王妃とは
気付けば70話目、ダラダラ無駄に長い小説になってしまい、申し訳ありません。
「セティーちゃぁん!よく来てくれたわぁー!」
「ぐふっ!」
顔見た途端、突っ込んで来るなんて。
「母上!セティーが苦しんでるから離れて下さい!それに妊婦なのだから大人しくして下さい!」
「もぉ!アルまでロベルトみたいなこと言ってぇ。可愛い可愛いお嫁さんと二人っきりでお茶会なんだからぁ邪魔しないでぇ」
「王妃様、お久しぶりです」
「あらやだぁ!名前で呼んでって言ってるじゃなぁい!名前を呼んでくれるまで離してあげないわよぉー」
さらに力強く抱きしめられる。
ゔぅ苦しぃ!
王妃様、どこにこんな力が!
そういえばお腹の子は大丈夫だろうか?
「アッアイリーン様、離して頂けませんか?」
「はーい」
名前を呼んだ途端パッと離された。
「ふふ、でも上目遣いでお願いしてくるセティーちゃんが可愛かったからぁ。もっかい、ぎゅうー!」
今度は優しく抱きしめられる。
「母上!」
「もぉアルったらまだ居たのぉ?忙しいんだからさっさと行きなさぁい」
「はぁ。言われなくても行きますよ。セティー、母上に遠慮なんてしなくていいからな!嫌なことは嫌だとハッキリ言っていいから!」
アル様はそう言って仕事に戻った。
「もぉ、アルったら失礼しちゃうわぁー。母親をなんだと思ってるのよぉ」
「ハハハ。アイリーン様、御体調はいかがですか?」
お母様もだけど、王妃様のお腹もだいぶ大きくなったわ。
「ありがとうぉ。全然大丈夫よぉ。アルの時にみたいに周りからの圧がないからぁ。なのにロベルトもアルも病人みたいに扱ってくるのよぉ!酷いでしょぉ?ちょーっと運動してるだけでとやかく言うんだからぁ」
「お二人はアイリーン様とお腹の子が心配なんですよ」
「まぁ心配してくれるのは有り難いんだけどぉ、何も出来ないのはストレスなのよぉ!」
お母様もじっとしてられなくて、毎日お父様が悲鳴を上げてるのよね。
流石親友。
似た者同士だわ。
「そうだわぁ。こないだのドレスは役立ったかしらぁ?」
「役立ったとは?」
「今の貴族派は大人の女性が多いからぁ、今年デビューしたばかりのセティーちゃんがぁ負けないように大人っぽくしてみたのよぉ」
そうだったのね。
たしかに全体的に大人な女性が多かったわ。
「ありがとうございます。おかげでなんとか過ごせました」
「ふふ、助けになったなら良かったぁ。 エリザベートさんとオリヴィアさん、この2人と話をしてたと聞いたけどぉ、何を言われたのかしらぁ?」
「えっ?なぜそれを知っているんですか?」
アル様が言ったのかな?
「これでも王妃よぉ。それくらいの情報は手に入るわぁ。 2人から側室について言われたのよねぇ?」
内容までバレてるなんて。
「はい。エリザベート様にはハッキリと敵意ある言葉を頂き、オリヴィア様は敵意はないのですが、側室にしてほしいと言われました」
あぁ、言ってしまった。
なんか告げ口みたいで嫌だし、権力者に縋るみたいだし。
「セティーちゃん、安心してぇ。今は側室の話なんか出てないからぁ。セティーちゃんは婚約したばかりだしぃ。結婚後もしばらくは出ないはずよぉ。何せ、現国王に側室が居ないんだものぉ。ロベルトが昔、側室を持たないと宣言したのもあって今側室を作る動きはないから大丈夫よぉ」
「そうなのですか!あっでも王様がそのような宣言をしたということは……。」
王妃様の時は側室の話出たのかな?
「私の時はぁ、側室を持つように大臣や先代王妃に言われたのよぉ」
「えっ」
やっぱり。
そうなんだ。
国王夫妻は仲睦まじいから意外だわ。
「まぁ仕方なかったのよねぇ。最初の子は流れてしまったしぃ、アルを身籠もるまで長かったからぁ。無事にアルを産めたから良かったけどぉ、もし生まれたのが女の子だったら今頃側室が居たかもしれないわぁ」
「そんな……。」
「でもロベルトが、もし女の子が生まれても女王にすれば良いって言ってくれたのよぉ。子供が出来なければ他の王族に王位を譲れば良いって言ってくれたのが嬉しかったわぁ」
王妃様は笑顔で会話を続ける。
「この子が女の子でも男の子でも、生まれて来ることを素直に喜べることが嬉しいわぁ。アルにはたくさん苦労かけたけど、セティちゃんが側に居てくれるから安心だわぁ」
「そんな、私なんかでアル様を支えられるでしょうか」
ゲームの世界を知ってるから、アル様がこの世界に存在してるのは当然だと思ってた。
でもそうよね。
産まれてくるまでも、産まれた後も当然辛いこともあったはず。
こんな風に笑ってる王妃様も苦労したんだ。
アル様、私と出会う前はどんな感じだったんだろ。
ゲームの設定は知っているし、出会ってから友達になれて一緒に過ごしてきたから深く考えてなかった。
元々、近しい者以外は心を許さず、王子の仮面を被り続けていたのをヒロインがその孤独を理解して二人の仲は発展するのよね。
私、アル様をちゃんと理解してあげられてなかったんじゃない?
「ふふふ、大丈夫よぉ。セティーちゃんの前では、素で笑えてるからぁ。あの子は待望の王子だから周りから期待され過ぎたのよ。物心着く頃には子供らしさは無くなってしまったわぁ。ここだけな話、あのお披露目の会の前なんか自分の婚約者を決めるっていうのにぃ、『父上の決めたことに従います』って言ったのよぉ! 」
「そうだったんですか?」
ごめんなさい、ゲームの設定でそれは知ってます。
だからゲームのセレスティーヌとあっさり婚約したのよ。
「えぇ!それなのに、アルは自分からセティーちゃんと親しくしようとしたのぉ!王子としては完璧だけど、どこか無気力だったあの子がよぉ!セティーちゃんの前で笑ってるアルをこっそり覗き見てた時はぁ、アルにはこの子しか居ないって思ったのぉ!」
ん?
覗き見て??
いつのまに!?
「あっあの」
「しかもセティーちゃんが王妃教育をこんなにも頑張ってくれるなんてぇ!最近じゃあ、政治にもついていけるように授業を最高難度にしているのにぃ、根を上げないなんて素晴らしいわぁ!」
「えっ!?最高難度ってどう言うことですか!?」
通りで最近難しい内容ばっかりだと思ったよ!
「ふふ、ごめんなさいねぇ。でもそのお陰でアルと大臣達の話についていけたらしいじゃなぁい。元々、王妃は政治に関わらないからそんな難しい話がわからなくて良いって言われてるけどぉ、私はそうは思わないわぁ。だって、夫の仕事やそれに纏わる苦労や悩みを本当に理解して支えられないじゃなぁい」
「確かに、そうですね。実際こないだの夜会では助かりました」
「王妃はただ隣で笑ってれば良い存在じゃないのよぉ。夫はこの国の王だけど、私は家族だものぉ、病めるときも、健やかなる時も互いに手を取り合って支え合って生きて行くと誓った存在だからぁ」
王妃様。
素はあっけらかんとしてて、お転婆な感じだけど、やっぱり凄い方だわ。
王妃様は私の手を取り、真剣な眼差しで、いつもの王妃の顔をする。
「セティーちゃん、国王は国の為に生き、国に生涯の全てを捧げる。言い方を悪くすれば国の奴隷よ。私は、国に尽くす王に尽くすことが、王妃の役目だと思っているの。大変な役目よ。それこそ本当に愛していなければ耐えることは出来ないと思うわ。セティーちゃんにはその覚悟がある?」
セレスティーヌに転生して絶望だと思ったけど、悪役でもアル様の側に居たい。
アル様と友達になって、側に居られる存在になりたい。
そんなことを最初は思っていたけど、やっぱりアル様のことが好きで、アル様の1番近くに居たい。
近くに、隣に立てるようになりたいと思うようになった。
今ではアル様のことを1番近くで支えていく役目を、誰にも譲りたくない。
私やっぱり欲深いみたい。
誰にも譲りたくないなんて、ゲームのセレスティーヌみたい。
でもこれは私の本当の気持ち。
「はい!私は国の為に頑張っているアル様を1番近くで支えて生きます」
王妃様の手を強く握り返す。
「セティーちゃん、ありがとうぉ。あの子をよろしくねぇ」
王妃様の目が潤む。
あぁ、こっちまで泣きそうよ。
「私、頑張ります!王妃教育はもちろんですが、アル様に振り向いてもらえるように頑張ります!」
「えっ!?2人はまだ恋人になってないのぉ!?」
「えぇ!?そんな、まだお友達ですよ!」
「正式な婚約をしたのにぃ? (アルったら何やってるのよぉ!)」
「はい。アル様にはお友達だと思われてます。でも凄く良くして貰ってますよ。いつも 大切にされてるって感じています」
「そこは愛されてるって感じる所じゃなぁい?」
「えぇ!?そんな、まさか。」
「セティーちゃん……。(こっちがまさかだわぁ)」
「あっあの王妃様はアル様が私のことどんな風に思ってるとか知りませんか?」
これで完全に友達にしか見られてなかったら泣けるわ。
「息子が母親に恋話すると思うぅー?私から見て脈アリだわってことしか言えないわぁ。(あんなに分かりやすいのにぃ。セティーちゃんもこの会話の内容から気づいても良さそうなのにぃ。これは家族会議が必要だわぁ)」
「母上、そろそろ次の約束の時間ですよ」
「あらぁ、もうそんな時間なのぉ。セティーちゃん楽しかったわぁ」
「こちらこそ楽しかったです」
仕事を終えたアル様が王妃様を呼びに来た。
「セティー、母上の相手は疲れただろ」
「そんなことないわ。とても楽しかったし、大切なお話もさせて貰ったわ」
王妃様の気持ちが知れてよかったし、私自身、王妃を目指す気持ちがより固まったわ。
「それなら良いが。普段はちゃんと王妃として振舞っているのに、素があれだからな。私はよく振り回されてる」
「王妃様は普段きちんと仕事されてるし、家族の前くらい素の姿でも良いじゃない?」
「まぁ、それもそうなんだが」
「私は素敵なお母様だと思うわ」
「まぁ確かに、私も母上には救われてると思ってるよ」
ふふ、綺麗な親子愛だわ。
「でも何より、私を助けてくれている存在はセティーだ」
「えっ?」
「セティーが居てくれたお陰で毎日王子として励むことが出来ている。私の仕事や立場を理解し、さらに私のことも理解してくれている。いつもありがとう」
さっき王妃様と話たことを思い出す。
私、アル様の役に立ててるんだ。
良かったぁ。
あぁ、さっきは我慢できたのに。
涙が止まらないわ。
「セティー!?どうした?何か気に障る事を言ったか!?」
急に泣き出した私を見てアル様がオロオロする。
「違うの。私でもアル様の役に立てていることが嬉しくて」
目にはまだ涙があるけれど、私は笑顔でアル様の顔を見た。
アル様と目が合うと、抱き寄せられた。
ギュッと優しく包み込むような、それでいて力強く抱きしめられた。
「セティー、これからも私の側に居てくれ」
キャー!
アル様の声が耳に掛かるぅー!!
へっ返事しなきゃ。
「えぇ、居るわ。要らなくなるまでずっと側に」
その後、こめかみにアル様の唇が触れた気がした。
だけど覚えているのはここまで。
衝撃が強かったのか、どうやって学園の寮に帰ってきたのか、さっぱり覚えていなかった。
ケータイがいよいよダメになり、買い替えました。
買い替えたことで格段に文字が打ちやすくなりました。
アルとセティーの進展があまりに遅いですよね。
アルは作者に似てヘタレなので申し訳ないです。
今後アルには頑張ってもらうつもりです。




