お祭り②
目の前に居る黒髪の男性は誰なの?
黒髪の男性は男のナイフを弾き、峰打ちで男を気絶させる。
男性がこちらに振り返ったのでフードの隙間にから顔を見る。
真っ直ぐな黒髪に黄緑の瞳。
色が違うけど、アル様に似てる。
一瞬アル様かと思っちゃった。
「怪我はないか?」
やだ!声まで似てるわ!
まさか本物!
嫌々、アル様がこんな所に一人で居るわけないわよね。
「はい、危ない所をありがとうございました」
「っ!?その声は!お嬢さん失礼!」
男性にフードを降ろされ、髪と顔が露わになる。
えっ?何?
男性が私の顔を見て驚いた表情をする。
「セティー!」
「え?なぜ私の名前を?」
「私だ、アルベルトだ」
「えぇー!?本当にアル様なの!? 」
男性がバサッとウィッグを外す。
アル様の少し癖のある金髪が現れる。
「瞳も色を変える物を入れている。これは鏡がないといれられないから外せないが、これで信じたか?」
「えぇ。似てるなぁとは思ったけど、まさか本物なんて驚いたわ」
私が納得したのを確認するとアル様はウィッグを被り直す。
「驚いたのはこっちだ!何故誰も連れずに出歩いているんだ!」
「そっそれは」
「バザーに参加している令嬢の婚約者達が迎えに行くと話していたから私もセティーを迎えに行こうと変装していけば、もうバザーは終わっていた。だが公爵家からはまだセティーが戻っていないと言われ、探していたんだ。祭りに乗じてゴロツキが悪さをしていると報告を受け心配していたんだ!それなのに、お供を連れず一人で出歩くなんて。わかっているのか、セティーは女性なんだぞ!ほら、こうやって押さえつけられたら抵抗出来ないだろ!」
両手を壁に押し付けられ、アル様がジッと見つめてくる。
こっこんなに怒ってるアル様初めてだわ。
いつもの凛としている目付きは鋭く怒りの感情を含んでいる。
変装してるのもあってか、知らない男の人みたいで怖い。
「ごめんなさい。メイドの3人は元々バザーが終わればお休みにする予定で、私に付き合わせるのは悪いと思ったし、何より自由にお祭りを見て回りたかったの。ごめんなさい、軽率だったわ」
押さえられている腕が微かに震えるのがわかる。
「わかってくれればいいんだ。私の方こそ、強く言い過ぎてしまったようだ。すまない」
そう言ってアル様は押さえていた腕を解放してくれた。
「そっそんな、私が悪いのだからアル様は謝らないで」
「でも、セティーを怖がらせてしまっただろ?」
「それは、変装してるから、アル様が知らない人に見えたせいよ」
「それならいいが、これでセティーと気まずくなるのは嫌だ。喧嘩をしたわけではないが、仲直りしよう」
「えぇ、もちろんよ。本当にごめんなさい。心配してくれてありがとう」
「ああ、本当に無事で良かった」
アル様にそっと抱きしめられ、耳元で囁かれる。
キャー!!
耳元ではやめてー!!
心臓が持たないよー!!
最近抱きしめらるの多くない!?
ただでさえ今は顔を見ただけでドキドキするのに、もうドキドキし過ぎて辛いわ
「セティー、あの男に触れられた所はないか?」
「え?特にはないけど。手首を握られたくらいよ」
そう言うと手を持ち上げられた。
そのまま抵抗せずにいると、アル様は私の手首にチュッとキスをした。
「消毒だ」
アル様はフッと笑って私を見つめる。
体温が急上昇したのを感じ、目の前が暗くなった。
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「気がついたか?」
アル様がジッと私を見ている。
目の前にアル様の顔が!
えっというか何この体勢!?
なんと私はアル様に横抱きにされていた。
「キャアー!」
「!?セティー!大丈夫か!何処か悪いのか!?」
「ちっ違うわ。あの、目が覚めたらアル様の顔が目の前にあって驚いただけよ」
「そうか、それなら良かった。突然倒れるから心配したんだ」
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だから、あの、離して。この体勢、恥ずかしいわ」
「そうか?私としてはまた倒れないか心配なのだが」
「もう大丈夫よ!どこも悪くないわ!早くお祭りに戻りましょう!」
ここは馬車の中だ。
外の様子からお祭りから離れた所だろう。
アル様が乗ってきた馬車よね。
目立たないようにここで休ませてくれたのね。
「いや、今日はこのまま帰ろう。脈や体温は正常だったが、突然倒れたんだ。帰って医師に診てもらおう」
「大丈夫よ。色々あって気が抜けただけよ!」
興奮し過ぎて倒れたなんて、恥ずかしくて言えないわ!
それに、せっかくアル様が変装してるんだもん、勿体無いわ。
「本当に大丈夫なのか?祭りは来年もあるのだから無理をする必要はない」
「アル様…」
それは、来年も一緒に居てくれるってことなのかな?
そうだとしたら嬉しい。
でも先の事はわからないし、今を大事にしないと!
「本当に大丈夫よ!疲れたりしたらちゃんと言うわ!」
「そこまで言うなら行くとしよう。ただし、絶対に無理はしないように!」
「えぇ!」
アル様はウィッグを被り直し馬車のドアを開ける。
私も髪をフードで隠して後に続く。
お祭りに着いたらアル様から手を握られた。
「逸れると行けないからな」
「そっそうね」
ニコッと微笑まれ、また心臓が跳ねる。
うぅアル様ったら、自分がかっこよすぎるということを自覚してほしいわ。
さっきのキスのせいなのか、繋がられている手の手首が熱い。
それからお祭りの出店を見て回り広場中央でチャリティーコンサートを見た。
演目は役者と演奏家が共演出来るミュージカル。
「今年はセティーのお陰で皆楽しめているようだな」
「私は提案しただけよ。実際にお客さんを楽しませているのは舞台に立っている人達だわ」
「いや、そもそも演奏や演劇を見るには金が掛かるからな。 だからこういった案を出す者など居なかった。貴族の娯楽と言われてしまっているが、実際平民には手が届かない。だから今回のような催しが出来ることが心から嬉しい」
「アル様にも気に入ってもらえて嬉しいわ」
「国の豊かさとは、国民が笑顔で居られることだからな」
皆の笑っている顔を見渡すアル様の顔はこの国を愛しているのだと感じた。
この国は本当にいい国よね。
王族がここまで民を愛してくれているのはきっとこの国だけよ。
アル様は陛下のような立派な王になるわ。
私はその時、横に居れるかな?
最近スキンシップが激しいような気がするけど、アル様は私のこと、どう思ってるんだろう?
ここは日本じゃないからキスやハグは挨拶みたいな感覚なのかな?
まぁ手にキスするのは貴族の間ではよくあることだし、私が意識しすぎてるだけなのかな?
でもアル様は女性に気軽にそんなことしないと思うし。
うーん、わからないわ。
なんせ前世を合わせても恋愛経験ゼロだし。
チラッとアル様の方を見る。
ああ黒髪も似合うなんて反則よー。
でもいつもと色が違うせいか、なんとか顔を見て話す事が出来るわ。
はぁ。
友達の延長線上の婚約者役としてのスキンシップでこんなにドキドキするなんて、もし本当の恋人になったら私死んじゃうかも。
お兄様にならよく抱きしめられてるけど、あれは家族愛だってわかってるし、子供の頃からだから私も慣れてるし、私から抱きつくことがあるから恥ずかしくはないわ。
ハッ!
お兄様にしてるように私からスキンシップを取ったら慣れるかしら!?
自慢じゃないけど、私もお兄様と仲が凄く良いもの!
お兄様にするみたいにすればアル様との関係が進むかも!!
恥ずかしいけど、気合い入れてやってみよう!
とりあえず明日から!
早くも今年も半年が過ぎますね。
この小説も長くなってきました。
アルベルトがようやく頑張り始めました。
作者も恋愛に疎く上手く表現出来ていない所があると思いますが、ご容赦下さい。




