第1話 女の子が苦手……?
「ふわぁぁぁぁぁぁぁーあ」
大きなあくびをしながら椅子にもたれかかる。時刻は21時。普通ならば帰っていてもおかしくない時間だ
「お疲れ京。明日の準備終わったか?」
「おう。バッチリだ」
同僚に仕事が終わったことを知らせ、帰宅の準備を始めた
「あ、ちょっと待て!これからどうだ一杯?」
「いや……俺あくびしてたの見たろ?眠いんだよ」
「ちぇーノリ悪いなー。次は絶対に来いよ?」
「仕事が早く終わった日ならな」
カバンを片手にオフィスから出ていった
俺こと----赤坂 京はただのしがないサラリーマンである
歳ももう40歳を越えていいおっさんになってしまった。未だに未婚。両親からは結婚しろと10年も前から催促されている
出来たら苦労しないんだけど……
「づかれだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
歩きつつ唸り声をあげながら身体を伸ばした。コレが地味に気持ち良かったりする
「……コンビニ寄ってくか」
近くにコンビニがあり、そこに寄ることにした……だがやめた
なぜなら店の前で男2人、女1人のギャル達がたむろっていたからだ
「……最悪だ」
絡まれることを嫌い、コンビニに寄ることを諦めそのまま帰宅しようと歩みの軌道を戻そうとした瞬間----
「ちょっとおっさん!」
女のギャルに喋りかけられてしまった
「……もう最悪」
たかられる?年寄りとバカにされる?オヤジ狩りされる?
おっさんになると知らない若者から話しかけられるとそういう心配をすることがある
「カッコよすぎでしょ!今からホテル行こうよ!」
まあ俺はそんなことの心配はしてなかった
「ちょっ……俺らはどうすんだよ!」
「知るか!ブサイク達は引っ込んでて!」
さっきまで仲良くしていたとは思えないほどの罵倒を繰り出すギャル女
ああ……またか
周りから見ればただのおっさんに対してノリと勢いのある若者が口説く状況は異常だ
だが京に関してはこれは日常茶飯事なのだ
京は超絶男前なのだから
若さはない。完全に風貌はおっさんだ。だが若者にはないダンディーさが京からは滲み出ていた
イケメンという言葉より男前という言葉がよく似合っているのだ
電車に乗れば周りが勝手に女の子だけになる。手を掴まれ、自分のお尻を触らせようとしてきたり
バーで飲んでると店員から「あちらのお客様から」と女の子から酒を奢られたり
今回みたいに逆ナンされたりと普通男がやるようなことが女の方からしてくるほどだ
ではなぜこんなにも女の子からモテるのに結婚しないのか
結婚すれば他の女の子に手を出せないから。自分にふさわしい女の子がいないから
だが残念ながらそんなハーレムの王様のような考えではない
「ねえ?いいでしょ?行こうよー!」むにゅ
ギャル女は京の腕に胸を押し当てた。男ならば羨ましがるシュチュエーションだ
「ひぃっ……ひぃぃぃぃぃぃぃぃ‼︎」
だが京にとっては最悪だ
「うわっ!な、なに!」
京はギャル女を振りほどいた
「ご……ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ!」
京は砂煙が立つほどのダッシュでその場から立ち去った
「あ……あー……えっと……やっぱりあんな男よりお前らの方が----」
「いやもう無理だろ」
「だよねー……」
家の近くまで走った京。息が上がり、電柱に手をつき、肩で息をしていた
「はぁっ……はぁっ……こ……怖かった……」
京は女性恐怖症なのだ
とあることが原因でそれからずっと女の子と喋ると恐怖心が押し寄せてくるのだ
そのため、京は結婚しないのではなくできないのだ
「……早く帰ろ」
そのまま家まで肩で息をしながら歩いた
「いい加減直さないとな……いつまでもこのままいるわけにもいかないしな……」
そして京は自分の家に到着した。6階建てのマンション住まいで京はそこの二階の1番奥の部屋に住んでいた
エレベーターがあるが、二階なので階段を登る京
「……ん?」
京は階段を登りきったところで足を止めた
自分の隣のドアの前に誰か座り込んでいたからだ
春になったとはいえまだ四月になったばかり。夜風はまだまだ寒く、座っていた人物は全身真っ黒の服にフードを深く被って寒そうにしていた
(……あそこ通らずに入らないしな……仕方ない……)
家に入る為には座り込んでいる人の前を通るしかないので京は結局無視出来ずに話しかけた
「……あのー……大丈夫ですか?」
声をかけられた人物は京の方に顔を向けた
その子は白く艶やかな肌に暗めの照明が当たってるだけで分かるほど綺麗な青く澄んだ瞳をした女の子だった
(あ……最悪だ)
真っ黒な衣装を着込んでいた為、男だと思い完全に油断していた京
その子は声をかけてからずっと何も言わずに京の顔をじっと見つめていた
(やばい……喋りかけなきゃ良かった……)
長い沈黙が続く。そして女の子はようやく口を開いた
「もしかして……ナンパですか?」
「違うわ!」
即座に否定する京
「……じゃあ何のようです?」
「いや……こんな時間に外に座り込んでるから」
「……なんでもいいじゃないですか」
淡々と受け答えする女の子。
この子は京に対して無関心だった。
今まで京は女の子が自分に興味を持たれないことがなかった
(不思議な子だな……)
京は少しだけこの子に興味が湧いていた
「家はどこ?」
「知らない人に家の場所は教えるわけないです」
よく見ると半年前からずっと空き家になっていた隣の部屋に表札が付いていた
「ああここか。栁内さん」
「……!なんでっ私の名前をっ!もしかしてストーカー⁉︎」
「いや表札見えてるから」
「……っ。ここが私の家なんて言ってない」
「栁内さんって言って反応したんだからそんな訳ないだろ」
京はさらに会話をたたみかけた
「なんで家に入らないの?」
「……別に」
「鍵無くしたの?」
「そっ……そんなわけないでしょ!」
「鍵無くしたのね」
「……っ」カァァァァァァ
顔を赤くしながら俯いてしまった。どうやら鍵を無くしたようだ
京は少し考え込んだ。このまま放っておく訳にもいかない。かといって近くに宿泊施設もない
(はぁ……まあ今のところ大丈夫だし……なんとかなるだろ)
「今日はうちに来なさい」
京は自分の家にあがることを女の子に勧めた
「やっぱりナンパ男じゃん……」
「違う。放っておかないだけだ」
「……どうせ身体目当てでしょ?」
「ありえないから安心しろ。もし俺がなんかしたらすぐに警察呼べばいいさ」
「…………」
京にそんな意思はないと言われ、少し考え込む女の子。そして女の子は結論を出した
「……わかりました。今日だけ……お世話になります」
女の子が苦手な京は一日、女の子と過ごすこととなった