お世話
「レオルドー。レオくーん」
弟のレオルドが生まれて2週間。
あぁ!
このプニプニのほっぺ!
モッチモチの手足!
まるでちぎりパンみたい!
可愛いぃぃー!!
「お嬢様、アルベルト王太子様がお見えです」
「アル様が?」
「はい。坊っちゃまを抱えたままで結構ですので、軽く身支度を整えましょう」
「ええ、お願い。レオ君も一緒でいいかしら?」
「アルベルト王太子様なら大丈夫だと思いますよ」
私の身支度が終わった頃、応接室に移動しようとしたらアル様がサロンに来た。
「アル様!今応接室に行こうと思ってた所よ。待たせ過ぎたかしら?」
「いや、セティーが弟を抱えていると聞いたので、こちらに来るのは大変だろうと思ってな。それに私の方こそ突然来てすまない」
「あら、良いのよ。それに気を使ってくれてありがとう。どうぞ、ソファに座って」
アル様をソファに誘うとアル様は私の隣に座った。
向かい合わせのソファがあるんだけど。
まぁいいか。
「アル様、この子が弟のレオルドです!」
「ああ、無事に産まれて良かった。セティーと同じ髪だ」
「そうなの!でも瞳はお母様やお兄様と同じ翡翠なの!お兄様似で綺麗な顔立ちでしょう?」
「ああそうだな。でもセティーにも似てるな」
「ふふ、そうかしら? お兄様も私に似てるって言うのよ」
「2人ともさっそく溺愛しているんだな」
「ええ!もう可愛くって!」
「それで王宮にしばらく来ないということか」
ギクっ!
そう、産まれすぐに手紙にレオルドが生まれた報告に加えてしばらく王妃教育の日以外は王宮に行けないと書いたのよ。
実際こないだ王妃教育があったけど、終わったら即帰宅でアル様とは会えてなかったわ。
だってこの休みが終わったら、しばらくレオ君に会えないんだもの。
今のうちにたくさん触れ合わなきゃ!
「だっだって、レオ君と一緒に居られるのは今だけだし」
「それはそうだが、何時もは忙しくても私の所に寄ってくれていたから、少し寂しく感じた」
「っ!?」
寂しかったって!?
キュンってきたわぁ!!
「今度からは必ず顔を出すわ」
「ああそうしてくれ」
少しして、メイドさんがお茶とお菓子を運んできた。
美味しそう。
だけど、レオ君を抱っこしてるから手が離せないわ。
「セティー、口を開けて」
「っ!?」
アル様がお菓子を掴み私の口に入れようとしてる。
大人しく口を開けると思った通りに、口にお菓子を入れてくれた。
あれから度々こうしてアル様に食べ物を食べさせてもらう事がある。
もちろん私がすることもあるけど。
はぁ、何度やっても恥ずかしいわぁ。
「アル様、ありがとう」
「ああ。そうだ、私にもレオルドを抱かせてもらっていいか?」
「もちろん大丈夫よ。首がすわってないから気をつけてね」
「ああ」
アル様がレオ君を抱っこした途端、レオ君の目がぱっちりと開いた。
「あら目がぱっちり開いたわ!」
「おお、本当にジルと同じ翡翠の瞳だ。レオルド、将来君の義兄になるアルベルトだ。よろしく」
義兄って!?
そっそうよね、そうなるのよね!?
アル様の口から言われると、ドキドキするわー!
書類上の関係じゃなくて、心の通じ合った関係になれるように頑張ろう。
レオ君はアル様の顔を見つめる。
「オギャー!!!オギャー!!!」
レオ君は突然泣き出し、手足をバタバタとバタつかせる。
「うわっ!えっどうした?私は怖くないぞ」
「あらあらレオ君どうしたの?」
アル様からレオ君を預かり、あやすとレオ君は直ぐに泣き止んだ。
「私の顔はそんなに怖いのだろうか」
「そんなことないわ。赤ちゃんは視力が良くないから、たまたまよ」
「そうだと良いんだが。私ももうじき兄になるというのに、不安だ」
「アル様なら良いお兄様になるわよ」
「ありがとう。兄になるまでに赤子に慣れておかないとな。セティー、良かったら休みの間定期的に遊びに来ても良いか?」
「もちろん、良いに決まってるわ」
わーい。
アル様に会えるー。
「オギャー!」
「あーよしよし。どうしたの?お腹が空いたの?」
レオ君が再び泣き始めた。
あやしていると、私の胸元に顔を埋める。
やっぱりお腹が空いたのね。
そろそろお母様と乳母の元に連れて行こうとは思ってたのよ。
「お腹が空いたのね。今お母様の元に連れて行ってあげるからね。アル様、少し席を外すわ」
「ああ大丈夫だ」
レオ君をお母様に預けて戻ってくる。
やっぱりお腹が空いてたみたい。
当たって良かったわ。
「アル様、お待たせ。やっぱりお腹が空いてたみたい」
「いや、大丈夫だ。セティーはレオルドの泣き声を聞き分けられるのか?」
「んーなんとなくよ。時間とかもあるけど、さっきは私の胸元に顔が来たからお腹が空いてるのかなって思っただけよ」
「そうか。でも、たくさんレオルドの世話をしてるからこそ気づけたんだ、セティーは兄弟思いだな」
「ふふ、ありがとう。単純にレオ君が可愛いっていうのもあるけどね。まぁ今のうちに赤ちゃんのお世話に慣れておけば、将来困らないしね」
はっ!
私ったら何を!?
そりゃあ結婚したら子供欲しいけど。
アル様がジッとこちらを見つめてくる。
ソファに置いていた手にアル様の手が重なる。
あっあれ?
何この雰囲気。
「セティー」
「はっはい!」
重ねられた手をギュッと強く握られ、アル様がジッと私の方を見つめてくる。
きゃあー!
なっなんか良い雰囲気な気がするぅ!
なっ何か言わなきゃかな!?
でもどうすればいいの!?
あぁ!選択肢ほしぃー!!
どうして良いか分からず、アル様を見つめ返すことに恥ずかしさが限界に達し、私は目を瞑る。
「っ!セティー」
アル様の手が私の頬に触れる。
何!?
何事!?
目を瞑ってるから分からない!
でも目を開ける勇気がなーい!!
バーーン!!!
なんとなくアル様をより近くに感じた時、扉が勢い良く開いた。
「ヒャッ!?なっ何?」
ビックリし過ぎて変な声出ちゃった!
「「アル様ー!!!」」
「お父様!お兄様!」
扉の所にはお父様とお兄様、それにお兄様に抱えられたレオ君が居た。
「あの、お二人ともどうしたの?」
「どうしたもこうしたもありません!2人とも離れなさい!」
「アル様、婚約しているとはいえ、嫁入り前の可愛い妹に何してるんですか?」
「オギャー!」
なんだか2人ともお怒りだわ。
それにレオ君もご機嫌ナナメだわ。
「お父様、お兄様、落ち着いて下さい! アル様とはお話してただけですよ?」
「セティー!話をするだけなのに、くっついて座る必要ないだろ!嫁入り前の娘に不必要なスキンシップなんて、お父様は認めない!」
「アル様、ちょっと」
お兄様はアル様にコソコソ話をする。
「言いましたよね。セティーとの関係を進めるため、ひいてはセティーの幸せのために多少は目を瞑りますが、くれぐれも、度が過ぎことはしない様にと。今セティーに何をしようとしてました?」
「いや、その。あれだ、まつ毛にゴミが付いていたから取ろうとしただけだ!」
「へー、そうですか。片手でセティーの手を握り、もう片方の手でセティーの頬に触れて。手を使わずにゴミを取ろうとねぇ」
「ゔっ!」
「お父様!お兄様!私達は婚約以前に友人なのですから楽しくお話くらいさせて下さい!」
というか過保護にも程があるよー!
アル様に呆れたらどうするのー!
「セティー!ああ私の天使がぁ!」
「セティー、お話をするのは良いけど、無防備過ぎるよ」
お父様はともかく、お兄様から無防備だと言われてしまったわ。
無防備って言われても、部屋の中で危険はないし、何に気を張ってればいいの?
「オギァー」
お兄様に抱かれているレオ君が泣いている。
ああ、そうだった!
レオ君!
「それより、お父様とお兄様は何故レオ君を連れているのですか?お母様と一緒に居ると思っていたのですが?」
「エレオノーラには疲れているから休んで貰おうと思ってね。セティーにもお世話をして貰ったばかりだからジルと男2人でレオの面倒を見ることにしたんだ」
「この部屋の前を通ったら急にレオが泣き出してね。そしたら、なんだか胸騒ぎがしたから部屋に入ったんだ」
「あらあらレオ君たら、お姉ちゃんに会いたかったのー?」
お兄様からレオ君を預かり抱っこするとレオ君は泣き止んだ。
「ふふふ、レオは姉思いだねぇー」
「流石私の息子だ!」
私達親子4人は笑いあう。
「末恐ろしい赤ん坊だな」
アル様がボソッと何をかを言うが良く聞こえなかった。
今日は最後までレオ君がアル様に懐くことはなかった。
まだ生まれたばかりで人の識別なんてしてないのに。
やっぱり家族と家族以外の人はなんとなくわかるのかな?
まぁそのうち仲良くなるよね。
なんたってこんな素敵な人が会いに来てくれるんだもの。




