩いてる姿を見たっていうからな」
「……出来てない。……てかお前も知ってるだろ?女の子が苦手なこと」
「なんだ?まだ治ってなかったのか?」
「治したいのは山々だが、残念だが治ってないな」
たっつーは京は女の子が苦手ということを知っている数少ない人物だ
「今のお前を昔のお前が見たらびっくりするだろうな」
「そうだろうな」
「本当だよな!昔はあんなに女が大好きだったのに」
「20年ぐらい前の話だろ……」
京は昔から女が苦手だったわけではなかった。現に香織は元カノ。苦手ならば付き合ったりしていないはずだ
「ほらよ。唐揚げ二つと枝豆。あとビールお待ちどうさん」
「サンキュー!相変わらずデケェな!」
「ボリュームが売りなんだよ」
頼んだ品が届き、調理の終えたたっつーも京の隣に座り、二人に挟まれる形となった
「昔は毎日のように女はべらかせてたのにな。大学の時だったか?全然女といなくなったのは」
「そうそう!こいつずっと彼女は作らずに色んな女たらい回しにしてたのに、大学入ってから香織とかいう彼女作って、他の女に見向きもしなくなりやがったんだよ!」バンバンッ
なぜか机をドンドンと叩く篤
「そんなに好きだったのか?香織ってやつのこと」
「……まあな」
「でもおかしな話だよな?卒業頃には京は女嫌いだったし、香織って女もいなくなってたよな?」
「……」
京は無言になった。その事について話したくないのだろう。京の様子でたっつーは察知したようで……
「まあ昔の話はまた今度だ!それよりもっと注文して金を使っていけ!」
「なんだよー!これから話盛り上がるところだろー?」
「うるせーな!ゴタゴタ言うならウチで一番高いメニュー勝手に提供して金払ってもらうぞ?」
「なっ!横暴だ!」
「なら何か注文してけ。高めのやつをな」
席を立ち上がり、京の肩を二回ポンポンと叩き、厨房へと戻っていった
「くっそー!じゃあマグロの刺身とイカの天ぷらもってこい!」
「はいよー!」
「京もなんか頼め!」
「……じゃあイカの刺身で」
----頼んだ品を全て平らげ、お会計に向かった
「篤は8200円な」
「痛すぎる……こんな使うつもりなかったのに……」
しぶしぶ出した一万円札で支払った
「はいおつりな。で、京は払わなくていいぞ」
「なっ!なんでだよ!」
「京が食べた分の料金はお前に払ってもらったからな」
「やっ……やりやがったな!二度とくるかこんな店!」
喚きながら店を出ていった篤
「すまなかったな」
「どうした急に?」
謝られる理由がわからず、少し戸惑う京
「いや……女が苦手になった理由を聞こうとしたら嫌そうな顔してただろ?」
「……そんなに顔に出てたか?」
「出てたさ。お前が話したくないこと聞いて悪かったな」
「……いや、いつまでも引きずってる俺が悪いわ。もう20年ぐらい前なのにな……」
少し俯き、涙が出そうになった
「……帰る。また来るわ」
「おう。次は金払ってもらうからな」
「分かってるよ」
京は居酒屋の扉を閉めた
「……いい加減にしろよ……俺」
空を見上げ、京はポツリと呟くのだった