鍛錬場にて
「ふぅー。疲れたぁ!また強くなったなダン!」
「いえ、 俺なんかはまだまだです」
ヴィクトルとダミアンは剣を交え笑い合う。
「ダン、良かったら使って」
マリエットがダミアンにタオルを渡す。
「ありがとう」
「はい、ヴィもタオル使って」
「マリアありがとう!」
「2人はまだ鍛錬を続けるの?」
「うん!せっかくダンと1対1で対決出来るし!ダンはやっぱり騎士志望の中でも飛び抜けてるから刺激になるよ!」
「ヴィはいいかもだけど。ダミアン様、面倒なら面倒とちゃんと言って下さいね!」
マリアはズズいとダミアンに詰め寄る。
するとダミアンは数歩後ろに下がる。
「俺は平気です」
「ダンたら、マリア様にその態度は失礼よ」
「いいのですよ。女性が苦手だとヴィから聞いていたので」
「苦手というか。女性はすぐ泣く上に自分の都合を押し付けますから、極力関わらずにいたら接し方が分からなくて」
「でもマリー様は大丈夫なんですね」
「ダンとは幼馴染ですから」
「マリーとは長い付き合いなので」
「幼馴染で婚約者ですものね。婚約者のマリー様以外の女性と親しくなる必要もないですし、そのままで良いと思います」
「そう言ってもらえると助かります」
「私もダンが他の女性から熱い視線を送られていても嫉妬しなくて済むので助かってます」
マリエットがマリアにコソッと耳打ちをする。
「あら、それはいい事ですね」
「はい。お陰で今も冷静で居られます」
「(きっとルビーさんのことね)」
「ヴィクトルさん、女性の鍛錬場への出入りを禁止できませんか? 最近特に煩わしいのですが」
「ああ、それかぁ。ゔーん。騎士志望じゃない奴らはむしろやる気が出るって言ってたけど、俺らみたいに真剣に剣術の鍛錬をしてる奴はいい顔してないんだよなー」
「この鍛錬場とは別に稽古をする場所を作って、分けたらどうかしら?普段から一般生徒と騎士志望の人では実力差があるから一緒に鍛錬をする事は少ないのだし、鍛錬場は関係者以外立ち入り禁止にして、他の練習場は見学を自由にすれば良いんじゃない?」
「それいいかも!マリア、ありがとう!さっそく申請してみよう!」
「マリア様、関係者とはどの範囲を示しますか?」
「ダミアン様はマリエット様が御見学されるのもお嫌ですか?」
「いや、マリーなら構わない」
「それでしたら鍛錬する者の許可を得た者だけが見学するようにすればよろしいかと思います」
「鍛錬場の管理者に協力して貰えれば大丈夫そうだね!」
「私も見学を続けられるのは嬉しいです」
マリア、ヴィクトル、マリエットが笑顔で会話する。
「そもそも、剣術の鍛錬なんか見て楽しいのか?」
ダミアンがボソっと疑問を投げかける。
「あら、私はダンの勇姿が見られるから嬉しいわ。私はダンが騎士として剣を振るっている所は見れない。だから私はこの鍛錬場に来れる事が嬉しいわ」
「そうか。退屈でないならいい」
「ええ。これからも静かにするから見学させてくれると嬉しいわ」
「わかった」
マリアとマリエットは鍛錬場の隅に置かれた席に座る。
「マリー様すごいですね!はっきりと自分の気持ちを伝えられるなんて!」
「男性は言われないとわからないのです。特にダンはそういう事に疎いので、すれ違う前に気持ちを伝えることにしてます」
「確かに女性は気持ちを察してほしい、男性は気持ちを言ってほしいと言いますもんね」
「そうです!でも気持ちを察してくれる男性なんて稀ですから。理想と現実は違います」
「それでも自分の気持ちを相手に伝えることが出来るのは凄いですよ」
「ありがとうこざいます。それでも肝心の『好き』という言葉は言えませんけどね」
「失礼ですが、お二人は……」
「恋人同士ではありません。幼馴染で婚約者というだけです。私はダンのことを好いていますが、ダンがどう思っているかはわかりません。この婚約を嫌がっている様子はありませんが」
「でも、ダミアン様は元々感情を表に出す方ではありませんから」
「だからこそ、相手の気持ちを察しなれけばいけません。私の方こそ言ってもらえないと気持ちがわからないのです。だからせめて、ダンと一緒に居ることは楽しい、嬉しいと分かってほしくて口に出すようにしているのです」
「恋愛って難しいものですね。本ではあんなに素敵なのに」
「現実はこんなに切ない気持ちになります。ふふ、マリア様もお相手が出来れば同じ気持ちになりますよ。社交界では誰がマリア様を射止めるのかという噂で持ちきりですよ」
「はぁ。 私もそろそろ覚悟をしなければいけないのかしら」
「どなたか想い人がいらっしゃるのですか? 私から見てマリア様は自分を口説こうとする男性を避けているように見えます」
「想い人なんて居ませんよ。ただ、まだ自由で居たいだけなのです。貴族の娘としての義務より自分の気持ちを優先していただけですよ」
「マリア様……。 私も、婚約者がダンではなく、会ったこともない方でしたら義務や責任など放り投げて逃げてしまいたくなりますわ」
「マリエット様は立派な侯爵家の御令嬢ですもの、きっとそんなことしませんよ」
「いいえ、私が侯爵家に生まれたことを感謝することが出来るようになったのはダンのお陰です。侯爵家に生まれたからダンに出会えたと思えば、候爵令嬢としての重圧にも耐える事ができます」
「それほどダミアン様のことを好いているのですね」
「はい」
「マリア、こんな所に居たのか」
「シャル様こそどうしてここに?」
「たまには身体を動かさなければと思ってな」
シャルエラルトが笑顔で剣を持ちながら話す。
「と思ったがヴィに1年のダミアンが居たのでやめた。あの二人に見つかれば死ぬ程しごかれる。あの二人の体力には流石についていけないからな」
「ふふ、確かに。あの二人がちょっと特殊よね」
「所でそこの麗しい令嬢は?」
「彼女はダミアン様の婚約者のアリエット様よ」
「お初にお目にかかります。ファビウス侯爵が娘マリエットと申します」
「あの朴念仁の婚約者がこのように美しいとはな。マリエット嬢か覚えておこう。2人は何をしていたのだ?」
「ヴィとダミアン様の稽古を見学しながらお話していたのよ。セティーの言葉で言うなら女子会ね」
「女子会、つまりは恋バナか」
「えっとまぁそうだけど」
「ふふ私としてはマリア様の恋バナが聞きたかったですわ」
「私に相手はいないから、恋バナなんてありませんよ」
「あら、マリア様を好いている男性は多いんですよ!それに、この前来た大使の方はどうなったんですか?」
「なっなぜそれを!?」
「噂になってますもの。それだけ皆マリア様に注目しているのです!」
マリアはかぁっと顔を赤くする。
「ただ外交の話で盛り上がって、一緒にオペラを観に行こうと誘われただけよ」
「それで行くんですか!? 」
「えっと、まだ返事をしてなくて。でもそろそろ返事をしなくては」
「それでマリアは行くのか?その男とオペラに」
「悩んだけど、お断りさせて頂こうと思ってるの」
「えぇ!そうなんですかぁ。マリア様にも春が来たと思いましたのに」
「一国の大使の方とばかり親しくするわけにはいかないので。オペラは観たかったのですが」
「ではそのオペラに俺と行こうか」
「えっ?シャル様、そのオペラは恋愛物なんだけど、観たかったの?」
「この国と俺の国では恋愛の価値観が違うからな。興味がある。 しかしアルと男2人で恋愛がテーマのオペラを見るのは嫌だし、マリアさえ良ければ付き合ってくれ」
「ええ、私で良ければ」
「ありがとう。楽しみが出来たな」
それから数日
「あの、昨日はタオルをありがとう。その、今日は鍛錬場で稽古をするんだが良ければ見に来てもらえないだろか」
「喜んで!お誘いありがとうございます」
男子生徒が女生徒を鍛錬場の見学に誘う。
「マリアの発案上手くいったよ」
「剣術の鍛錬を鍛錬場と演習場に分けることで実力意識がついたからな」
「圧倒的に鍛錬場は静かになったな」
「女性達の間でも鍛錬場の見学が出来るのは特別だと評判だわ」
「鍛錬する男性から許可やお誘いがないと出来ませんからね」
「さっきの方みたいに鍛錬場に誘われるのは本命の証しだって噂になってるわよ」
「見学に来る女性達もマリエット様を習って大人しく見学しているし、良かったわ」
鍛錬場入り口の管理室で止められている、ルビーの姿があった。
「どうして!?どうして私は入れないの!?」
「貴方は見学の許可がないので通せません」
「私はダン様と知り合いなのよ! 」
「それと許可があるのは関係ありません」
「何ですってー!?誰がこんな決まり作ったのよー!?」
マリア回になりました。
マリエットには今後も活躍してもらう予定です。




