クリスティーヌ②
なによもう!
セレスティーヌばっかり!
セレスティーヌばかりいい思いをしてるから、少し困らせようと思って、セレスティーヌの物を隠すことにした。
ある時はペンを、ある時はブックバンドや文鎮を。
セレスティーヌが移動教室の時にこっそりとやったわ。
本当は教科書とかの方が効果的だけど、そこまでしたら学園側が動くかもしれないわ。
学園内は常に人の目があるし、大人や警備だっているわ。
街で暴漢にセレスティーヌを襲わせたように派手に動くわけにはいかないのよ。
ああ!
なんで私がこんなことを!
本当ならこんなこと、メイドとか取り巻きの令嬢達にやらせるのに!
昼間は寮に居るはずのメイドが学園内を歩いてるのは目立つわ。
それに、取り巻き達にセレスティーヌを困らせたいと言ったら思いっきり引かれてしまったわ!
なによ!
いつもはなんでも言うこと聞く癖に!
でもこうして、セレスティーヌの物を隠すことで、セレスティーヌが困ると思うと胸がスッとするわ。
それからしばらくして、新しいドレスや飾りを注文するため実家に帰る。
「久しぶりの王妃教育だから気合いをを入れて着飾らないと!お母様!新しいドレスは何色が良いと思います!?」
私の言葉にお母様が困った顔をしている。
どうしたのかしら?
いつもなら一緒に盛り上がるというのに。
「お母様、どうされたの?ほら、一緒にドレスのデザインを考えて下さいませ!」
「クリスちゃん、新しいドレスは作れないの」
は??
「お母様!冗談はよして下さい!早くしないと王妃教育に間に合いませんわ!久しぶりにアルベルト様とまともに会えるんですから着飾りませんと!」
「うっうう、ごめんなさい。」
お母様が突然ポロポロと泣き始め、部屋に帰ってしまった。
仕方ないわね、直接マダムと相談してドレスのデザインをきめるとするわ。
「マダムフルールを呼ぶように伝えて」
「えっあっはい」
メイドに用件を行ったらすぐに執事が来た。
何か用かしら?
そんなことより早くマダムを呼んでよ。
「クリスティーヌ様、新しいドレスを仕立てることは出来ません。ですのでマダムフルールを呼ぶことは出来ません」
と執事が淡々と話す。
「はぁ?何を言っているの!作れないってどうして!?良いからマダムを呼びなさいよ!」
寝言は寝て言いなさいよ!
「なりません。クリスティーヌ様のドレスを作るには旦那様の許可が必要になります」
「許可ですって!?そんなもの今まで必要なかったじゃない!」
「今まではそうですが、これからは許可が必要となります」
許可ですって!?
今までそんなこと、言われたことなかったのに!
まぁ、お父様のことだから、すぐに許可してくれるでしょう。
今まで欲しい物は何でも与えてくれていたもの。
しかし、予想に反して許可が降りなかった。
どうして!?
お父様はなぜ許可してくれないの!?
「ふん!まぁいいわ。ドレスは諦めるとして飾りは新しくしたいわ!お母様の実家から宝石が届いているでしょ!それを加工するわ!」
今あるドレスに宝石を付けるのも良いわね。
「あっあのお嬢様」
メイドがビクビクしながら話しかけてきた。
何よ早く持って来なさいよ。
「残念ながら届いておりません」
横から執事がスパッと言い放つ。
「何ですって!?どうしてよ!いつも定期的に贈ってくれていたじゃない!」
どういうこと!?
「無い物は無いのです」
「なんなのよ!もういいわ!お祖父様達に贈ってもらうから!」
「今までご厚意で頂いていた物を催促するのは、卑しい行為です。お辞め下さい」
「なっ!?私が卑しいですって!?」
「人に見返りもなしに物を要求するなど、アルベール家の名に関わるのでお辞め下さい」
「わかったわよ!諦めればいいんでしょ!」
執事の分際で偉そうに!
結局持っていたドレスをリメイクする形になってしまったわ。
それに飾りもいつもよりうんと地味になってしまったわ。
まぁ、私の美しさがあれば飾り立てなくてもセレスティーヌに負けることはないわ!
王妃教育の前にセレスティーヌに会って、装いについて指摘された。
なんなのよ!
自分はマダムフルールの新作を着てるからって!
王妃教育の後やっとお父様に会えた。
「お父様!」
「なんだ、クリスティーヌか」
「ドレスや飾りを作ること、なぜ許可して頂けませんの!?」
「はぁ。そんなことか。ドレスや飾りなら既にいくつも持っているだろう」
「そうですが、常に最新の物を身につけませんと。私は侯爵令嬢なんですもの」
そうよ、私は侯爵令嬢なんですもの。
常に最新の誰よりも豪華な物を身につけるのは当然だわ。
「侯爵令嬢か。その侯爵家の当主が許可しないと言っているのに聞けないのか?」
お父様は女は着飾ることも仕事だということをわかっていないわ。
「お父様!お考え直し下さい!」
それからお父様と話し合ったけどダメだったわ。
それどころか婚約者候補から外されるですって!?
私に王妃の資格がないって!?
婚約候補を降りたら、アルベルト様と一緒に居れなくなる!
私が外れたら、アルベルト様はセレスティーヌを王妃にするしかないじゃない!
「お母様!私が婚約候補を外れるとはどういうことですの!?それにお祖父様達からお金が出ないって、どうしてですの!?」
私はすぐに屋敷に帰ってお母様に詰め寄る。
「クリスちゃん。それは……」
お母様の顔色が悪い。
横からスッと執事が現れた。
「クリスティーヌ様、私から説明しましょう。まず、サンドラ様のご実家の伯爵家から、サンドラ様とクリスティーヌ様に多額の援助金が出ておりました。しかし近年、伯爵領の鉱山で宝石が取れなくなっていました。それでも、今までと変わらずお二人に援助金が出ていたのですが、ついに伯爵家の事業が立ち行かなくなりました。鉱山で宝石を取り、それを加工することが伯爵家の事業でしたが肝心の宝石が取れなければ必然とこうなります」
えっ何よそれ。
お祖父様達の家計が傾いているなんて知らなかったわ。
「お父様は援助されないの!?お母様の実家が大変だというのに!」
「旦那様はすぐにサンドラ様が輿入れの際に持ってきた持参金をお返ししました。それから今まで援助されていたお金の一部と、頂いていた宝石をお返ししております」
執事の言葉にお母様が声を荒げる。
「私の宝石を勝手に返すなんて!それに、援助金がないんだから侯爵家がお金を出せばいいじゃない!」
「はぁ。使われていない飾りを貴方のご実家にお返ししただけです。それに、持参金をお返ししても、家計を立て直すことが出来ず、援助金の一部をお返しすることになったのです。残念なことに、既に使い込まれてしまっていたので、旦那様が侯爵家の家計からお出しになったのですよ。それにサンドラ様とクリスティーヌ様には毎年予算を取ってあります。しかし、お二人とも、その予算を上回る散財をされています。毎年きちんと予算を組まれ、尚且つサンドラ様のご実家のために侯爵家の家計からお金を出したというのに、これ以上お金を要求されるのですか?」
執事は冷たい目をして言い放つ。
「うるさいわね!私は侯爵夫人よ!主人に向かってなんて口の利き方なの!日頃から貴方のことが気に入らなかったのよ!クビよ!貴方なんかクビだわ!!」
私もこの執事は嫌いだったのよ!
いいわね!クビにしちゃって!
「私は侯爵家ではなく、旦那様と直接、雇用契約をしておりますので、サンドラ様に私をクビにする権限はありません。侯爵夫人というならば、少しは家計を支えるくらいのことをして頂けると助かるのですがね」
ふぅ。と執事はため息をついた。。
「なっなんですって!?」
お母様の顔がカァッと赤くなっている。
「次に婚約候補の件についてご説明してもよろしいですか?」
執事はさらっとお母様を流して淡々と話を続ける。
そうよ!
ドレスや飾りについてはわかったけど、婚約候補の方が大事だわ!
ドレスとかは最悪お父様側のお祖父様達にお願いすれば良いんだし。
「私が婚約候補を外れなきゃいけないなんて、何かの間違いよ!良いわ!理由を言いなさい!どうせマルヴィン家が圧力をかけたとかでしょ!」
「では失礼して。まずマルヴィン公爵家からの圧力は一切ありません。クリスティーヌ様の学力が求められる水準に達しなかったこと。また、学園でのクリスティーヌ様の振る舞いが以前から問題になっておりました。そして今回の会議で王太子様の婚約候補者について協議され、クリスティーヌ様は外れることとなりました」
は?
何それ!?
「はぁ!?何よそれ!水準って何よ!それに私の行動のどこが問題だと言うのよ!」
「ハッキリとした水準はありませんが、国民に恥じない学力、知識があることです。クリスティーヌ様は王妃教育でも結果が振るわず、学園でも上のクラスから落ちてしまっていますから。それに、普段から高圧的な態度ですし、食堂での件も聞いております。」
「なっ!?私を馬鹿だと言いたいの!?」
「いいえ。下のクラスでも上位ですし、そこまで劣っているとは思っていません。ですが同じ候補者であるセレスティーヌ様と比べて差がありすぎます」
なっ!?
「そうだとしても!行動ってなによ!今まで咎められたことなんてないわ!家庭教師達にだって素晴らしいと褒められていたのよ!」
食堂ではアルベルト様に怒られたけど、それ以外の人に怒られることなんてなかったわ!
「いえ。以前より問題になっておりました。それこそ、クリスティーヌ様が小さい頃からです。学園での行動で問題の焦点になっているのは、改められていないということです。ですから、旦那様は家庭教師達を変えるよう言っていたのですが、サンドラ様が拒否されていました。致し方なく様子を見ることにしていたのですが、残念です」
執事の言葉にお母様が反論する。
「あの方々が一番クリスちゃんのことをわかって下さるわ!他の方はダメよ!キツくされては、クリスちゃんが可哀想じゃない!あの方々は私の家庭教師をしていた時も、私のことをわかってくれた良い人なのよ!」
「はぁ。それが一番の間違いです。とにかく、これからは散財出来ませんので、慎ましい生活を送って下さい。クリスティーヌ様もこれで現実を見て精進して下さい」
執事はそう言い放って部屋を出ていった。
長くなりそうなので続きます。




