前進 (その後)
「マリアー!エメリアー!」
「ヴィ、それにシャル様、どうしたの?」
「ちょっと聞きたい事があってな」
「それはセティーさんとアル様のことですか?」
「「もちろん!」」
2人はニヤッと笑う。
「ふふ、そうよね。 あれ? でもアル様は?」
「アルは教官に捕まっている」
「そっちこそセティーは? やっぱり具合悪くて救護室に行ったの?」
「セティーさんは先生に呼ばれて教官室に行ってます!」
「じゃあ2人のことを話すなら今がチャンスか」
「そうね。 幸い他の人は居ないし」
「さっそくだが2人はくっついたのか?」
マリアとエメリアは顔を見合わせ、溜息をつく。
「「まだよ/です」」
「えーそうなの!? 絶対くっついたと思ったのに!」
「まぁ、アルとセティーだ。 そんな急展開はないだろうと思っていた。 だが、進展したんだろう?」
マリアとエメリアはセティーから聞いた一部始終を話す。
「ハハ、それでか! アルが顔を赤くしたり青くしたりしてたのは」
「ほんと百面相だったよね。 調べ物中も本を何度も落とすし」
「あらそうだったの?」
「ああ、仮面を被れないぐらい動揺してたな。 それにしても、セティーはなんて威力のある攻撃をするんだ」
「ジルさんとのやりとりって結構アレだよね」
「ククッ。 それをアルにするとは。 ハハ、アルは相当堪えるだろ」
「そうだね。 男の俺らからしたら衝撃な行動だよ」
「あら、そんなに不味いかしら?」
「男の人から見て頂けない行動でしたか?」
セレスティーヌにGOサインを出した手前マリアとエメリアは不安になる。
「いや不特定多数の男にしてたら問題だが、アルだけなら良いだろ」
「問題はアル様の理性だよ」
「好きな女が自分にそれだけ積極的な行動をして甘えてくるんだ。そりゃあ堪えるだろ」
「まぁお互い分かりやすい行動に出て良かったんじゃない? 後はアル様が我慢すれば良いだけなんだから」
「ヴィ、アル様が狼にならないように見張ってて!」
「大丈夫だよマリア。 アル様は理性の塊だから」
「実際見えない所で見張りが付いてるからな。大丈夫だろ」
「そうそう。 それにジルさんが黙ってないから」
シャルエランとヴィクトルがケタケタ笑う。
「私がなんだって?」
「「「「えっ?」」」」
みんなの後ろにはジェラルドが腕を組んで立っていた。
「ジッシル様!? いつからそこに?」
「うーん、そうだねぇ。 セティーが私とすることをアル様に仕掛けている話しからかな」
ジェラルドはニコーっと笑う。
この時全員が思っただろう。
「ヤバイ」と。
「そうか、そうか。セティーとアル様はまだ恋人ではないものの、関係に進展ありなんだね」
「ええ、そうなんです」
「えっと私達は2人を応援したくてですね」
マリアとエメリアの顔が引き攣る。
「うん、うん。 解ってるよ。 みんなセティーのことを応援してくれてるのは。 だけど、恋人同士ではない2人がそんな過剰なスキンシップを取っていい筈ないよね?」
全員の視線が泳ぐ。
「セティーはどこに居るかな? ちょっとレディーとしての在り方を話さないといけないなぁ」
「「「「教官室です!!(ごめん、セティー/さん)」」」」
「うん、そうか。 ありがとう」
そう言ってジェラルドは教官室に向かった。
「怖かったぁ」
「相変わらずジルのセティーへの妹愛は凄まじいな」
「子供の頃から溺愛されてるけど、年々強くなってる気がするわ」
「あんな溺愛されていて、セティーもよく性格が捻じ曲がらずに育ったな」
「甘やかされ過ぎると色々と捻じ曲がってしまうと言いますもんね」
「そこがセティーの凄い所よ! セティーがまだ5歳位の時にマルヴィン家の令嬢はワガママだって噂があったらしいけど、所詮は噂でセティーは昔から誰にでも優しくて頑張り屋なのよ!」
「だから余計にどんどん溺愛されるんですね!」
「セティーもセティーで相当なブラコンだしな」
「あそこの兄妹愛は凄すぎるよね」
「そろそろアルが来る頃だろ。 一旦話はここまでにしよう」
シャルエラントがそう言うと教室のドアが開いた。
「みんな、セティーは何処だ? 救護室にも居ないようだが」
「アル様、セティーなら教官室よ」
「特に具合が悪くなることは無かったので安心して下さい」
アルベルトはホッとした表情をする。
「良かった。 では私はセティーを迎えに行ってくる」
「アル様待ったー!!」
教室を出て行こうとするアルベルトのえりををヴィクトルが掴む。
「うぐっ! ヴィ、何をする!?」
「アル、今は行かない方がいい。 そっちには今、笑顔の鬼が向かっている」
「シャルは何を言ってるんだ?」
「ジルさんがちょっとね」
アルベルトは訳が分からないと言う表情をする。
一方その頃。
「ありがとうございました。 失礼させて頂きます」
ふふふ。
この調子なら模範生は確実だって言われちゃった!
嬉しいぃー!!
これでまた1つゲームのセレスティーヌと違う道を歩むことが出来るわぁ!
ルンルンな気分で教官室を出るとお兄様が居た。
そうだわ!
お兄様には一番に報告しなきゃ!
まぁまだ決まったわけじゃないけど!
「おにぃ、いえ、マルヴィン先生、お疲れ様です」
「もう今日の分の授業は終わったみたいだから、お兄様でいいよ」
「はい、お兄様! お兄様はまだお仕事がお有りですか?」
「私も今日の授業はおわったよ。 取り立てて急を要する仕事もないし、兄様の部屋で久しぶりにゆっくりお話をしようか」
「はい、喜んで!」
わーい。
最近お兄様も忙しくて一緒に居れるのは久しぶりだわ。
お兄様の部屋に入りソファに座る。
お兄様付きのメイドがいつも通りお茶とお菓子を用意してくれる。
「セティー、兄様に話すことはない?」
「実は教官長にこのままいけば模範生確実だって言われたんです!」
「流石セティーだね!おめでとう!」
お兄様は私の頭を撫でて喜んでくれる。
「ふふ、まだ決まったわけじゃないから気は抜けませんが、このまま頑張ります!」
「でもね、兄様が聞きたかったのはアル様とのことなんだ」
「えっ!? やだっもしかして、マリア達から何か聞きました?」
お兄様は私の気持ちを知ってるけど、身内に自分の恋愛事情を知られるってやっぱり恥ずかしいぃー!
「セティー、兄様との触れ合いをアル様にもしてるって本当?」
キャー!
完全に知られてるわぁ!
「セティー、嫁入り前の女性が家族以外とみだりにそんなことしてはいけません!」
「えっでも、アル様とは一応婚約を」
「現状はまだ婚約者役なんだからいけません!」
「うぅ、婚約者役なのは解ってます。でも本物に、アル様の特別になりたくて。 他の御家庭のご兄弟と比べて、お兄様とは特別仲が良いと思っています。 だからお兄様とするみたいにご飯を食べさせあったりしてみようって思ったんです」
「セティー、確かに兄様とセティーは特別仲が良いし、そういう触れ合いをしても大丈夫だけど、アル様は健康男性なんだよ。いつでも狼になれるんだからね」
「アル様はそんな事しませんよ。 それに、それくらいしなきゃ、あんなに素敵な人に振り向いてもらえないって思ったんです。 お兄様、お兄様から見て、この体当たりな策を行っても、私には望みがありませんか? 」
「はぁ。 そんなわけないよ。 セティーは世界一可愛いのだから。 その可愛いセティーが自分以外の男性に甘えるなんて、心配で心配で」
お兄様は私を自分の膝に乗せて抱き締める。
「お兄様は私のことを可愛がってくれて、心配してくれているのはわかっていますが、今は頑張りたいのです」
「セティーが甘えられる存在は兄様だけだったのに。はぁ、私もそろそろ覚悟を決めないとなぁ」
「今だって十分、お兄様に甘えてますよ。 幾つになってもお兄様は特別なんですよ」
「ふふ、ありがとう。 わかったよ。 兄様もセティーのする事を見守るよ」
「お兄様! ありがとうございます!」
私はお兄様に抱きつく。
「うん。 でも、もしアル様が狼になりそうになったら迷わず急所を蹴り上げるんだよ!」
「えっえぇ。 わかりました」
たぶん、そんな事出来ないよ。
「まぁ後はアル様にはキツく言っとくしかないか」
お兄様がボソッと何か言った気がするけど、気のせいかな?
「そういえば、お兄様は何方かと恋愛はされないんですか?」
「うーん。 そうだね、私もそろそろ考えないといけないね。」
「! 幾つかお見合いのお話が来てるじゃないですか。 良い人は居ませんか?」
「最近だとエリザベート嬢との政略結婚を申し込まれたよ」
「エリザベート様ってあのミットランド公爵家の!?」
「うん、そうだよ。 断ったけどね。 セティーはこの間のパーティーで会ったかな?」
「えぇ、会いました」
お兄様に婚約を申し込んでたなんて、驚きよ!
「派閥は違うんだけど、ちょくちょくお誘いらしき手紙は届いてたんだよね。 でも派閥違いの政略結婚はどうもピンとこなくてね。セティーの結婚を見届けるまで結婚の意思はないってやんわり断ったんだ」
「そうでしたの」
派閥が違うのに手紙がちょくちょく来るって、エリザベート様ってお兄様のこと本気で?
どういうこと?
側室狙いのような発言はヤケになってのこととか?
「それにしても、お断りの理由に私を使うなんて。 御令嬢達に睨まれてしまいますよ」
「ふふ、ごめんね。 私のセティーへの愛は社交界では有名だから、みんなセティーの事を出すと、すんなり諦めてくれるからね」
えっ?
じゃあ社交界ではマルヴィン家の兄妹はシスコン・ブラコンだって知れ渡ってるの?
それって恥ずかしいですけど!?
そんな人前でベタベタしたつもり無いんですけど!
お兄様、職場やパーティーで何を言っているの!?
王宮でお兄様の同僚の方とお会いすることもあるのに、恥ずかしいよー!
ジルが怖いキャラになってしまった気がします。




