第9話 ヤンデル状態……?
「----でこれをこうして……」
「なるほど……」
白瀬から仕事を教えてもらう芹。さっきまでの白瀬とは違い、真剣に仕事を教えていた
「じゃあ今教えたことやってみて」
「は、はい!」
やはり仕事のことになると真剣になる白瀬は京にとって……いや会社にとって頼もしい存在だった
「こうですか……?」
「それをする前にまずこの右上のボタンを……」
これならば心配する必要もないだろうと京は芹達の様子を伺うことをやめ、作業を再開した
「赤坂先輩!ちょっと見てもらってもいいですか?」
京を赤坂先輩と呼んだのは京が担当する新入社員の子だった
名前は 〈高耶尋〉。地元の大学を卒業してここに就職したらしい
「どれを見て欲しいんだ?」
「この下のやつなんですけど、この表示が消えなくて……」
「あー。これはこうして……で、ここをクリックすれば消えるから」
「本当だ……ありがとうございます!」
礼儀が正しく元気も良い。やる気もあり、京は将来有望な人材だと京は確信していた
……まあ次期社長候補だしな……
その後も白瀬は芹につきっきりでやり方を教え、尋はわからないところが出てきたら京に教えてもらっていた。
そして12時。お昼休憩を知らせるチャイムが会社内に鳴り渡った
「先輩!ご飯ですよご飯!食堂に行きましょう!」
ご飯のお誘いをする白瀬だったが……
「京先輩!私とたまにはご飯どうですか?」
「先輩!お弁当作り過ぎたので食べてもらえませんか?」
「私の愛の結晶……食べて下さい!」
休憩時間に入るとすぐに京の周りにたくさんの女性社員が押しかけていた。同じ部署内からは当然で、さらには違う部署の女性社員まで押しかける始末で、若い女性からお年を召した方にも大人気の京
「え……えっと……」
やばい……吐きそう……
これはこの会社の日常茶飯事の出来事。いつも休憩に入ると京の周りにはたくさんの女性社員が周りに集まる。
仕事時は部長が目を光らせてくれているため、関わってくることはないが、その分、こうしてお昼のお誘いや終業後の飲みのお誘いをたくさん受けるのだ
「きょ……今日はお弁当持ってきてるから……また今度ということで……」
えーっ!と集まった女性社員が口を揃えて声をあげた。そして皆は諦めたようでぞろぞろと戻っていった……が、白瀬だけその場に立ち止まったままだった
「先輩がお弁当……?もしかして……芹ちゃんが作ったやつですか?」
いつもの元気な声のトーンではなかった
「そうですよ。私が作りました。いつも食堂で安いもので済ませていると言うので健康面を考えて私が作ることにしたんです」
芹が白瀬の問いを京の代わりに答えた。
「……そうですかそうですか私と先輩の大切な時間を邪魔するんですねそれが狙いなんですね先輩との食事の時間を私から奪って自分だけ先輩と楽しくイチャイチャするためにそうやってお弁当を作ってきたんですねそうなんですね----」
白瀬は早口で呪いの言葉のように呟いていた
あ、やばい……久しぶりにあの状態になってる……
「きょきょきょ京さん!なんか呪いの言葉発してるんですけどっ!」
白瀬の状態にビクビクと怯える芹は京の背中に隠れた
「……っ!先輩に触れるなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ひぃぃぃぃっ!」
白瀬はものすごい剣幕を放っている
「……仕方ない」
京は剣幕を放つ白瀬に近づいた。そしてゆっくりと頭を撫でた
「ほっ……ほわぁぁぁぁぁぁぁ!」
白瀬の頭から蒸気がボワっと飛び出した。そして白瀬は地面に倒れ込んだ
「ななな何したんです⁉︎」
「えっと……解除?」
「なんのですか!」
「ヤンデル状態を……」
そして京は先ほどの白瀬の状態を説明した
「ということは、私が京さんにお弁当を作ってきたという嫉妬心からあの病んでる状態になったってことですか?」
「そう……らしい。あくまで篤の仮説なんだがな……」
「篤?誰ですかその人?」
入社式の日、休憩していた時に会った篤のことを京は「あいつのことは覚えなくて良い」と言いはしたがまさか本当に忘れるとは……
「で、あの状態になったら俺が撫でれば治るらしい……意味わからんけどな」
「んんっ」と言う声がする。白瀬が目覚めようとしていた
「あれ……?私は何を……?」
目覚めた白瀬だが、どうやら暴走した時のことを覚えていないらしい
「ほらっ。昼休み終わっちまうぞ?飯行ってこい」
「飯……そうだっ!先輩をご飯に誘って……それで……お弁当を誰かに作ってもらってて……」
やばい……思い出せばまた同じことが起きてしまうかもしれないと思った京は機転を利かせた
「た、たまには自炊してみようと思ってな!俺が作ったんだよ!」
「先輩の手作り⁉︎……いやでも……誰かに作ったって自慢されたような……」
「き、気のせいですって!ほらっ!早く行かないと食べる時間なくなりますよ!」
「……それもそうね!じゃあ先輩!明日は私とご飯行きましょうねー!」
京に手を振りながらオフィスを出た白瀬。とりあえずもう一波乱を防ぐことは出来た
「今日一日分の体力使ったわ……」
「……私もです」
疲労の溜まった京と白瀬の病んでる状態がトラウマになった芹だった