ペアルック
2年生になってだいぶ経ったわ。
レオ君はもう首が座ってお座りしてたし。
赤ちゃんの成長は早くて、久々に会ったらまた大きくなっててびっくりしたわ。
もっと会いに帰らないと忘れられちゃうわ。
手足が動くようになって私に向かって手を伸ばすレオ君の姿は本当に可愛い。
はぁ。
会いたくなってきちゃった。
今週末も絶対にレオ君に会いに帰ろう!
はぁ、早く会いたい。
「セティー、何を考えているんだ?」
「ハッ!アル様、えっと」
「私との食事は退屈だったか?」
「そんなことないわ!ちょっとレオ君の事を考えてたの。話を聞いてなくてごめんなさい」
恒例になったアル様との食事。
慣れたということもあるけど、違うことを考え込むなんて失態だわ。
「レオか。週明けのセティーはいつもレオのことばかりだな。それもレオのだろ?」
アル様はため息をついて私の手荷物の方を指差す。
「えぇ、そうよ。レオ君のスタイを作ってるの」
形は作り終わり後は刺繍をするだけになっていた物だ。
ここ最近はレオ君の靴下や手袋などばかり作っている。
「はぁ。昔は私にハンカチを作ってくれていたのに」
ギクッ!?
たったしかに。
アル様に手作りの物を最後に渡したのっていつだろう……。
でっでも、レオ君のスタイは今しか使わない物だから今作らないと。
それに貴族にとってスタイは使い捨て感覚の物だから、不恰好でも気にならないし。
アル様の物なら、私が作るよりも一流のお針子が作る物の方が良いに決まってる。
アル様に渡すことを前提としていない物は作ったけど……
うん、絶対に渡せないわ。
恥ずかしすぎる。
「わかっている。所詮は形だけの婚約者にそう何度も手作りの物を作るはずがないと」
アル様は切なそうな顔をする。
えっ何その顔!?
ヤダ、胸がキュンとする!!
「あっアル様!作らなかったわけじゃないのよ!ただアル様の物は一流じゃないと……」
「あるのか!?」
アル様はものすごい勢いで私の話を遮る。
「えっ!?あっあるけど。その、デザインが。アル様に渡すつもりはなくて、その自己満足だから」
「欲しい!」
「えぇー!?」
無理!
恥ずかしい!!
「セティー、私は君の手で作られたものならなんでも欲しい。 我ながら欲深いと思うが、それらはどんな宝石よりも価値がある。どうか私の望みを叶えてほしい」
アル様は目をキラキラさせてじっと私を見つめてくる。
はあー!!
キュンときてる所にその顔は反則よぉー!!
アル様の数少ない願い。
出来ることなら叶えてあげたい。
それも私の作った物がほしい。
そんな細やかな願い。
「えっと、寮にあるから。後で渡すわ」
後で渡せそうな物を選ぼう。
「今から取りに行こう」
「今から!?」
「この後はお互い授業がないからちょどいい」
どうしてこうなった。
寮の私の部屋にアル様がいる。
普通女子寮は男子禁制じゃないの?
なのにあっさり許可が降りた。
婚約者だからか、顔パスなのか。
どうしよう。
例の物はまとめて箱に入れてあるけど。
「お嬢様、お持ちしました!」
メイドのカミラが例の箱を持ってきてしまった。
どうして持ってきちゃったのー!?
しかもそれ隠してたのに!
私は箱を目の前にし、開けることを躊躇する。
「お渡しする機会に恵まれて良かったですね」
「このままお渡し出来ないのは勿体ないと思ってました」
残りのメイド、エルとアンナは私が恥ずかしがっていると思っているのか、援護するような発言をする。
「お嬢様ったら、早くアルベルト殿下に見てもらいましょう」
「そうですよ!お嬢様、ここは恥ずかしがらずに!」
「お嬢様が何よりも心を込めて作っていたのは私達が保証しますから」
ひぃー!
なんで知ってるの!?
1人でこっそり作ってたのに!
目の前に座るアル様の顔が見れない。
もっもう開けるしかないのね。
私は目を瞑ったまま箱を開ける。
「これは……」
アル様の声が聞こえる。
はあぁ!!
見られたー!!
違うのよ!
ほら、前世でグッズ販売に行けなかったから。
それなら作っちゃえばいいと思って。
ハンカチにブックカバー、トートバッグ。
それにシャツの襟飾り。
ハンカチとブックカバー、トートバッグはアル様イメージの色を使ってゲームのロゴが刺繍されている。
それらは私がこっそり使ってるからいいのよ。
問題なのは私のイメージカラーでお揃いの物も作ってしまったのよ!!
アル様がもし使ったらお揃いだわなんて浮かれて!!
シャツの襟飾りもお揃い。
シャツの襟の両端につけるための宝石をチェーンで繋いであるデザイン。
男性ならネクタイの飾りにもなるわ。
ただ色が……。
金にブルーグレーの宝石、ダイヤにアメジストの宝石。
それらをルビーを織り交ぜて赤くしたチェーンで繋いでいる。
私とアル様を繋ぐ赤い糸。
なんて思って作ってしまったのよ!!
痛い!
痛過ぎるよ私!!
でも、だって欲しいでしょ!?
アル様のグッズ!
本当ならマスコットとか、下敷きとか欲しかったんだから!
「このマークはなんだ?複雑な模様でとても綺麗だな」
ハッそうか!
ゲームのロゴなんて私にしかわからないわよね!
セーフ!!!
後は襟飾りだけ何とか回収すれば!
「こちらはお嬢様と殿下のそれぞれの色がございます!お嬢様は殿下の色の物を使っているんですよ!」
カミラがブックカバーとハンカチを広げて自慢げに話始める。
ちょっと待ってカミラ。
何を暴露してくれているの?
「ではこちらはセティーとお揃いというわけか!セティー、ありがとう!」
アル様の顔がこれでもかというくらい輝いている。
「えぇ、どう致しまして?」
うぅ、そんな顔されたらどうしていいかわからないわよ。
「そしてこの小さい箱には何が入ってるんだ?」
「っ!!」
アル様が小さい箱を持ち開けようとしている。
「待ってアル様、それは……」
「これは、襟飾りか?この宝石の色は私とセティーだと思っていいのか?」
「ゔっうん」
私は恥ずかしくて俯いてしまった。
「お嬢様、説明しなくていいんですか?」
「せっかくこだわって作られましたのに」
そりゃあ可愛く、2人の色を使って2人が運命の赤い糸で結ばれますようにって願いを込めました。
なんて説明出来たら苦労しないわよ。
「この赤いチェーンには何か意味があるのか?とても綺麗だが一般的に金か銀が使われるだろ?」
「えっ?」
あっ運命の赤い糸ってこの世界では知られてないのかな?
元々中国とか東アジアの伝説から広がったものだし。
これもセーフなのね!
良かった!
引かれずに済むわ!
「えっと、金も銀も宝石と色味が被るから、その色にしたのだけど、変だったかしら?」
「いや、とても綺麗だ。早速着けてもいいか?」
「えぇ、もちろんよ」
「せっかくだからセティーも着けないか?」
「えぇいいわよ」
動揺し過ぎて思わず付けるって返事をしてしまったわ。
襟元は鏡がないと着けられないから、メイドさんに付けてもらおう。
そう思っていたら急にアル様の顔が目の前にきた。
いつの間にかアル様が向かい側から隣に移動してきていた。
「えっ?」
「動いたら付けられないだろ。じっとしててくれ」
「うっうん」
なんと、アル様が私に襟飾りを着けてくれるようだ。
心臓がドキドキする!!
「よし、セティー、とても似合ってる!」
「ありがとう」
「私にも着けてくれないか?」
「うっうん」
アル様に襟飾りを着けるために近づく。
必然的にアル様の胸元や首筋が近くなる。
はぁー!!
アル様の匂いが!!
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!!
これじゃあ変態だわ!
「着けれたわ!」
襟飾りを着けると同時に離れようとするが、アル様に両肩を捕まえられ距離を取ることが出来ない。
「どうだ?似合うだろうか?」
「とっても素敵よ」
「セティー、とても素敵な贈り物をありがとう。全部大切に使わせてもらうから」
「喜んでくれて嬉しいわ」
「では、学園の方へ戻ろうか」
えっこのまま教室に戻るの!?
恥ずかしい。
「そろそろ戻らないといけない時間だろ」
「それはそうだけど」
「「「お嬢様、行ってらっしゃいませ」」」
メイドさん達に見送りをされ行くしかなくなった。
案の定、目立った。
王太子であるアル様は元々注目されてるけど、今日はより目立った。
後日。
マリア曰く、恋人同士で衣服の飾りを着けることが流行ったらしい。




