独占欲 after story
パーティー後皆んなでお茶会をしたわ。
「マリア…その話…本当なの?」
「本当よ!あの王子ときたらエメリアを侮辱して!」
「私もその場に居たが、良識に欠ける言動だったよ」
エメリアを侮辱した上に、下位の側妃になら相応しいですって…。
戯れだとしても、限度があるわ!
「よくも…可愛いエメリアに…よくも…」
カップを持つ手が怒りでプルプルと震えるわ。
「アル様。ザンガ王子の国と亀裂が入っても構いませんか?」
リュカも大事な幼馴染のエメリアを侮辱されて怒っているのね。
リュカの目が凍える様に冷たいわ。
「友好国ではないが、争い事になるのは不味い」
「アル様!エメリアを侮辱されて、何もせずに黙っているなんて出来ないわ!」
「そうよ!親友のエメリアを侮辱されたのよ!」
「皆さん!私は気にしてませんから!それに、あの王子とはもう会う事もありませんから」
確かにあの王子は後2日で帰国するけど、外交の成果を上げられていないからか、他国の特使に執拗に絡んでいる様に見えるわ。
「セティー様のお話通りであれば、今回の外交は失敗ですね。あの国は鉱山が多数あり、鉱石には困りませんが、食物は自国の生産量では賄いきれず、輸入が頼りなはずです」
「ナハラセスより砂漠地帯が多くて、食物を育てられる土地が少ないのよね。ナハラセスも同じ悩みを抱えているから、国内生産力を高めるのに力を入れているわ」
「ナハラセスは海や川があるので、比較的穀物が育ちますけど、ザンガ王子の国は、育てられてられる種類も少ないですからね」
「そうね。ナハラセスに要請が来るらしいのだけど、要望に応える事は不可能だと思うわ」
「隣国であるナハラセスの食物は産地地消され輸出されない。近隣の国は自国同様、海を持たず砂漠地帯が多い国ばかり。大陸のを渡るか、海を越えて輸入しなければいけないのです」
マリアとリュカの言う通り食物の生産力の低い国は苦労するわね。
鉱山で盛えていても、鉱石を掘り尽くせば終わりだもの。
ベスタトールはナハラセスへ食物の輸出をしている。
代わりにナハラセスで取れるスパイスや果実を輸入しているわ。
それにベスタトールとナハラセスを結ぶ共有の船があって、船員や輸送中の警護等の人員は互いの国から出しているわ。
ナハラセスとベスタトールは対等でWIN-WINな関係。
でもあの王子の国から輸入したい物はないし、荷物を運ぶとしたら、船でナハラセスに着いた後、陸路で向かわないと行けないから、輸送費が嵩むわ。
「実はザンガ王子から父に面会をご希望頂きまして」
「ベスタトールからナハラセスへ輸出しているが、それ以外で取引をしているのは、リュカの所のサリュート商会のみだからな」
「シャル様のおかげで良い取引をさせて頂いています。ナハラセスとのやり取りは僕が担当なので、面会に同席させて頂く事になりました。この後王子と面会するのですが、その前に皆さんからお話が聞けて良かったです」
リュカの目が一層冷たくなったのを感じたわ。
「リュカ、冷静にね。実家の商会に圧力を掛けられそうになったら、私の名前を出して良いわ」
「そうだな。いっそ私の名前を出しても良い」
「ありがとうございます。アル様、セティー様。大丈夫ですよ。商人には商人の戦い方がありますから」
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ザンガ王子side
面白くない。
第3王子が王位争いに名乗り出てきてからずっと面白くない。
ずっと王宮の片隅で静かに息を潜める様に生きていると、王妃も放置している子だと思っていた。
正妻である王妃の子であっても第1王子とは扱いが違う。
王位を争うのは第1王子と俺の2人のみだと。
だから歯牙にも掛けずにいた。
その第3王子が自分と同等。
いや、それ以上の力をつけていた。
それを俺や母、それに妹だけが、王族の中で知らなかった。
第3王子が王位継承に名乗り出てきた際の正妃や第1王子、そして国王の顔が今も忘れられない。
こちらに向かって、催し物でも見ているかの様な顔。
俺達が必死に平静を装っているこの状況を楽しんでいたのだ。
第3王子には第1王子の派閥の人間や正妃側の人間がついている。
第3王子が王位を継いだ暁には第1王子が政務を手助けする事が確約されている。
第1王子の側にいる優秀な腹心達もいる。
情勢はあちらが優位。
第1王子は元々国民からの支持も厚い。
そんな第1王子が支えると大々的に発表した事で、国民は第3王子に期待を抱いてきている。
ここで必ず成果を挙げて帰らなければならない。
我が国の食糧事情はとても厳しい状況だ。
備蓄はたった半年も持たない。
一度の自然災害や日照りで国全体が破綻する。
だが以前はもっと酷かった。
第1王子妃の母国からの支援でようやく備蓄をする事が出来るようになった。
ここでベスタトールと交易を結べば、俺への評価は爆発的に上がる。
「ナハラセスとベスタトールを結ぶ船にそちらの国への物資をナハラセスの許可なく載せる事は出来ない」
「ナハラセスへの物資のついでに我が国への物資を載せるだけで良いのです!港から我が国へ運ぶのはこちらが行います!」
「と言われてもな。ベスタトールとナハラセスとの共同運行の船だからな。そちらが別の船を用意してくれるならば良いのだが」
港を持たない我が国が船を用意するなど…。
ナハラセスの港に停泊させておくにしても、使用頻度に対して費用が嵩みすぎる。
ナハラセスよりも高く買い取ることでベスタトールにも利があるはずだったが、交渉は上手くいかなかった。
ナハラセスの次期国王であるシャルエラント殿とアルベルト殿は旧知の仲だ。
その上、シャルエラント殿に嫁ぐ令嬢が居る。
国家間の絆はより強固になっている。
ナハラセスに義理立てするのもわかるが…。
それにしても、産まれてから一度も揺るぐ事の無い王太子という地位。
美しく、聡明な婚約者に恵まれ、他国の王族に嫁ぎ国に利をもたらす令嬢までいるとは。
アルベルト殿は恵まれ過ぎている。
妹も俺の役に立てるような国に嫁いでくれたら良いが。
セレスティーヌ嬢。
公爵令嬢という地位の高さに、噂に違わぬ美しさ。
加えてアルベルト殿への忠誠心が高い。
俺もあの様に地位が高く美しい妃がほしいものだ。
あの娘はおしかったな。
元平民の男爵位とは。
せめて伯爵くらいの地位がなければな。
ベスタトール屈指の商人と面会を取り付けた。
外交の交渉が上手く行かなかった以上、商人にはより、我が国に物資を運んでもらわなければならない。
いかに大商人といえど、平民だ。
他国の王族とのコネクションがほしいだろう。
この面会で我が国に有益な契約を結ぶのだ。




