賭け事
「だークソっ!また負けかよ」
「もぉー今回は勝てるって言ったの誰?」
「今回は勝てると思ったんだけどなー」
「あーもうツイてねぇなー」
先程から貴族子息に似つかわしくない言葉を発しているのはルビーの取り巻きである男子生徒だ。
どうやら今日も賭場に行き負けたらしい。
「ツイてないとえば領地経営もツイてないことばかりだ」
「立ち上げた事業内容が既に特許取られてたんだっけ?」
「そうなんだよ!ついてないよなー」
「ウチも同じ様なもんだな」
「俺の所は領民がごそっと移っちまった」
「はぁー。領地経営上手く行ってる奴居ないのかー」
男子生徒4人は苦い顔をする。
家から任されてる領地経営は上手くいかず、賭博でも負け込んでいるようだ。
「最近家でもとやかく言われんだよなー」
「俺も。前までは何も言われなかったのに、最近は小言を言われる。領地経営なんて細かいことは家令がやるんだし、経営学なんてそこそこの点数取れていればいいだろ」
「そうだよなー。それにどうせ卒業したらアイツと結婚して事業吸収するし」
「そうそう。その為に我慢して好きでもない奴と結婚するんだし」
「数年の付き合いになるけど、やっぱり好きになれないんだよなー」
「俺もー。どうせならもっと美人がよかった」
「僕は可愛い方が好みだなー」
「その点セレスティーヌ様やマリア様は最高だよな」
「ああ2人とも美しさと可愛いさの両方を兼ね備えてる」
「セレスティーヌ様は大きい瞳が猫の様で美しさと可愛さがあるよなー」
「マリア様はあの庇護欲を誘う優しい垂れ目。なのに強い意志を感じさせるあの瞳は魅力的だろ」
「それに加えて2人ともスタイル完璧だし」
「マリア様の足のラインの素晴らしさ!乗馬姿が良く似合う」
「いやいや見事なのはセレスティーヌ様の胸だろ!あの胸の大きさと折れそうなほど細い腰とのバランスは言葉に表せない」
「いや足だろ」
「胸に決まってるだろ」
「それで言うとマリア様はそこそこ胸も大きいしセレスティーヌ様より上か?」
「何言ってんだよ。セレスティーヌ様は足だって完璧だろ」
「僕は可愛い子がいいからエメリア嬢がいいな。美少女の天真爛漫で純真な笑顔。最高だよ」
「確かに美少女だよなー」
「でも色気が足りなくないか?」
「胸も平均的だしなー」
「わかってないなぁ!小柄で華奢な印象のエメリア嬢のスリーサイズが平均的って奇跡だよ!」
「たっ確かに!小柄な美少女なのに胸があるって最強かもな」
「しかもエメリア嬢は優しい上に気さくな性格だし」
「元平民だから他の令嬢達と違って高飛車じゃないもんな」
「そうなんだよ!そんな性格も良い完璧な美少女が恋人だったら最高だよ!」
「はぁ、良いよな。絶対毎日が楽しい!」
彼らのゲスい話はまだ続く。
「1つ上の学年はその3人が居て華やかだよなー」
「俺らの学年で華があるのはマリエット嬢くらいだな」
「はぁ。そのマリエット嬢も婚約済みだしなー。セレスティーヌ様にはアルベルト殿下が居るし」
「マリア様にはヴィクトル様という鉄壁の守りが付いてるしなー」
「エメリア嬢は婚約してないし、男爵令嬢だから比較的接近しやすいはずなのに、何故か近づけないんだよねー」
「大方、周りの人間が守ってるんだろ」
「いつも6人で行動してるしなー」
「あの5人が守ってるなんて鉄壁すぎる」
「はぁ良いよなー。生まれも良くて見目も良い上にあんなに綺麗で可愛い令嬢と過ごせるなんて」
「将来安定だし結婚相手も最高だしなー」
「俺らなんて卒業したら好きでもない女と結婚だもんなー」
「そういえば例の賭けどうなってる?」
「えっとー。こないだ僕がこの50ポイント使ってA難度達成したから全員横並びだね」
1人の男子生徒が達成ランクポイントと使用したポイントの差し引きが書かれた紙を見ながら話す。
「なんだよ。全員同じかよ」
「流石にS難度は誰も達成しないか」
「まぁS難度を達成した奴が出た時点でそいつの独り勝ちだしな」
「逆にここにいる全員がA難度達成してるだけ凄くないか?」
「でもこれじゃあ賭けにならねえよ」
「はぁ。じゃあ逆にリタイヤする奴、本気になった奴いるか?」
「お前は?可愛いと言ってたけど」
「はぁ?流石に本気になんてなるわけないよ。エメリア嬢と比べたら月とスッポンだし」
「まぁなー。本物の美女と比べたら安っぽいしなー」
「ねぇ、まだこの賭け続ける?」
「そろそろ潮時かもなー」
「良いガス抜きになってたけど、最近はデメリットの方が大きいしな」
「そうそう。こないだなんか罰則食らったし」
「婚約者達もなんか動いてるみたいだし、こないだの一件が尾を引くのは不味いだろ」
「じゃあこの賭けはドローってことで、終了だね」
「じゃあ明日からアイツに対する態度は個人の自由ってことで」
そう言って賭けの内容が書かれた紙を丸めて屑籠に投げ入れる。
「「「「解散!」」」」
男子生徒達は酒の入ったグラスで乾杯し寮のそれぞれの部屋に戻っていった。
閉じられていたはずの窓が空き、黒い影がスッと部屋に入り屑籠を持ち去る。




