独占欲③
エルド様に腰をグイッと抱き寄せられた。
「セティー。私を見て」
「えっ」
エルド様に耳元で囁かれた。
ちっ近い。
この前のダンスより密着している気がする。
そのまま曲が始まり、私は平然を装ってダンスを始めたわ。
「エルド様、ビックリさせないでください」
「ハハ。いくら愛しい婚約者が他の女性と踊っているからといって、ダンスの相手を見ないセティーが悪いよ」
「そっそれは…失礼したわ」
「ハハ。本当にセティーはアルベルト殿が好きなんだな。アルベルト殿のあのペリース、セティーが贈ったのだろう?」
「えっええ。あのペリースは私の独占欲が形になった物よ」
「アルベルト殿はとても喜びになっただろうな。あの様に素敵な贈り物。それもセティーのとても強い気持ちが込められた贈り物なのだから」
「私もアル様にそう思ってもらえたら嬉しいわ」
エルド様とのダンスもそろそろ終わるわ。
終わったらアルと合流してあの兄妹と離れられる様にしないと。
「セティー、この後、西方の王子達と踊るのはどうかな?」
「西方の王子と?えぇ構わないけど」
「良かった。西方の国の王子の1人がリーファン姫と踊りたそうにしているし、もう1人も近くに居るから。あの兄妹の王子と踊るよりはマシだと思ってね」
「あの方とエルド様は面識があるの?」
「何度か会った事がある程度だよ。私があの王子に対する心象は、まぁ察してくれるかな?」
心象良くなかったのね。
あの王子に捕まるよりはいいわ。
でもアルはどうしようかしら。
「セティーがダンスをしている間、アルベルト殿にミーシアンの特使と話がしたいのだけど、どうかな?」
「良いと思うわ。ダンスが終わったらアルの元へ行くわ」
エルド様の提案通り、西方の国の王子2人と踊るる事にしたわ。
エルド様が仲を取り持ってくれて、リーファン姫も了承してくれたわ。
1人はリーファン姫と踊れてとても嬉しそうにしていたわ。
さて、この方もう1人とのダンスが終わったらアルの所へ行かないと。
「セレスティーヌ様ありがとうございました。
アルベルト王太子殿の所へ送りましょう」
「それは不要だ。セレスティーヌ嬢次のダンスの相手は俺だ」
アルの所へ行くのにエスコートを申し出てくれた王子の手を取ろうとしたけど、私の手は横から現れた兄妹の王子に握られてしまった。
「ザンガ王子、セレスティーヌ様はダンスを続けて3曲も踊ってお疲れです。それにそろそろアルベルト王太子殿と外交の役目に戻らねばならない」
「外交ならば俺と踊る事も仕事の1つだろう。他の王子達と踊ったのだ、俺だけ踊る事が出来ないというわけではないだろう。そうだろう、セレスティーヌ嬢」
「そうですね。一曲お相手お願い致します」
踊るのは構わないけど、今ここに兄である王子がいると言う事は、妹の姫がアルの所に…。
アルがいる方向を見ると外交をしていたわ。
あれはナハラセスの特使に先程踊った王子達の国の特使だわ。
その近くに妹姫が居るけど、流石に外交中に話を割って入っていく様な無礼はしないみたい。
良かった。
安心してダンスが出来るわ。
「セレスティーヌ嬢、そのブルーグレーの装い似合ってるが、アルベルト殿に義理立てとはいえ、好きな色を着れずに辛いのではないか?」
何この王子、初対面なのに失礼な言い方。
まぁ、政略結婚だと思っているのだろうし、王族の血が物凄く薄いけど、血縁がある公爵令嬢は、他国に嫁いで国家間の絆を深めるべき、という考えを持っているだろうし。
「私の一等好きな色はこの色なのですよ。愛しい方のこの色が。それに何より本日身に付けている物はアル様から贈られた物ですから、お褒め頂きありがとうございます」
「そうか。婚約者に忠実なのだな」
あぁ伝わらなかったわ。
「俺の国は宝石が良く取れる良い国だ。セレスティーヌ嬢もきっと気に入るだろう」
「左様ですか」
先程からずっと自身と自身の国の自慢話をされているけど、なんでこの王子の国は特使を付けずに、王子と姫の兄妹を送り出して来たのかしら。
2人とも外交には向いていないと思うけど。
「セレスティーヌ嬢ならば俺の妃になれるだろう」
は?
アルの婚約者である私が、貴方の妃になる事を望むはずないじゃい。
貴方の妃なんて、喜ぶはずがないわ。
「御冗談を」
そろそろダンスが終わる。
ダンス終了の挨拶をしたら、全力で逃げよう。
「セレスティーヌ嬢、どうだろうあちらでワインでも」
「せっかくですが、アル様と挨拶周りが残っておりますので」
ダンスが終わって礼を取りたいのに、王子に腰をホールドされたままで動けないわ。
「そう言わずに。先程からアルベルト殿は他の国の特使と話し込んでいる様だ。少しの時間くらい良いだろう」
腰をグイッと引き寄せられそうになるけど、足に力を入れてぐっと耐える。
おかげで私の足はプルプルと震えているわ。
不味いわ。
なんとか逃げないと。
「お話中失礼致しますセレスティーヌ様」
「貴方は!シャル様の!」
シャル様の従者の方が話しかけてくれたおかげで、王子の手が私から離れたわ。
その隙に私は王子から一歩距離を取ったわ。
「シャルエラント王子からアルベルト王太子様とセレスティーヌ様に言伝をお預かりしておりまして、お2人お揃いの時にお伝えしたいのですが」
「まぁシャル様から!丁度アル様と合流しようと思っていたの。行きましょうか。王子、ダンスのお相手して頂きありがとうございました」
「…。こちらこそ。ではアルベルト殿の所まで送ろう…「その必要はない。私の婚約者が世話になったようだ、礼言おう」
王子が私をエスコートしようと、手を伸ばしてきた時、アルが来てくれたわ!
アルは私をグイッと引き寄せ、王子に社交辞令の御礼を述べたわ。
「シャルからの言伝か。あちらで聞かせてもらおう」
私達専用の椅子がある場所へ移動して周りに他に誰も居ない事を確認してやっと力を抜く事が出来たわ。
「助かった。ありがとう」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ、お2人の仲を邪魔する者を放置したら、若に怒られますから」
「ハハ。シャルにはよろしく伝えてほしい」
「えぇもちろん。それにしてもあの王子は相当焦っているようですね」
「焦っている?そうは見えなかったけど…」
「あの方は第2王子なんですけど、王位継承権は第3王子の方が優勢なんですよ。第1王子がご病気になられまて、自分に王位継承が回って来ると思っていたのに、第3王子の後ろ盾になるとつい先日発表されたので」
「まぁ。じゃあ王位争い中なのね」
「えぇ。しかも第3王子は今まで王宮で放置されているとされていましたが、第1王子と繋がっていました。第1王子派と第3王子派が合わさって勢力を増している様です」
「それで外交の功績が欲しくて自ら来たというのか」
「あわよくば、嫁も見つけようとしたんじゃないですかね。第1王子は既に他国の姫と結婚されていて、その妃の妹姫と第3王子が婚約されましたから」
「その妃からしても、自分の妹が王妃になった方が自分の立場を守れるし、産まれた国の為にもなるわね」
「ですから焦ってるようですよ。あの妹姫も兄が王にならなければ自分はどうなるかわからないですからね」
何処の国も後継者争いは大事よね。
「シャルは第1王子と第3王子を支持しているのだろう。第1王子とは昔から会った事があるが、シャルも好意的に接していた」
「若はあの王子でなければ良いみたいですよ」
それなら、ますますあの王子と姫には大人しくしてもらって、帰国してもらいましょう。
会場をみると王子がマリア達に近づくのが見えたわ。
「あっマリア達の方へ向かっていくわ!」
「不味い!あんなのを姫さんに近づかせたら、若にドヤされる!お2人とも失礼します!」
「大丈夫かしら?」
「マリア達なら対応出来るだろう。それにシャルの部下も居るしな。セティーや私が間に入った方が彼等の思う壺だろう」
「何もないと良いんだけど…」
「それよりもやっと2人になれた」
アルにグイッと身体を引き寄せられたわ。
「あの王子がセティーに何かしたのでは無いかと、とても心配だった」
「あの王子、私なら自分の妃になれると言ってたわ」
私の報告にアルの纏う空気が冷たくなったのを感じた。
嫉妬してくれているのね。
「私もあの姫様がアルに執着していたから心配だったわ」
私はアルの身体に顔を寄せ、甘えさせてもらう。
「セティー。もうしばらくこちらに居よう」
「えぇ。そうしましょう」
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マリアside
セティー達、王族の椅子が置かれている場所からこちらに戻って来ないだろうなぁ。
あのお姫様、婚約者でも探しているのかしら。
さっきから高位の人に積極的に話しかけているわ。
王族といっても、王子と姫の数が多いと婚約を結ぶ事が難しいのかもしれないわ。
「楽しそうだな。俺も混ぜてもらえるか?」
「えぇ構いませんよ」
あの王子がこちらに来てしまったわ。
遠くでシャルの部下の方がこちらに来るのが見えたわ。
あんなに慌てて、シャルに何か言われているのかしら?
「私はエルド•ミーシアン。以前そちらの第1王子とは顔を合わせた事があったが、貴公とは初対面だったな」
「ミーシアンの第2王子か。そうか、こちらに短期留学をされていたのだったか。して、そちらの令嬢達は?」
「マリア•エルランジェと申します」
「貴方がシャルエラント殿の婚約者か!通りで美しいはずだ。そちらの銀色の令嬢もさぞ高位の令嬢なのだろう」
「私はエメリア•バルシエと申します。私はしがない男爵家の者でございます」
「ほぅ。男爵令嬢がナハラセスの次期王妃とミーシアンの第2王子と歓談出来るとは」
この王子。
エメリアが男爵令嬢だと分かった途端、エメリアを見下す様な目をしたわ。
「彼女は私の大事な友人です」
「彼女は頭脳明晰な上に勤勉で、将来は友人であるセレスティーヌ嬢の為、女官を目指している」
「そうか、そうか。しかし惜しいな。この愛らしい顔。醸し出す気品に美しさ…私の妃にと思ったが、男爵令嬢では…」
何を言っているの?
この人?
エルド様もエメリアも皆んな冷めた目で王子を見ているわ。
「そうだ、正妃は無理だが、側妃ならば。下位の側妃だが、私の妃にしてやろう」
「私の大事な友人に悪い冗談はお辞め下さい」
「冗談?そんなわけが無いだろう。側室とはいえ、一国の王となる者の妃になれるのだ。男爵令嬢の身分から考えれば、夢の様な話だろう」
一国の王?
第3王子に王位を取られて、王宮から追放されるかもしれない立場なのに?
「私はセレスティーヌ様の女官に。右腕となる大きな夢がございますので。平民上がりの男爵令嬢にその様な与太話をされては、御自身の尊さに傷がついてしまいます」
「元平民だと!?元平民と連んでいるのか!?」
「彼女の身分は関係ない。私達は心からの友人なのだよ。これ以上私達の友人を侮辱しないで頂きたい」
エルド様が私達の前に出て毅然と言ってくれたわ。
「はぁ興醒めだ。俺はこれで失礼する」
「はぁ。なんだったのかしらあの王子。エメリア、気にしちゃダメよ!」
「大丈夫ですよ」
「姫さん!大丈夫でしたか!?来るのが遅くなってすいません!」
「あの王子、エメリアに凄く失礼だったのよ!シあっこの方はシャルの部下よ」
「皆様、初めして」
私はシャルの部下にさっきあった事を話したわ。
「はぁあの王子。本当にどうしようもない。はぁ帰ったら若に伝えますね」
「えぇお願いするわ」
社交界は終わったわ。
今回の事セティーや皆んなに報告しなくちゃ!




