裁判
学園のある部屋
本来、休日の学園内は図書室か食堂にしか学生は立ち入ることがないが、今日は模範生である生徒会メンバーに監督生であるヴィクトルが揃っている。
はぁ。
緊張するわ。
上手く裁判が出来るかしら。
心は令嬢達の味方だけど、ここではあくまで中立を保たないと。
男子生徒達が身の潔白を証明する証拠を出してきて揉めたらどうしよう。
マリアとエメリアも表情が硬いわ。
「我々が緊張してどうする」
「俺達はあくまで調査した結果を伝えるだけだ」
「そうだよ!暴れる奴が出たら俺が抑えるから安心して!」
「そうよね。普通に進行して問題ないわよね。公平にするために事前連絡もしたし、警告状も出したし」
「自分達の身の潔白を証明するための調査する時間は充分には与えたから公平さは保たれているはずよ」
因み今日の役割はアル様が議長。
私が議長補佐で訴状の読み上げ。
マリアが報告書配ったりする外回り。
エメリアとリュカが記録。
シャル様は慰謝料額の読み上げ。
ヴィクトルは警備要員ね。
裁判の時間が近づき、立ち会いの教員達と原告である令嬢達と被告である男子生徒達が入室してくる。
「原告側はこちらに、被告側はこちらに着席して下さい」
強い覇気を感じさせる令嬢達とは裏腹に男子生徒達の表情は暗い。
ん?
あの子は?
「被告側であるルビーさんが来てないようですが、何か知りませんか?」
マリアが男子生徒達に問う。
「しっ知りません」
「俺達もう彼女とは関係ないんで」
と男子生徒は全員否定する。
「心配には及びません。彼女なら間もなく到着します」
教員の言葉通りルビーは時間通りに部屋に入ってきた。
警備員に取り押さえられながら。
なんで取り押さえられてるの?
「昨夜学園から抜け出そうとしている所を警備員が発見しました。無断で寮を抜け出した為、懲罰房に入れていました」
懲罰房って今は使われてない地下にある所だよね。
入学した時に規律を乱すなって脅しの意味で案内されたなぁ。
あんな所に入るなんて。
ルビーさんが何かと騒いでいるのを無視してアル様が声をあげる。
「定刻になった。ただいまより裁判を行う。学園内裁判とはいえこれは正式な訴状による裁判だ。成人とはいえ学生である身を考慮し、公な裁判ではないというだけであることを自覚するように」
私も役目通りに進行しないと。
「今回の訴状内容を説明致します。こちらの4名の御令嬢達によって各々の婚約者とルビーさんに対し不純異性行為の訴えがありました。御令嬢達としては婚約者とルビーさんに慰謝料と婚約破棄を要求されています」
「嫉妬も大概だと見苦しいぞ」
「そうだ。そもそも証拠はあるのかよ」
男子生徒達が騒ぎだし、それに対してアル様が咎める。
「静粛に!そちらの令嬢達によって学園に正式な調査依頼が出され、調査をおこなった。その結果を今見せよう」
アル様の言葉でマリアが即座に調査報告書を配る。
そこにはルビーさんと男子生徒達による密会して親密に察する様子が赤裸々に書かれている。
各々がルビーさんに貢いだ物もしっかりと記録されている。
「発言をよろしいでしょうか」
1人の令嬢が申し出た。
「許可する」
「ありがとうございます。では、嫉妬は大概だと仰っておりましたが、嫉妬とは自分の愛する者の気持ちが他者に向く際に生じる気持ちです。私がいつ貴方を愛したのでしょう?貴方がいつ私に愛されるような男性になったというのでしょうか。いつの間にか冗談がお上手になりましたのね」
「なんだと!」
「私達はこの調査結果を受け私を不当に扱う貴方からきちんと償って頂くためにこの裁判を起こしました」
「この調査報告書により被告側の不純異性行為が明らかになったが、被告側はこれにたいし身の潔白を証明する証拠の提出あるいは反論はあるか」
被告側にも証拠を揃える猶予を与えるために事前に通達したし、警告状を出したけど、覆せるような証拠を手にすることが出来なかったみたい。
証言人も用意出来なかったみたいだし。
予想通り男子生徒達は悔しそうな表情のまま黙っている。
「身の潔白が証明ができないのであれば、不貞を認め、原告の要求通りに慰謝料を支払うか?」
「「「「……はい。」」」」
男子生徒達は小さく返事をした。
「ちょっと待ってよ!ルビーは何も悪くないわ!浮気したのはルビーじゃないし、みんなルビーの魅力にやられただけよ。ルビーは払わないからね!」
やっぱりルビーさんは罪を認めないのね。
婚約者が居ると知ってて、こんな事までしてるのに。
「君は彼等に婚約者が居ると知っていた上で不貞を犯した。 調査報告によると君自ら彼等に口づけをしたり、身体の接触を許しているようだが」
「それはプレゼントのお礼に」
「君自身の認識の低さの問題で君も同罪だ。君が身の潔白を証明出来るなら聞こう」
「くっ。何よ!婚約者に相手にされなかったからってこんな裁判をするなんて!」
シャル様が慰謝料額を読み上げる。
「法制省は被告が不貞を認めた場合原告が慰謝料を請求するのは妥当であるとの判断だ。算出した慰謝料額を伝えよう。被告である男子生徒4名は原告である婚約者に対し金貨200枚の支払い。被告である女生徒は原告者それぞれに同額の支払いを要求する」
「「「「「!?」」」」」」
「たっ高すぎないか!?」
「たかだか浮気ぐらいで」
「そうだよ。浮気っていっても遊びだし」
「これくらいの遊び許せよ」
「なんでルビーだけ4人に払わないといけないよ!?」
「この金額は原告側の希望額ではなく、法制省が算出し妥当と判断したものだ。お前達は日常的に婚約者を罵るような発言をし、無実の罪で咎めたこともあったと記録されている。それらを加味しての金額だろう。そして被告の女生徒は支払いが4人分なのは当たり前だ。4人それぞれに不快な思いをさせたんだからな」
「それはルビーが虐められたって嘘をついたからだ。悪いのは全部コイツです」
「そうだよ。それに僕達はコイツの事を好きになったわけじゃないんだ」
「挙げられた不貞行為に対して金品を支払ってる。これは浮気というわけではない」
「そうそう息抜きにコイツを使っただけ」
「ちょ、ちょっと!アンタ達、どういうことよ!」
うわぁサイテー。
この人達の言い訳最低すぎる。
金貨1枚は日本円で1万円ぐらいの価値。
ルビーさんは合計800万円か。
貴族の子息は揉めるほど大金だと思えないかもしれないけど、ここは中世と同じ価値観だから大金よね。
まして自らの収入が少ない貴族子息だし。
ルビーさんは、庶民の月収は銀貨が数枚程度だし、これから大変ね。
「次に婚約破棄について進行を……」
「そもそも婚約破棄なんてお前の一存で出来るわけないだろ」
「そうだよ!」
「これは家と家の契約だ」
確かにね。
貴族の婚約が簡単に破棄出来るはずないわ。
よっぽどなことがない限りね。
「進行を続けます。本来、婚約者に使われるはずの交際費を賭博やルビーさんへの貢ぎ物に使われていたこと。経営を任された領地運用費の一部横領。また被告である女性との不貞行為を賭けの対象にするといった卑劣な行為。これらを理由に原告から生家と婚約者の家に、この婚約は自身にとっても生家にとっても不利益であると書状が出されています」
私の進行の言葉に対して男子生徒達が声を上げる。
「何を勝手に!?」
「証拠はあるのか!?横領なんてするはずがないだろ!」
「こちらが調査報告書になります」
とマリアが証拠となる書類を配る。
そこには連日賭場に通い、負けた金額。
交際費からルビーさんに使われた金額。
そして領地の経営帳簿の中で用途不明なお金の引き出し記録。
与えられたお金と支出と収入が合わないことが書かれた書類。
そして男子寮のゴミ箱から出てきた賭けに使ったと見られる表と破かれたノートが出された。
「「「「なっ!?」」」」
「なっなんで経営帳簿が」
「こんなの家令しか知らないはずなのに」
「このノートも賭け表も確かに処分したのに」
「どうやって調べたんだ」
「経営帳簿については横領の疑いを掛けていると当主に伝えた際、疑いを晴らすために提出して頂きました。交際費の使い込みについても原告、被告両方の家から帳簿や記録を提出して頂きました。そしてこのノートは学園と生徒会が用意した調査員によって発見しました。他の生徒への聞き込みも完了しております。記録によると被告であるルビーさんとの不貞行為内容と贈り物にポイントやランクをつけ1番になった者が賭け金の総取りだそうですね」
疑いを晴らすために男子生徒達のお父様も調査したはずよ。
残念な結果になったけど。
「そっそれは」
「俺達が悪いが、調査結果を一方側だけに伝えるのは不平等じゃないか!?」
「初めは疑いでの調査でしたから、学園が行った調査結果はもちろん被告側の家に報告しております。それに原告がそちらの家に書状を送ったのは警告状を出す前です。お父様方から領地経営についてや私生活について何か言われませんでしたか?」
「「「「うっ」」」」
「発言をお願い致します」
「許可する」
「ありがとうございます。1度や2度の小額の横領であれば大きな問題ではないと思ったのですが、領地の経営状態は芳しくなく、領民達が重税に苦しむ中、横領したお金で賭場に足繁く通うのは許せません。ルビーさんについても純粋な気持ちではなく、遊びだなんて驚きました。すでにお父様から貴方との婚約破棄の許可を得ています。これは他の3人も同様でしょう」
1人の令嬢の言葉に他の3人の令嬢も頷く。
「ちょっと!さっきから聞いてれば、ルビーが賭けの対象ってどういうことよ!?」
ルビーさんが1番近くに居た男子生徒に掴みかかる。
「おいやめろよ。ちょっとした息抜きだよ。でも先に近づいてきたのはお前だろ」
「なんですって!?」
「ほらな。そうやって化けの皮が剥がれて本性丸出し」
「何よ!ルビーのこと可愛いって言ってたじゃない!?」
「俺達が本気でお前に惚れるかよ」
「そうそう。可愛いのは顔の作りだけで表情と態度とか最悪だもん」
「勝手に決められた婚約者は可愛げないし、だからといって他の令嬢に手を出すわけにはいかなかったし。ちょうど良い所に庶民のお前が居たわけ」
「なんですって!じゃあルビーは悪くないじゃない!悪いのは全部こいつらよ!」
「でもお前が先に誘って、自分から身体を触らせたじゃん。物だって強請ってきて。お前も良い思いしたから同罪だよ」
うわぁ。
修羅場だわ。
「静粛に!では被告は自身の非を認めるのだな」
アル様の声に男子生徒達は諦めたかのように声をあげる。
「はぁ仕方ないかー」
「ここまで証拠揃えられたら大人しく認めますよ」
「はぁ慰謝料かぁ。怒られるだろうなー」
「婚約破棄するかどうかは父の意向に従う」
これで決着ね。
良かった。
「ではここで御当主達に意向を伺いましょう」
私の言葉でマリアが令嬢達の後ろのカーテンを引く。
「「「「父上/父様!?」」」」
「婚約破棄は家同士の契約ですから来て頂きました」
「ここまで酷いとは全く情け無い」
「婚約破棄は受け入れるしかあるまい」
「慰謝料は自身で払って罪を償え」
「お前をこのように育てた者として責任を感じるな」
男子生徒のお父様方はため息をついて口を揃えて宣言する。
「「「「お前を廃嫡とする」」」」
「「「「!?」」」」
「父上! 何故ですか!?」
「いくらなんでも廃嫡なんて!」
「僕は1人息子ですよ!?」
「今回のことは反省しております」
「お前達がその女を賭けの対象にし、婚約者を蔑ろにしながら不貞を働き遊んでいたことが学園内だけではなく社交界にも広まっている。お陰で家の信用を損なってしまった。また今回のことで今後お前は良縁を結ぶことが難しいだろ」
他のお父様方も同様の意見のようで、お父様から廃嫡を言い渡された男子生徒達は絶望の顔をしている。
「ふふふ。あははは。いい気味だわ!ルビーを馬鹿にした報いよ!貰った物は返さないわよ!これを売って支払いに当ててやるわ!」
ルビーさんが男子生徒達を嘲笑う。
ゔーん。
それを売っても金貨800枚になんて到底無理だと思うわ。
ルビーさん気付いてないのよね。
いい加減、教えた方がいいかな。
「ルビーさん。残念ながら彼らから貰った物は大した額にはならないと思います。」
「はぁ?そんなわけないじゃない!見てよこの大きなルビーを!これだけ大きい宝石なんだから高値になるはずよ!」
「それが本物であればそれなりの価値が付きますが、ルビーさんが持っているのは残念ながら偽物ですから」
「はぁー!?偽物ですって!?」
あぁ。
やっぱり令嬢達にルビーさんの慰謝料交渉した方が良いかも。
ルビーさんが仮にこの学園を卒業したとしても学園が紹介してくれる職はないだろうし。
はぁ。
この騒動ももうひと頑張りだわ。




