嫉妬
週末久しぶりに王宮に来ている。
学園に入学してしばらくは王妃教育の頻度は少なくなっていたけど、前と同じペースになるらしい。
試験もあるし、頑張らなくちゃ。
そういえばクリスティーヌ様は来てるのかな?
まだ正式に婚約候補者を降りてるわけじゃないから、来てると思うけど。
王宮の廊下を歩いていると見覚えのある金髪縦ロールが目に入る。
あっクリスティーヌ様だわ。
「クリスティーヌ様、御機嫌よう」
「セレスティーヌ!」
あれ?
なんかいつものクリスティーヌ様と違うわ。
髪型は一緒なんだけど、なんて言うかいつもより地味。
いや、今までが派手過ぎたんだよね。
よく見るといつもの派手なドレスではなく、普通のドレスだった。
飾りも一般的で特に特徴はない。
珍しいなぁ。
いつも派手派手なのに。
でもこの方が近寄り難くないかも。
「ふん、何よ!ジロジロ見ないでちょうだい!」
「あっごめんなさい!いつもと装いが違うからどうしたのかと」
「っ!うるさいわ!貴方に関係ないじゃない!」
クリスティーヌ様は怒って先に行ってしまった。
なんだろう、何か悪いこと言ったかな。
その後は普通に授業を受けた。
授業後いつも通りアル様の所へ向かうと思っていたがクリスティーヌ様は別の所に用事があると言って行ってしまった。
珍しい。
いつもは何があってもアル様の所に行くのに。
まぁいいか。
私はアル様の所へ行こう。
「アル様、おつかれさま。今日の王妃教育は終了したわ」
「セティー、おつかれさま。試験前だというのに大変だろ」
アル様は笑顔で出迎えてくれた。
「確かにね。でも頑張らないと」
「セティーは頑張り屋だな。そういえばクリスティーヌ嬢は一緒ではないんだな」
「ええ、用事があるとかで別の所へ行ったわ」
「そうか。まぁ私には都合がいい」
その後アル様は公務に呼ばれてしまい、お別れとなった。
アル様の方こそ大変だわ。
週末のほとんどは公務だし、学園の授業が終わった後も王宮に戻ることもあるし。
私も試験や王妃教育が大変とか言ってる場合じゃないよね。
頑張ろう!
廊下を歩いていると言い争う声が聞こえてきた。
「お父様!お考え直し下さい!」
「くどい!お前はもう屋敷に帰れ!」
「お父様!何故です!?何故私に辛く当たるのですか!今まで欲しい物は全て私にくれていたではありませんか!?」
「今までお前が使ってきた金はサンドラの実家から出ていた金だ。実の娘が生んだ孫にと多額の金が出されていたんだ。その金がついに出なくなったんだ。お前が使って良い金など、アルベール家から出るわけがないだろう」
「そんな!?」
「それと、もう王妃教育に出なくて良い。どうせもうすぐ婚約候補者から降ろされるからな」
「なっ!?何故ですか!?何故私が降ろされなれければならないのですか!?」
「はぁ。流石はサンドラの娘。サンドラが用意した者達に囲まれ、こうも頭の悪い者に育つとはな。今までの行動や発言を思い返してみろ。お前には王妃になる資格はないと考え、お前が候補者にいることで私とカミーユに不利益だと判断した」
「そっそんな!」
わぁ、壮絶な親子バトルだわ。
聞いてしまったわ。
人気のない中廊下だけど、もう少し場所を気にしてほしかった。
するとカツカツと足音が聞こえる。
やばい、こっちに来る!
とっさに隠れることが出来ず、カジミーユ様と出くわしてしまった。
「これはセレスティーヌ嬢、ご機嫌麗しゅうございます」
「カジミーユ様、御機嫌よう」
気まずい。
さっきの話し聞こえてしまったのバレてるかな。
「セレスティーヌ嬢、いつもウチの娘が迷惑をかけているようで申し訳ありません。」
「いっいえ」
はいそうですね、なんて言えないしね。
うん、気まずい。
「私はこれで失礼致します」
「セレスティーヌ嬢、貴方が王妃になった時、私の息子、カミーユを庶子としてではなく、公平に見て頂きたい。必ずや国のために役に立つ人間になります」
カジミーユ様が頭を下げる。
「わっわかりました」
カミーユ様ってクリスティーヌ様のお義兄様よね。
優しそうな人だったけど、お父様から愛されてるのね。
婚約候補のライバルの娘に頭を下げるくらいだもの。
その愛情が少しでもクリスティーヌ様に向けば良いんだけど。
こないだ聞いてしまった事情的にも難しいのかな。
去っていくカジミーユ様の背中を見つめながらそんなことを思った。
クリスティーヌ様は今後どうなるんだろう。
まるでゲームのセレスティーヌのようなクリスティーヌ様。
ゲームのセレスティーヌのように、悪事に手を染めなければ、普通に結婚するんだと思うけど。
一応ライバルだったし、心配だわ。
外野が勝負から降ろしただけで、アル様の気持ちが私に向いてるわけじゃないから、クリスティーヌ様に勝ったとは言えないし。
こんなのじゃあ、クリスティーヌ様はきっとアル様を諦められないよね。
アル様と接する機会もこれで無くなってしまうし、チャンスを作るとしたら来年のクラス分けで上のクラスに入るしかないよね。
それか模範生になるか。
どっちにしろ、クリスティーヌ様はここで変わる必要があるわね。
でも、私にとやかく言われるのは、嫌だろうなぁ。
自分で気づくか、周りの人が導いてくれたら良いな。
いくら好きではない人とはいえ、ゲームのセレスティーヌのような酷い結末は出来れば避けてほしい。
まぁ私だってそんな余裕ないんだけどね。
明日は我が身。
エメリアの好きな人がアル様だったらと考えると心がモヤモヤしてしまうし。
はぁ。
テストに集中しよう。
ここで成績落としたら、それこそ不味いわ。
出来れば模範生も狙っていきたいし。
歴代の王妃は模範生になっていたって先生も言っていたしね。
頑張ろう!
そんなこんなで試験が終わり結果発表となった。
1.アルベルト・ヴェスタトール
2.エメリア・バルリエ
3.セレスティーヌ・マルヴィン
4.マリア・エルランジェ
5.シャルエラント・ハムダン・ビン・モハメド・ラーシド・ナハラセス
ぎゃー!!3位!!
エメリアに負けたぁー!!!
「やったぁ!5点差ですけど、セティーさんに勝ちました!」
「エメリア凄いわ! 私も頑張らないと! 目指せ3位内!」
エメリアとマリアが盛り上がっている。
そんな、頑張ったのに……。
負けた…。
アル様とエメリアの名前が並んでいるのが恨めしい。
エメリアと自分の各教科の点数を比べると、理数系が劣っているのがわかる。
昔は前世の記憶のお陰で苦労しないで解けていたけど、中高レベルになってチートは無くなった。
基礎から学び直した分前世よりも頭が良くなったけど、元々の地頭は良くないし、これが精一杯の努力の結果だ。
悔しいけど流石はヒロイン。
幼い頃から家庭教師についてもらっていた私達より点数が取れるなんて、努力と才能ね。
「エメリア凄いな!2位か!セティーに勝つとはな!」
「本当にすっごいよ!俺なんて、スレスレの15位だったよー」
シャル様とヴィクトルも盛り上がっている。
「セティーは惜しかったな。エメリア、頑張ったな」
とアル様が言い、エメリアの肩を叩く。
モヤッ
あれ、モヤモヤする。
なんだか気持ち悪いな。
エメリアの努力の結果なのに、ただ悔しいだけじゃない気持ちが湧き上がる。
体も強張っている感じがする。
やばい、離れなきゃ。
一回頭を冷やさないと、なんだか冷静で居られなくなりそう。
「私、少し風に当たってくるわ」
そして私は皆んなに背を向けて歩き出した。
「セティー?」
「セティーさん?」
近くに居たアル様とエメリアが反応したけど、振り返ることが出来ずそのまま進む。
中庭まできてやっと体の力を抜くことができた。
ベンチに座り溜息をつく。
はぁー。
何やってるんだろう。
たった1回テストの順位が負けただけなのに。
けど、アル様がエメリアの肩に触れるのも嫌だった。
嫉妬だ。
私は嫉妬してるんだ。
ああ、自分がこんなに嫉妬深いなんて。
後は劣等感かな。
やっぱりヒロインには勝てないんだって、一瞬思っちゃった。
たかだか一回のテストでこんな風になるなんて、情けない。
相手がヒロインのエメリアでも負けないように努力しようって思っているのに。
私ってこんなに弱かったんだ。
私が落ち込んでいると、誰かが近づいてくる
「セティー、大丈夫か?」
アル様だった。
「えっ大丈夫よ。少し外の空気を吸いに来ただけよ。アル様こそどうしたの?」
「いや、ちょっとセティーの様子が気になってな」
アル様が私の顔を覗き込んでくる。
「具合は悪くないか。調子が悪いなら医務室に行こう」
「えっいや大丈夫よ!どこも悪くないわ」
私の言葉にアル様が心配そうな顔をする。
「本当か?セティーは頑張り過ぎるからな。王妃教育もあったというのにテストも3位だし、頑張ったんだろう? 疲れてないか?」
優しい声でそんなことを言われ、涙腺がゆるむ。
「そんなことはないわ。みんなそれぞれ、やる事があるのに結果を出してるんだもの。それに順位を落としちゃったわ。」
やばい泣きそうだ。
思わず俯いてしまう。
私が泣きそうになっていると、不意に頭に何かが触れる。
顔を上げるとアル様の手が私の頭を撫でているのがわかった。
キャー!!
アル様の手が私の頭に!!
「セティーはよく頑張った。十分努力しているのは私が知っている。それだけではダメか?」
そう言って私の頭を撫で続ける。
「ダッダメじゃないわ。」
泣きそうになっていたことなんて吹っ飛んで顔が赤くなる。
「そうか、良かった。落ち込むことないからな。」
最後に私の頭をポンポンとする。
ギャー!!
ポンポンされたぁー!!
はぁ、やばいよ。
心臓が早すぎて苦しいよ。
「でも、少しは気が晴れたと思うが、それだけじゃないだろう? ほかに気に病むことはあるか? 王妃教育が辛いとか、何か困ってることがあれば私に言ってくれ」
「だっ大丈夫よ。ちょっとアル様とエメリアの名前が並んでいるのを見て、モヤモヤしただけだし。王妃教育は必要なことだもの」
アル様が少し顔を赤くする。
「えっセティー、それはその、しっ……」
「セティーさーん!!」
「セティー!!」
アル様が話している途中でエメリアとマリアが突っ込んできた。
前にもこんなことがあったような。
「セティーさん大丈夫ですか?」
「急に1人で外に出ていくから、具合が悪いのかと心配したわ」
「大丈夫よ。なんともないわ」
なんだかんだアル様のお陰で嫉妬心も吹っ飛んだわ。
「それなら良いけど。そろそろ授業が始まるから行きましょう」
とマリアに言われ教室に向かう。
「そうね。アル様も行きましょう」
「あっああ」
心なしかアル様はシュンとしていた。




