お祭り①
「ありがとうございました。貴方に幸福が訪れますように」
ふぅー。
今のお客様が最後ね。
「皆さん、お疲れ様です。準備期間も短く、大変だったと思いますが、皆さんのお力があったからこそ、今日という日を乗り切ることが出来ました。この成功は皆さんのおかげです。ありがとうございました。」
周りから拍手が送られる。
「セティー!やったわね!」
「上手く行って良かったです!」
「2人とも手伝ってくれてありがとう!」
今日は王都のお祭り。
前から計画していたチャリティーバザーは上手くいったわ。
商品が思った以上に集まったのは大きかったかも。
使ってない食器にアンティークに家具。
要らなくなったヌイグルミ。
着れなくなった服やリボンなどの飾り。
他にも一度しか使わなかった化粧品や空になった綺麗な瓶。
出るわ出るわで商品の寄付が集まった。
目録にするの大変だったわ。
庶民の生活では中々買えない品を格安で買えるとあってたくさんお客様が来た。
あんなにあった商品はあっと言う間に売れた。
チャリティーコンサートの方は出演希望が殺到して結局お祭りの間の3日間行うことになった。
いつもだったら広場の中央にオブジェが飾られるのだけど、今年はそこでチャリティーコンサートをすることが出来たわ。
こんな良い場所を借りられたのはアル様やお父様の後押しのおかげね。
後片付けをしていると令嬢達の婚約者が迎えに来た。
みんなこれからデートでこのバザーの場所が貴族街ではなく、庶民街だから心配で迎えに来たらしい。
みんな愛されてるなぁ。
こないだ相談に乗った2人も婚約者が迎えに来たらしい。
うんうん、2人とも上手くいってるじゃない。
「セティーはこの後どうするの?」
「えっ?」
マリアとエメリアはこの後予定があるって言ってたし、私はどうしようかしら?
王都のお祭りは子供の頃にちょこっと来ただけなのよね。
貴族街には出店とか少ないし、せっかくだから出店を見て回りたいなぁ。
成人してやっとお祭りに行く許可が出たし。
あっでもメイドの3人に付き合わせるのは悪いかな。
3人にだってお祭りを楽しみたいだろうし。
でも仮にも貴族の令嬢だし、お付きなしで歩くわけにはいかないわよね。
「セティさんはデートに行かないんですか?」
「えっ!?」
「お祭りは今日だけではないですし、アル様とデートに行かれないんですか?」
「そうよ! 建国祭と違って対外的な仕事もないんだし、お忍びデートすれば良いのに」
「そっそんな約束してないわよ」
というか、こないだのアレを思い出して今は無理!
チャリティーバザーとかコンサートの準備に忙しいおかげで誤魔化せてたけど、アレからアル様の顔をまともに見れないのよ!
「セティーさん最近何かありました?」
「こないだからどうも行動が怪しいのよねー」
ギクッ!?
2人とも鋭いわ。
「「アル様絡みよね/ですよね」」
「今度ゆっくり聞かせてね」
「また女子会してじっくり聞かせて下さい!」
「はっはい」
2人の圧に押されて負けてしまったわ。
「そこのお嬢ちゃん一つどうだい?」
「じゃあ一つ下さいな」
結局出店を見て回ることにしたわ。
庶民に紛れる為にクリーム色のレースワンピースを着て、目立つ白銀の髪はエメリアに借りたフードを被って誤魔化すことにしたわ。
これならお付きを付けなくても大丈夫よね。
ああ、焼き鳥!なんて美味しいのかしら!
こんな道の往来での食べ歩き。
まして焼き鳥を串のまま食べるなんて普段なら絶対に出来ないわ。
ふふ、今度は何を食べようかしら。
私の中でお祭りといえばタコ焼きなんだけど、この世界にはないわよね。
「そこの赤いフードのお嬢ちゃん、一つ買ってみねぇか? 林檎に飴を掛けたお菓子だよ」
「買います!」
林檎飴!
お祭りの定番!
この世界でも食べれるなんて、なんて幸せなの!
「エメリア!」
ん?
私が林檎飴を堪能していると後ろから声を掛けられた。
エメリアの知り合いかしら?
エメリアから借りたフードを被ってるから勘違いされてるのかな?
「返事くらいしなさいよ!貴族になったからって調子に乗ってんじゃないわよ!この元貧乏人が!」
なんですって!?
誰よ! エメリアの悪口を言った人は!?
私は相手の方に振り返った。
そこには3人の女性が居た。
私は顔を見られないように俯く。
「ふん、母親が色目を使って貴族になっただけの元貧乏人の癖に。どうせ生まれが卑しいから貴族の中でも浮いてるんでしょ。それとも母親のように貴族の男達に色目を使ってるのかしら?」
思い出したわ。
前にエメリアに悪口を言っていた子ね。
それともう一つ思い出したわ。
ゲームイベントの一つだわ。
お祭りで前に住んでいた時にイジメてきた子達に囲まれてしまうのよ。
ヒロインのステータスが高ければ撃退出来て、ステータスが低いと泣きながら学園に帰るんだっけ。
良かった。
私とエメリアを間違えてくれて。
エメリアだったら問題なくこの人達に対応出来るだろうけど、こんなエメリアとエメリアのお母さんを貶めるような言葉をエメリアに聞かせたくないもの。
私はフードを脱ぎながら顔を上げる。
「それは私の親友への侮辱ととってよろしいですね」
「「「え?」」」
「貴方達のことは知りませんが、突然親友を侮辱する言葉を往来で言い始めたので驚きました」
「あなたこそ誰よ!人違いなら違うってさっさと言いなさいよ!」
「名乗るならまず自分からと教わらなかったのですか? まぁいいでしょう。私はセレスティーヌ・マルヴィンです」
「っ! 貴族がなんでこんな所に」
「それで?貴方達の言うエメリアとは、エメリア・バルリエ。バルリエ男爵家の御令嬢でよろしいですね?」
「御令嬢だなんて!あの子は元庶民だわ!庶民の中でも下の存在だったのよ!」
「今は立派な男爵令嬢です。そもそも、もう貴方達とはもう関係のない方でしょう? 先程のような発言をするのは何故でしょうか?」
「そっそれは」
「自分より下だと思っていたのに、自分よりも身分が上になったことが気に入らないのですか?」
私の言葉に女性達は図星だという表情をする。
「後は、エメリアが立派で評価が高いと困るのでしょう?エメリアが悪い子であれば悪口を言っても自分達は正当化される。エメリアを悪者にすることで自分を保てると言った所でしょうか?」
「っ!そうよ!みんなしてエメリアのことを『銀の乙女』をイジメただろって私達を悪者にして!ちょっと文句を言ってただけじゃない!みんなも言ってた癖にエメリアが貴族になったら手のひらを返して」
「悪口の標的にされて、エメリアの気持ちがわかったかしら?でもね、エメリアが元々努力して結果を出していたから、みんなは貴方達を悪者にするのよ。そうでなければ、もうその場に居ないエメリアを擁護する人は居ないわ。せいぜい努力することね。これは因果応報ですもの」
女性達は悔しそうな顔しながら去っていった。
エメリアが凄いってこと、ちゃんと見てた人がいるのね。
普通イジメられてた子が転校とかで居なくなったら新しいイジメのターゲットが出来るだけ。
イジメてた側がターゲットにされることなんてないもの。
あの子達は可哀想だけど、同情はしないわ。
本当に因果応報だもの。
さてと!
気を取り直して、お祭りを楽しみましょう!
ガシっ!
「えっ?」
誰かに手を掴まれ、路地に引っ張られる。
「へへへ。こんな所に公爵令嬢が居るなんてなぁ」
「キャッ!?」
「へへへ、痛い目に会いたくなきゃ有り金全部寄越しな!」
男はそう言って細いナイフを私の首元に当てる。
「なっ何故私が公爵家の者だと!?」
「さっき女共に名乗ってただろが!金さえ出せば見逃してやる!」
めっ目立ち過ぎたー!!!?
どっどうしよう!?
お金渡せば何もされないなら、渡しちゃおうかな!?
あっでも、屋台を見て回るだけだと思っていたから、たいしてお金持ってないけど許してくれるかな!?
「おい!モタモタすんじゃねえ!さっさと金を出せ!」
私が考えごとしていたせいか男がイライラし始めた。
まっまずい!
「クソッ!どうせ俺が何もしないと思ってやがるな!」
男がナイフを振り下ろそうとする。
イッイヤー!!
誰か!!
恐怖のあまり目を瞑る。
キーン!!
あれ?
痛くない?
恐る恐る目を開けるとそこには短剣でナイフを止める黒髪の男性が居た。




