訴訟
(不味い!不味い!不味い!このままじゃ退学になっちゃう!そうなったらダン様に会えなくなっちゃう!)
ルビーは頼りの綱である男子生徒達に素っ気なくされ学費を払うあてがなく焦る。
(そうだわ!今まで貰ったプレゼントを売れば良いんだわ! 後で母さん達に請求すれば問題ないし、また貢いで貰えばいいんだもんね!)
「そこの方、少々お時間よろしいかしら?」
「げっマリエット」
「手短に用件だけ伝えますね。ダンに、ダミアン・モンタニエに近づかないで下さいませ」
「はぁ?なんでアンタにそんな事言われないといけないのよ!」
「私は彼の婚約者で恋人ですもの。まぁ貴方が近づくくらい、何も心配はなかったのですが、ダンがあまりに迷惑しているようなので婚約者として見過ごせませんわ」
「だとしてもアンタに言われたくないわ!ダン様本人から直接言われたわけじゃないんだし」
「あれほど愛称呼びは辞めるように言われていたのに。それにあの様に拒絶されているというのに、まだわからないなんて、おめでたい方ね。まぁ良いですわ。これを貴方に渡します」
マリエットはルビーに一枚の紙を渡す。
「なっなんなのよこれ!接近禁止令ってどういうことよ!」
「見ての通りですわ。私の愛するダンがストーカーに付き纏われて困っていますの。ダンはあの通り美男子でしょう?ですから、ダンが惑わしたなどと言われない様にしっかりとこちらが被害者だという証明がありませんと。それにいくらダンでも女性を斬るのは心苦しいでしょうから。その接近禁止令を破って近づいてきた、法を犯した者なら躊躇しなくて済むでしょう?」
マリエットの惚気混じりの返答にルビーは顔を赤くして激昂する。
「ルビーはストーカーなんかじゃないわよ!何よ!牽制のつもり!?こんな物がないと不安なんでしょ!ルビーの方が魅力的だものね」
「ふっふふふふ。おかしな方。貴方が魅力的だなんて。そうね、過去に貴方が居た場所では魅力的だったのかもしれませんわね。でもここでは違いますわ。私は貴方などチリほども恐れることはありません」
「なんですって!どういう意味よ!」
マリエットは笑いながら話を続ける。
「貴族ばかりのこの学園では、殿方の目には貴方のことが珍しく写りますが、貴方のことを天真爛漫な純粋で可愛らしい女性と思うことはありえません。貴方の行いや言葉は全て品がなく、それでいて純粋とはかけ離れていますわ。いくらお顔が綺麗でもそれでは、まるでそういった商売の方に見えますわ」
「なっなんですって!ルビーは娼婦じゃないわ!母さんと一緒にしないでよ!」
「あら、女手一つで育ててくれた母親に向かって何ということを。それに、娼婦だなんて言ってませんわ。貴方、自分は娼婦ではないと言ってますが、無自覚に娼婦の真似事をしているのではなくて?」
「はぁ?そんなわけないでしょ!」
「なので貴方の様な方相手に、私は恐れることはないのです。むしろ感謝しますわ。貴方というマイナスな存在がいるお陰で、ダンの中で私という存在がより輝き、より一層好きになってもらえましたわ。ありがとうございます」
マリエットは極上と思える笑顔で感謝を述べる。
「っ!この女!」
ルビーは反射的に手を上げ、そのままマリエットに目掛けて手を振り下ろそうとする。
「キャァ!?」
バシーン!
「えっ!?」
ルビーが叩いたのは目の前のマリエットではなく、割り込んできた訓練姿の男子生徒だ。
「ダン!大丈夫!?」
「え?ダン様!?なっなんで!?」
割り込んできた男子生徒はダミアンだった。
「大丈夫だ。それよりマリー、怪我はないか?」
ダミアンは心配そうにマリエットの頬に手を添える。
「ダンが守ってくれたから大丈夫よ。それよりどうしてここに?」
「マリーが令書を直接渡しに行ったと聞いて心配で飛んできた。評判の悪い女に対面するなど危険すぎるだろ」
「ごめんなさい。でも言いたいこともあったから」
「おい、この際だハッキリ言おう。俺はお前のような軽薄な女など、天と地がひっくり返っても好きになることはない。お前の全てが不愉快だ。俺はもちろんマリーに近づくな」
「そっそんなダン様!」
ルビーはダミアンに向かって手を伸ばす。
「近寄るな!穢らわしい!お前のような男に媚を売り、金品を得るような者など好くはずがない!学び舎で商売をするなら去れ!」
「商売なんてしてないわ!確かにプレゼントは貰ったけど、それは御好意です!」
ルビーがダミアンに向かって必死に弁明するが、ダミアンはもうルビーのことは気にかけていない。
ルビーが叫んでいる間にマリエットがダミアンに話しかける。
「ダン行きましょう。もう用件は済んだわ。これ以上、この方に関わりたくないわ」
「そうだな。これ以上付き合う義理はない。疲れただろう。鍛錬場のテラスで休もう」
「えぇ少し気を張り過ぎたみたい」
「俺に寄り掛かるといい」
ダミアンとマリエットは最後はルビーに目もくれずその場を立ち去って行った。
「クリス姉様!ルビー悲しいぃ!」
人目のつかない学園の端にあるテラスでルビーはクリスティーヌに泣きつく。
「相手は侯爵令嬢に辺境伯子息ですもの。貴方では敵うはずがありませんわ」
「そんなぁ!侯爵家の権力を使って私を邪魔するなんてぇ!」
「生まれた家の格差。家の権力がそのまま令嬢の魅力の一つになりますわ。生まれが逆ならと私も強く思いますわ」
「そっかクリス姉様も権力を盾にされたんだけっけ」
「そうですわ!生まれが逆であったならば、あの方の隣にいるのは私であったはず!そうでなくとも家が格上でなければ私が選ばれる余地もありましたわ!政治や権力的に私を選ぶことが出来なかっただけですわ!」
「そうよね!ダン様も同じだわ!私はもうすぐ子爵令嬢になるけど、侯爵家の権力に勝てないだけで私自身は負けてないわよね!」
「そうですわね(貴方が子爵令嬢なんて、ありえませんわね)」
「そうだとわかると余計に悔しい!」
「仕方ありませんわ。恋敵がいる限り状況は変わりませんわ」
「ゔー。アイツ消えてくれないかしら」
「物騒なこを言うものではありませんわ。ただそうですわね、相手が消えなくても何らかの理由で婚約者の立場を降りるようになれば良いのですわ」
「何らかの理由ってたとえば?」
「そうですわね、たとえば怪我をして療養が必要になることでしょうか」
「そんなことでいいの?」
「ええ、貴族社会で社交界に出てこれない者に価値はありませんから」
「そうなんだ!それならまだ私にチャンスはあるわ!」
(チャンスってどうする気なのでしょう)
「それより貴方、自分宛の手紙はきちんと管理してますの?」
「手紙?私に手紙なんて出す人なんていないから放置してるけど」
「学園外からの手紙以外にも学園からの通知などが来てるはずですから寮に帰ったら必ず目を通すといいですわ」
「へぇーそうなんだ」
寮に戻ったルビーは溜まった手紙を整理する。
その手紙の中に学園からの通知があった。
学費の件はもちろん、テストの点数や順位の通知、普段の生活態度の減点表。
「はぁ、やっぱりロクな手紙ないわねー。あっこれも学園からだ」
ルビーは手紙を開封する。
--------------------
この度、学園内において婚約者を有する複数の男子生徒との不貞行為に対して、訴訟が出ております。
今回は警告に止め正式な訴訟は控えるとの主旨をここにお知らせします。
------------------------
という手紙が2ヶ月前。
--------------------
不貞行為に関する最終通達書
度重なる警告に対して、貴方の不貞行為は改善されず正式な訴状が提出されました。
つきましては学園職員、生徒会立ち会いの元裁判を致します。
--------------------
「嘘でしょー!?裁判て明日じゃん!」




