側室になりたい -それぞれの思惑-
(オリヴィアside)
私は綺麗なドレスを着て、綺麗な物に囲まれて居たいだけ。
商家に嫁入りすれば働かなければならないではありませんか。
ボルテール家は長年続く名家の伯爵家。
それなのに、私への結婚の申し込みが裕福な商家しかないなんてあんまりです。
それ程に我が家は落ちぶれているのね。
同じ伯爵位か1つ下の子爵位の家柄であれば嫁いでも大きな責任も仕事もないと思っていましたのに。
商家なんかに嫁いだら営業に駆り出されてしまうわ。
それに仕入れのために各地を回らないといけないだろうし。
何より周りから労働階級に落ちたと陰口をたたかれるなんて嫌です。
はぁ。
どこかに良い嫁ぎ先はないでしょうか。
「今年はマルヴィン家の令嬢もパーティーに来るな」
お父様の言っていたマルヴィン家の御令嬢って確か王太子様の婚約者でしたね。
未来の王妃として、輝かしい未来が約束された方。
でも私はちっとも羨ましくありません。
王妃教育は大変ですし、王妃になったらなったで責任は重い上、外交や国事で一年中忙しいなんて耐えられませんよ。
それに、他の令嬢や家の方々に睨まれ続けるなんて無理ですぅ。
クリスティーヌ様が候補者を降りたと言っても諦めたとは思えませんし。
確かジェラルド・マルヴィン様に縁談の申し入れを断られたエリザベート様は、次に王太子様を狙っているとの噂がありましたわ。
まぁエリザベート様では王太子様と年も離れてますし、よくて側室ですよね。
側室………。
いいじゃないですか!!
側室なら王妃教育なんて必要ないですし、面倒な国事や外交なんて参加しなくていいはず!
それに、側室なら綺麗な物に囲まれて生活出来ます!
王妃様より慎ましい生活さえしてれば問題ないはずだわ!
側室、いいですわ!
私は王太子様からの寵愛なんていりませんし、実家は落ちぶれ伯爵家ですもの、セレスティーヌ様の邪魔にはなりません!
それにセレスティーヌ様と仲良くなれば独りぼっちで寂しいなんてことありませんもの!
セレスティーヌ様に、側室には私を選ぶことが、いかに良いかアピールしましたが、反応はイマイチでした。
そういえば、セレスティーヌ様と王太子様は相思相愛だという噂がありましたが、本当に側室を迎える動きはあるのでしょうか?
エリザベート様が躍起になってるだけで、実際にはそんな話なかったらどうしましょう!?
そんな、ダメです!
私にはこれしか道がないんです!
あぁもう!
いっそクリスティーヌ様がお相手であれば側室の話はより確実ですのに!
そういば、クリスティーヌ様はどうしてるかしら?
何かと勘に触る方でしたが、クリスティーヌ様が学園に入ってからは交流はありませんね。
いつも美味しいお菓子に紅茶が頂ける上に、クリスティーヌ様が使わなくなったお飾りを頂けるとあって、私は小さい嫌味は気にせずにお茶会に参加してました。
まぁ、クリスティーヌ様のお母様の生家が大変みたいですし、クリスティーヌ様も以前のように生活していないと聞いているので、クリスティーヌ様自身にはもう用はありません。
でも、アルベール家が事業見直しをしていると聞いてますし、もしかしたら我が家にお仕事が頂けるかもですね。
お父様とお兄様が我が家の為に商家に嫁げと言っていますが、要はお金があればいいのです!
それならアルベール家からお仕事を融通してもらってお父様とお兄様が頑張ればよろしいことなのでは?
お仕事のコネを作るくらいなら、喜んで協力致します。
ふふ、これも一つの保険ですね。
クリスティーヌ様にお手紙を出してみましょう。
………………
(エリザベート side)
ジェラルド・マルヴィン様を見初めて早10年。
王子様のお披露目会で年齢的に婚約候補になれない私は不貞腐れていましたが、ジェラルド様を初めてお見かけした時、未来の王妃への執念など何処かへ飛んで行きましたわ。
あの綺麗な金色の髪に翡翠の瞳。
そこらの令嬢よりも美しいお姿に目を奪われ、何より妹様に向けられたあの笑顔で私の心はジェラルド様一色になりましたわ。
ジェラルド様を射止める為、交流を深めなくてはと私は頑張りましたわ。
事あるごとにジェラルド様にお手紙を出したり、オペラや展覧会にお誘いしましたわ。
でもいつも妹様と過ごすからとお断りされ、やっと、私のピアノの演奏発表を聴きにいらしてくださると思ったら、妹様が熱を出したとのことで突然の不参加。
ジェラルド様を射止めるのには妹様が最大の試練だと言われていますが、本当にその通りですわね。
御家族を大事にされることも、ジェラルド様の魅力の一つなのです。
ですが、妹・妹・妹!
どれだけシスコンですの!
しかし、妹様は王太子様の婚約候補者で社交界でも評判の良い御令嬢。
甘やかされた頭の軽い令嬢でしたら我慢なりませんでしたわ!
月日が流れ、周りは結婚していく中、私はジェラルド様を諦めきれませんでした。
幸い私は公爵令嬢。
高位の令嬢であるため、お断り出来ないような縁談の話はなくここまで来れましたわ。
ですが、同じようにジェラルド様を射止めようとしていた殆どの令嬢達は、ジェラルド様を諦め皆結婚していきました。
もう年の近い、目ぼしい男性は残っておりませんわ。
20歳になり友人達は夫人となり、周りは夫の爵位によって序列が変わりましたわ。
前は男爵令嬢だった方が伯爵夫人となり、逆に伯爵令嬢だった方が子爵夫人となり、爵位が逆転しました。
女には珍しくないことですが、やはり爵位によって力関係や立場が変わってきますわ。
そんな中、私は未だ公爵令嬢。
今は父の公爵位に準じ高位な立場なので皆私を敬ってくれています。
でも皆内心は、私が結婚して地位がどこになるのかが気になる様子ですわ。
そろそろ、令嬢と呼ばれる歳ではなくなってきてしまいましたわ。
いよいよと思い、お父様にマルヴィン家との政略結婚をお願いしましたわ。
派閥が違うからこその政略結婚。
たとえ政略結婚でも、ジェラルド様と縁を結べるなら理由なんてなんでもよろしいのです。
ですが、マルヴィン家からはやんわりとお断りをされてしまいましたわ。
理由は妹の婚姻を無事に見届けるまで結婚を考えていないとのこと。
また妹様絡みですわ。
それでも、ここまで妹様を恨まずに、むしろジェラルド様の最愛の妹様なのだから、私にとっても愛しい存在だと思っていましたわ。
王宮でのパーティーでジェラルド様とバルリエ男爵令嬢を妹様が引き合わせ、ジェラルド様がその令嬢をエスコートしていると知った時、私の中で何かが切れましたわ。
周りは男爵令嬢とジェラルド様は特別な間柄ではないと言っていますが、ジェラルド様はとてもお優しい笑顔で男爵令嬢を見ていますもの。
私達に向けられる『マルヴィン公爵子息』としてのお顔とはまるで違いますわ。
今まで御本人は自覚されていないこととはいえ、散々邪魔をしたばかりか、ジェラルド様に愛され続け、当然のようにその愛を受ける妹様を恨まずには居られなかったのです。
挙句、元平民の男爵令嬢をジェラルド様のお相手に引き合わせるなんて。
いくら『銀の乙女』と呼び声高くとも、元庶民の男爵令嬢。
高位貴族の重責を、ジェラルド様を支えてこの貴族社会を渡って行けるとは到底思えませんわ。
まだお相手がエルランジェ家の御令嬢でしたら私も諦めがついたというのに。
しかも妹様は王太子様の正式な婚約者である上、王太子様とは相思相愛。
同じ公爵令嬢でもこの違い。
恨めしい。
ジェラルド様の妹様だからと、愛しく思っていた気持ちが憎しみに変わっていきましたわ。
愛する人に報われない気持ちを少しでも味わってほしい。
酷い考えなのはわかっていますわ。
でも少しぐらい、ほんの少しでも、私の気持ちを思い知ってほしいですわ。
それから私が何かとセレスティーヌ様と王太子について皆に聞いてばかりだったからか、私の容姿のせいなのか、私が側室を狙っているという噂が流れました。
しかし否定せず、そのまま放置しましたわ。
お父様のことです。
同じ高位貴族に嫁ぐために私を近隣の他国に行かせることでしょう。
そうなれば、もうジェラルド様のお姿を見ることも叶いません。
ジェラルド様も私のことなどお忘れになられるのでしょう。
それならいっそ、この噂を利用してセレスティーヌ様に私の気持ちを味わってもらうことにしましょう。
そんな噂を知ってか知らずか、お父様も最近では「お前がもう少し王太子様と年が近ければ」などと言っています。
いくら私がストレートの黒髪にややツリ目がちな赤い瞳、可憐とは程遠い妖艶さが出てしまう容姿だからとしても、そんな噂を信じないで下さいませ。
今夜のパーティーでセレスティーヌ様とお会いしましたが、本当に可愛らしい人でしたわ。
綺麗な白銀の髪にあのアメジストの瞳。
まるで花の妖精の様でしたわ。
本当はもっと貶す言葉を考えてましたのに、
小花のように可愛らしいと褒めてしまいましたわ。
それでも、渾身の直球な嫌がらせな言葉はセレスティーヌ様の心を掻き乱すことが出来たかしら?
王太子様とのダンスでも軽やかに踊ってらっしゃるのが素敵でしたわ。
私ではあの可愛らしい雰囲気を出せませんもの。
昔はセレスティーヌ様が義妹になるかもなどと想像していましたわね。
もし義妹になったら一緒にお茶をしたり、ジェラルド様への贈り物を選んだりしたいなどと考えてましたわ。
今となっては恥ずかしい想像ですわ。
ふふ、王太子様も私と踊らなくていいようにあんなに必死になってらっしゃるわ。
セレスティーヌ様は愛されてますのね。
そういえば、クリスティーヌ様は元気かしら?
何かと問題ある方でしたが、同じ恋する乙女としては応援してましたのよ。
クリスティーヌ様は王太子様を諦められたかしら?
今度お茶会に呼んでみましょう。
もしクリスティーヌ様が王太子様を諦められていなかったら、けしかけてみようかしら?
セレスティーヌ様、ごめんなさいね。
これが貴方にする最初で最後の嫌がらせですわ。
少しでも私の気持ちをわかってくだされば、私の気持ちは少しは晴れます。




