第19話 道中の……敵……?
「ここから何分かかるんです?」
「んー……30分ぐらいか?」
市役所に向けて歩き始めた二人。場所を知らない芹はどれぐらいかかるかを尋ねた
「……前から思ってたんですけど」
芹は疑問に思ったことを京に聞いた
「京さんは車乗らないんですか?いつも歩いてますよね?」
そう。京は今まで移動の際は必ず徒歩だったのだ。会社に行く時も、栁内親子を街案内をした時も徒歩だった
「あー……免許は持ってるんだよ。10年前ぐらいまでは乗ってたんだよ」
「なんで乗らなくなったんですか?徒歩だとしんどいでしょ?」
都会とまではいかなくともそれなりに大きな街に住んでいる。車がないと不便であることは間違いなかった
「運転するのが怖いんだよ」
「……事故するかもしれないからですか?」
「うん。別に遠出するようなこともないから別にいらないなって。運動にもなるしな」
実際京がこの街から出ること自体、実家に帰る時以外はなかった。実家にも電車で帰る方が早いため、車を利用することが無くなったのだ
「そういうことですか……ってなにここ……」
歩き進める二人の前に大きな坂が現れた
「この坂が道中で一番キツイ場所だな」
「これよりキツイのきたらやばいですよ……」
二人は大きな坂を登りはじめた
「きつぃ……この坂以外道ないんですか?」
「ここ以外通るとなるとだいぶ遠回りになるからな。我慢して上れ。ついてくるって言ったのは芹だからな」
「分かりましたよぉ……」
本当にキツイ坂だ。この傾斜角度……物を落としてしまえば下に着くまで止まらないだろう……例えば……りんごなんか落としてしまえばひとたまりもないだろう
「誰かー!とってぇぇぇぇ!」
上から大きな声が聞こえた。上を見るとりんごがいっぱいに入った紙袋を持ったおばちゃんが立っていた
その紙袋から溢れたのだろうか……一つのりんごが京に向かって一直線に転がってきていた
「……またか。てかアレわざとなんだよな……」
昨日白瀬が教えてくれた。アレはわざと落としていると……だが、京はわざととわかっていながらも放っておくことが出来ず、りんごをキャッチする態勢に入った
----だが、京が掴む手前でりんごは他の手によって掴まれていた
「ふぅ……思ったより衝撃強かったぁ……」
りんごを掴んでいたのは芹だった
芹と京はりんごを落としたおばちゃんの元へりんごを届けた
「はいこれ。もう落とさないように気をつけてね?」
芹はおばちゃんの手にりんごを渡した
「あらあらぁ……おかげで助かったわー……っ!」ミシミシッ
手渡したりんごからミシミシッという音が鳴っていた。
「いえいえー。もうわざと落としちゃダメですよ?」
そう言い残して、芹は京を連れて歩きはじめた
「あの小娘……っ!アレが香奈宮が言ってた要注意人物ね!……許せない!」
おばちゃんは芹から返されたりんごを手で握りつぶした
「京さん!もう取ろうとしなくていいですから!アレがわざとってこと聞いたでしょ!」
「たしかにそうだが……でもそのまま放っておいたら困るわけだし……」
「もう……京さんは優しすぎますよ……」
二人は坂を登りきり、少し歩き進めるとカーブミラーのついていない十字路があった
車が通れない道だからついていないのだろうか……この道は注意しないと急いでいる誰かがぶつかってきてもおかしくない……
「……やらせない」
曲がり角近くから声が聞こえた。どんどんこちらに走ってくる音が近づいていた
「はっはっはっ……ってうわっ!」
曲がり角からパンを咥えた女子高生と衝突してしまった。ぶつかった女子高生は地面に緩やかに倒れこんだ
「痛ててぇ……」
女子高生は確信した。京とぶつかったことを。タイミング、ぶつかるための入射角度……どれをとっても完璧な出来だったからだ
「大丈夫?怪我してない?」
(……っ!違うっ!女の声だ!)
見上げるとそこには、まさにしてやったりという顔をした
芹が立っていた
「ほら……立てる?」
「は……はい。大丈夫です」
(この女……まさか赤坂さんとぶつかる前に赤坂さんの前に陣取ったというの⁉︎)
実際、京は芹の後ろに立っており、京の前に陣取ったのは明らかだった
「急いでるのはいいけど……しっかり前を確認しなよ?」
「す……すいません」
芹は女子高生を叱った
「まあ気をつけなよ……あと」
芹は女子高生の耳元で囁いた
「こんな休みの真っ昼間からパンを咥えて登校とか……もっとあり得るシュチュエーションにしなよ?」
そしてまた京を引っ張って芹はその場を離れていった
「……あの女……手強いわね……」
女子高生は悔しそうにしながら学校へと歩いていった……




