小説家になろう!始
「小説家だー!」
部屋にて両手を握りしめ、叫ぶ。
「なによ? 急に。」
「?、 よー。」
振り向くと、お幼馴染の千尋が、ドアを開けたところだった。
「よー。」
千尋は、ツカツカと入って来て、オレを通り越し、本棚の漫画に手を伸ばす。
「小説家、良くない?」
目だけで千尋を追いかけつつ、訊いてみる。
「良いって・・・何が?」
ロングの黒髪が『またか』と、なびく。
すでに劣勢と悟ったが、怯むな、オレ。。。!
「楽して金が入る!」
握った拳は崩さない!
「売れたらでしょ?」
澄んだ瞳でチラリ・・・痛い(泣)。
「売れるようなの書けばいいんだろ!?」
必死の抵抗。
「だいたいあんた、まともな文章書けるの?
あたしとのLINEでさえ、意味不明の日本語じゃない。
幼馴染だからわかるようなもんでしょ?」
「今時と言え。」
「共通の言語になってない。」
ぅぐっ・・・。
「それに、この間はなんだっけ?」
お目当ての漫画が決まる。
部屋の主がどっちかわからん・・・長年だから仕方ない、と、そこは諦める。
「漫画家・・・。」
「何日続いた?」
追討ちをかけるチラリ・・・刺さる(汗)。
「・・・一日ぐらい…。」
「半日持たなかったでしょ!? はい、おしまい♪」
(オレの!)ベットにうつ伏せになり、足をパタパタ読み始める。
幼少の頃より培ったその態度は天晴そのもの。
「アレは仕方ないだろ!?あんなに難しいなんて思わなかったんだから!」
寝転んでる相手へ、必死に訴えかける。
「で、その前はなんだっけ?」
ぐっ!?
「その前の前は?」
連打のボディーブロー!・・・ダ、ダメージがっ!!
千尋はページをめくりつつ、
「小説家だって、結局おんなじこと言って終わるんだろね~。」
気の抜けた話し声だが、漫画を読む表情は真剣そのもの。
『おい(汗)・・・。』
数々の前科のため、心の中にその言葉はしまっておこう・・・。
「小説だったらオレでも書ける!」
あ、スカートに唾飛んだ・・・黙っとこ(^^;)。
「ちょっと! ツバ飛ばさないでよ!」
なんて視界の広さだ(汗)。
「わっ、わりィ。 ・・・今回はできそうな気がするんだよ!」
「そもそも動悸が不純なのよ。小説家が、楽なわけないでしょ?
ずーっと考えて文字にして、一日中、机とくっついてるようなもんなんじゃないの?
それで売れなかったらショックでしょ?
ヒロにそれを受け入れるだけの根性あるわけないじゃん。」
その通り!・・・は!? いかんっ! 納得してはいかん!!
もう高校2年生。
ここはなんとか男の意地を見せねば。
「いやっ! あ・・『なんちゅう目で見るのだ(汗)』・・る・・・とはいわないが!、これからつけてく!
動悸が不純でも原動力には変わらん!」
千尋は少し興味を持ったようで、漫画から目を外し、意地悪そうに、
「ふーん。じゃあ、どんな小説書くのよ?」と、オレの顔を見た。
「ん~、長編スペクタクル異世界ファンタジーなんてどうだ?
それとも歴史物か?
いやいや、恋愛小説なんかも捨てがたい♪」
虹とキラキラいっぱい、輝きに満ちた表情で答えてみせる。
千尋は先ほどと打って変わった、固まってしまった表情をスーッと元に戻すと、
異世界に舞い戻って行こうとした。
今回は言うぞ。
「おい・・・(汗)。」
「スペクタクルの意味は?」
「!?。。。」
「歴史、得意だったっけ?」
「いや、まぁ、追々勉強すれば・・・。」
「ましてや、恋愛小説なんて絶対無理に決まってるでしょ?」
「・・・なんで断言できるんだ?」
「あんた、恋愛ってわかってんの?」
「・・・、ま~あれだ、・・・そのー・・・(汗)。」
「中学の時、クラス一緒だったことのある美咲ちゃん覚えてる?」
「? ん~・・・。」
「黒縁メガネの。」
「あー! 黒縁、覚えてる。」
「小島美咲ちゃんね(^^;)・・・話した事あるよね?」
「ん~…たぶん。何回か話したような気がする・・・それが?」
千尋は、オレの表情を観察した後、
「やっぱムリね。」
そう言った。
『は?意味わからん。』
「話の脈絡、無さ過ぎねーか?(汗)。」
千尋は、右手で軽く【あっちに行け。】、という仕草と共に、
「もういい。」
と言って、態勢を整え、異世界に舞い戻ろうとする。
「!意味分からんが、そこまで言うんだったら、恋愛小説書いてやろうじゃねーかっ!」
「はいはい。」
「絶対だからな!」
「んじゃ、期限は?」
「ん?」
「だから期限。いつまでに書き上げんのよ?」
「1週間!」
「無理。」
「じゃ、1ヶ月!」
「3ヶ月。」
「よ~し!3ヶ月だな! すんげ~の書いてやっからな!
心臓バクバクで、救〇飲みたくなるようなやつ書いてやる!」
なぜかCMが過ぎった。
「まぁ、せいぜい楽しみにしてるわよ。あ、今日ごはんウチね。」
「♪ おぅ!」
締めの会話が、一番重要だったりする。
千尋と我が家は、家族ぐるみの付き合いだ。
もっとも、オレの母さんは、オレが小さい頃に病死した。
なんとなく記憶がある。
やさしい人だった。
母さんが亡くなって、父さんが男手ひとつでオレを育ててくれた(くれている)。
でも、仕事が忙しく、帰りが遅かったり、長期の海外出張なんかもしょっちゅうだ。
そのため、千尋の父さん母さんが、オレのことを気にかけ世話を焼いてくれる。
飯なんかも当たり前のように一緒に食べさせてくれるし、千尋がうちで作ってくれたりもする。
オレも多少はできるようになったのだが、千尋には全く敵わない。
そんな一緒に育って来た様な千尋だが、あまりに身近過ぎて、気にも留めなかったことがある。(まー、わかったところで気に留めるつもりはないのだが。)
千尋は菜食顕微・・・? 。。。! 才色兼備のようだ。
確かに見た目そこそこ(学校の連中に言わせると、学内1、2を争う美人らしい)で、成績優秀。
勉強すれば、間違いなくトップ取れると思う。
誰とでも気兼ねなく話すし、裏表のない性格。
以前ふと、そんな千尋に『負けないことってなんだろう?』 と、考えたこともあるが、
オレは早々と白旗をあげることにした。
昔の話だが、千尋はオレの母さんの葬式で、ずっと傍で泣いてくれていた。
母さんが亡くなって、オレは悲しくて寂しかったのだが、千尋が泣いていることが、
とても辛かった。
「チーちゃん泣かないで。」
と、オレは言った気がする。
「ヒロくんは、チーが守るからね!」
泣きじゃくりながらも、千尋は言ってくれた。
はっきり覚えてる。
「何よ?、人の顔ボーっと見て。だらしない顔が、ますますだらしなくなってるわよ。」
千尋は気味悪そうにいう。
「うっせい!黙ってりゃオレだって、多少はイケメンに見えなくもないんだぞ!」
「黙ってればね。(笑)。」
ぐっ!? ヤなやつだ。。。
昔の思い出を大切に仕舞いつつ、『小説で見返してやる!』と、フワッと軽く、
心に決めてみた。