独占欲①
アルベルトside
大臣に呼び止められた。
「今度の社交界ですが、アルベルト王子にはリーファン姫と、セレスティーヌ様にはエルド王子とダンスをお願いします」
「それぞれの国より要人が来訪されますからな。友好関係を強める良い機会になります」
話はわかる。
他国の王族を相手をするのは、その国の王族か同等の身分の者だ。
「私は良いが、エルド殿の相手はセレスティーヌ嬢でなくとも良いだろう」
「アルベルト王子の婚約者であり、この国の公爵令嬢。セレスティーヌ嬢以外に相応しい身分の者はおりせん。ご心配をなさらず、1曲踊りさえすれば良いのです」
「わかった。セレスティーヌ嬢には私から話そう」
「御理解、ありがとうございます」
理解しただけで、納得したわけではない。
はぁ。
せっかくこれからセティーと食事だというのに。
食事中、セティーに先程の大臣との話をした。
セティーは思った通り、二つ返事で了承した。
話をしている際のセティーは次期王太子妃の顔をしていた。
仕事として了承したのはわかっている。
わかっているが、面白くはない。
「セティー。今度の社交界で着てほしいドレスがあるんだ」
「前に言ってたブルーグレーのドレスかしら?」
「あぁ。直接見せたいんだが、私の部屋に来てもらえないだろうか?」
「もちろん良いわよ。前にアルの部屋に行く約束をしたけど、中々機会が無かったわね。私の部屋には今度改めて招待するわ」
「あぁ招待してもらうのを楽しみにしている」
「こちらだ」
「お邪魔します。わぁアルらしい部屋ね!」
私らしいか。
色は青と紺それと白で統一し、華美な調度品より本の方が多く置いてある。
「あっこれ!子供の頃に一緒に描いた絵だわ。フフ。こんなに立派な額に入れられていると、名画みたいだわ」
「懐かしいだろ。他にも思い出の品はそこの棚に飾っている」
「わぁ本当だわ!ってこれって、まさか!?」
「気づいたか。これはセティーが初めて贈ってくれたハンカチだ」
セティーからの初めての贈り物。
キチンと皺を伸ばし、写真立てに入れて飾っている。
「こっこんな昔の!?刺繍だって拙いし、図案が単調過ぎるわ!こんな不出来なの、捨てて!」
「嫌だ!私の大切な宝物なんだ!」
「うぅ。大切にしてくれているのは嬉しいけど、今ならもっと素敵な刺繍をしてあげられるのに」
「それは、私に新しいハンカチを贈ってくれるという事か?」
「アルの為なら、いくらでも」
「ありがとう。とても嬉しい。私もセティーに何か贈れたらいいのだが」
「何を言ってるの。素敵なプレゼントをたくさんしてくれているじゃない。今だって私にドレスを贈ってくれるのよ。私の方が貰い過ぎなくらいだわ」
「愛する恋人にドレスを贈るのは当然の事だ。それに、今回のドレスは私のエゴだから」
「ふふ。優しいエゴね。私は愛してる人から贈られた、大好きな色のドレスを着れて嬉しいわ」
「あぁ私の恋人はなんて愛らしいのだろう」
私は思わずセティーと抱きしめた。
セティーは嬉しいそうな顔をして私の背に手を回し、抱きしめ返してくれた。
セティーは本当に素晴らしい。
見た目だけではなく、性格や信念まで美しく、愛らしい。
しかし、セティーを想う気持ちが時折、綺麗なものではなくなる事がある。
他の誰の目にも触れさせたくない程、愛している。
本当に自分だけを見てほしい。
自分だけがセティーの姿を見れば良い。
そんな危うい気持ちが自分の中に広がる事がある。
エルド殿がセティーに馬術を教えたと聞いた時は、自分だって教えられるのにと嫉妬した。
前にもエルド殿に嫉妬したばかりだというのに。
こうして独占欲の塊のようなドレスをセティーに贈り、この気持ちを昇華させねば。
「セティーそろそろドレスを見てくれないだろうか」
「えぇ!」
ブルーグレーの生地とレースで作られ、金の細工が施されまたドレスをせティーに見せる。
ドレスはセティーがよく好んで着ていた形にし、首から胸元はレースで覆い露出を抑えた。
ドレスの他にも髪飾り、ピアス、ネックレス、靴。
全てドレスに合わせてデザインされ、ブルーグレーと金色で統一されている。
「わぁ!素敵だわ!本当に全身アルに包まれてるみたいね!今すぐに着たいくらい素敵だわ!」
「メイドを呼ぼう。私もセティーがそのドレスを着ている所を見たい」
メイドを呼び、セティーは着替えの為別室へ行った。
セティーのドレス姿を想像しながら、部屋で待つ。
「お待たせ。どうかしら?」
「とても似合っている。想像していたよりもずっとずっと。あぁ…なんて美しいんだ」
セティーは何色でも似合うが、やはり私の瞳の色を纏ったセティーが1番好きだ。
「ありがとう。本当に全身アルに包まれているみたい。ドレスもアクセサリーも靴も凄く綺麗で、ドキドキしてるのに、安心するの」
セティーは頬を紅潮させ、目を輝かせて、穏やかに笑った。
「そう言ってもらえると嬉しい。全身でセティーが私の恋人だと表している様で私も嬉しい」
セティーも独占欲の塊だとわかっているだろうに。
こんなに喜んでくれるとは。
嬉しそうに笑うセティーは本当に可愛い。
純粋に喜んでくれているとわかる。
「あっあのね。今すぐではないのだけど、私もアルに渡したい物があるの。受け取ってくれる?」
「もちろんだ。セティーからの贈り物はなんだって嬉しい」
「そのうち渡せると思うわ」
「(認められるといいけど)」
セティーは小さく囁いた。
「ん?セティー何か言ったか?」
「いいえ、なんでもないわ」
数日後
社交界の前に衣装の打ち合わせをする。
打ち合わせと言っても、衣装係に任せているので、私が行う事は、サイズ調整の為の試着くらいだ。
「アルベルト王子。デザインに変更したい箇所などはありませんか?」
「いや特にない。いつも通り素晴らしい仕事だ。サイズも問題ないようだ」
「ありがとうございます。よろしければ、ペリースも付けてみませんか?」
ペリース?
普段から使用している物ならこの衣装にも合うはずだが。
衣装係がペリースを運んできたのは、新しいペリースだった。
私はそのペリースを見て目を見張った。
アメジスト色に白銀の糸で見事な刺繍が施され、美しいペリース。
このペリースを誰が作ったかなど、聞かなくともわかる。
まさかペリースを贈ってくれるとは。
それもこの色味。
セティーも私を独占したいと思ってくれているのだと強く感じる。
この繊細な刺繍…。
とても大変だっただろうに。
肩章の細工もとても繊細で美しく品がある。
王宮の衣装係が試着を勧めた言う事は、このペリースは王族の衣装として認められているという事だろう。
「試着してみよう」
「かしこまりました」
ペリースを付け鏡を見る。
セティーの色を見に纏った自分に気持ちが高揚する。
「どうだろうか」
「よくお似合いです!彼の方もお喜びに…あっ」
「良い。わかっている。礼は本人にきちんと伝えるよ」
セティーの事だ。
格式や伝統を気にして、堂々と私に渡せなかったのだろう。
皇太后陛下が居なくなったとはいえ、うるさい者達はまだいる。
今このペリースがセティーからの贈り物だと公にするわけにはいかない。
「このペリースを大切に保管しておくように」
「かしこまりました」
公にするなら社交界当日だな。
憂鬱だと思っていた社交界も、セティーのドレス姿やこのペリースのおかげで楽しみになったな。




