ドレス選び
お披露目のパーティーまで後1週間。
私はピアノの練習をしていた。
隣には兄のジェラルドがニコニコしながら立っている。
「お兄様、私まだピアノが上手に弾けないから、聞いてて退屈でしょう?」
「そんなことはないさ。セティーが一生懸命弾いてる姿は可愛いし、セティーの奏でる音はキラキラしているように聞こえるよ。目でも耳でもセティーの愛らしさを感じられるよ」
笑顔でジェラルドが答える。
「まぁ、お兄様ったら。ありがとうございます」
すごい褒めちぎってくるな。
正直私のピアノはまだ曲を弾けるレベルではなく、指の練習用の譜面を弾く程度なのに。
「それはそうと、最近セティーの可愛いお願いがないから寂しいな。何かしてほしいことはない?兄様に出来ることならなんでもするよ」
そう私はワガママを止めた。
前は父と母にはドレスや髪飾りなどを催促し、勉強で忙しい兄に、私に構って、遊んでとワガママを言っていた。
「とくにありませんわ。忙しいお兄様とこうして一緒にいるだけで嬉しいですわ」
「あぁ!セティー!なんて可愛いことを言うんだ!」
兄が私にガバッと抱きついてきた。
「でもそれだと僕が寂しいな。何かあればなんでも兄様に言うんだよ」
「はい、お兄様!」
あっ、でも。
ギュウーっと抱きしめられてそろそろ苦しいから離してくれないかな。
そう思っていた時にバン! と勢いよく、部屋の扉が開いた。
「セティーちゃん!ここにいたのね。もう探したのよぉ!」
母だ。
兄と同じ淡い金髪に翡翠の瞳。
クールな印象の顔立ちだが私にはデレデレな顔を向けてくる。
ちなみにスタイルも良くナイスバディだ。
「セティーちゃん、パーティー用に仕立てたドレスが完成したの。着てみましょう!」
メイドさんによって運ばれてきたレースとフリルの塊は、どうやらドレスのようだ。
広げられたドレスをみて私は驚愕した。
色は強めのピンクの生地。
首から下まで何段にも重ねられたフリルとレース。
アニメやゲームに出てくるようプリンセスラインのドレスではなく、これでもかとフリルとレースが積み重なり所々宝石がついたドレス。
えっ、ウエストどこ?
フリルとレースの塊にしか見えないんだけど。
「セティーちゃんの希望通りのドレスが出来て良かったわね。すこーし派手かもしれないけど、セティーちゃんならきっと似合うわぁ」
おい!セレスティーヌ!
お前のセンスはどうなってるんだ!
というか止めてよ。
度を超えたドレスも子供が着れば可愛いとかのレベルじゃないじゃん!?
私が反応できないでいる間に仕切りの向こうに移動させられ、メイドさん達に着替えさせられていく。
案の定、鏡に映った姿は酷かった。
フリルとレースがありすぎて、正直モサっとしている。
手足の短い幼児体形にこのドレスは太って見える。
しかも動くたびに、重ねられたレースがモッサ、モッサというように動く。
けっしてフワッとではない、モサっとだ。
これは酷い……。
こんなので人前に出るのも嫌だが、アルベルト様の前に出るなんて嫌すぎる‼︎
母と兄の前に出てみた。
「ああやっぱり、セティーちゃんは何を着ても似合うわぁ」
「フリルとレースに囲まれたセティーが可愛いすぎる」
まさかの絶賛をされてしまった。
イヤイヤ!どうしてこれが可愛いってなるの?
盲目的に愛されてる自覚はあるけど、ダメなものはダメって言ってよ。
そう思っている間にも可愛いと言い続けている母と兄。
ダメだ、このままではこのドレスでアルベルト様の前に出ることになってしまう。
ここは勇気を出して言わねば!
「このドレス可愛くないです! 違うドレスにしたいです!」
私の言葉に母と兄が慌ててそんなことはないと言ってくるが、ここは譲れない。
「動きづらいですし、このドレスでは庭園でのパーティーに合いませんわ」
「あらあら、気に入らなかったのね。
困ったわねぇ、急いで新しいドレスを作らなきゃだわ。後1週間しかないから、かなり急がせて作らせましょうか」
こんな宝石の付いたドレス作ってもらったばっかりなのに、気に入らないからって新しいドレスを作ってもらうなんて、まだまだ庶民感覚の抜けない私には無理だ。
「お母様、ドレスならたくさん持っているのでその中から選びましょう?」
今までワガママ言って買ってもらったり、祖父母達から贈られたドレスが山のようにあるのだ。
その中から選べばいい。
「そんなぁ。せっかくだから新しいドレスでパーティーに行きましょう。
最近のセティーちゃんたら、ドレスが欲しいって言わないから母様はちょっと寂しいのよ。せっかく女の子なんだもの、可愛い物や綺麗な物に囲まれているのが幸せよ」
優しそうに見えるが、強めに新しくドレスを作ることを推してくる。
たしかに今までは、ドレスやら飾りやら買いまくって母の着せ替え人形のごとく着飾っていた。
そんな贅沢を父も許していた。
というのも、父方も母方も兄弟は全員、男。その兄弟が生んだ子供達も全員、男なのだ。
私はやっと生まれた待望の女の子。
親戚中から女の子というだけで無条件に愛されている。
私を取り巻く環境に、私を否定する人間はいない。
そんな環境で育てばワガママにもなるだろう。
自分は特別だと勘違いして育つだろうよ。
少しだけゲームのセレスティーヌには同情するな。
「せっかくのパーティーなら、お祖父様達に頂いた特別なドレスで行きたいです」
私は笑顔で手持ちのドレスを推す。
「まぁ、セティーちゃんはなんて優しいのかしら!お祖父様達が聞いたら喜ぶわぁ」
よし、勝った!
それから母とメイドさん達とああでもない、こうでもないと言いながら、ドレスを選んでいく。
ブックマークして頂いている方々本当にありがとうございます。
次でようやく兄のジェラルドが出せました。