一緒に過ごす休日
エルドside
「セティーさんの事好きですよね?それもとても深い愛情を」
エメリアの言に驚きつつも、平静を装い、その場をやり通すことは簡単だ。
だが、エメリアがそれは許さないという顔でこちらを見ている。
普段の彼女とはまるで違う。
彼女とは付き合いが短いが、彼女は普段、私を含めた皆を敬っている。
砕けた話し方をする時もあるが、自分よりも身分が上である我々と自分は、全くと対等だとは思っていない。
元平民の男爵令嬢だいう立場を常に念頭に置いているよう見えた。
そんな彼女が私にこんな表情をするとは。
「2人を引き裂く様な事があれば、許しはしません。たとえ、この命を落とす事になったとしても、阻止してみせます」
不穏な発言をする彼女は、温度を感じさせない程、冷たい表情をしていた。
この様な表情、発言をするなんて。
だが、強気な発言をしている彼女だが、よく見たら強く握った手が震えてるいた。
他国の王子に対して不敬罪とも取れる発言と態度。
恐怖が無いわけがない。
だが、セティーやアルベルド殿のために行動しているのだ。
「確かに、私はセティーに対して恋情がある。だが、エメリアが心配している様な事は望んでいないから安心してほしい」
「セティーさんとは留学でこちらにお越しになられた時が初対面のはずですが。アル様の話ではエルド様は以前からこの国に留学を希望されていました。何処かでセティーさんと会ったのですか?」
「察しが良いね。そうだよ。8年前からセティーの評判はミーシアンにも届いていたから、セティーの事は知っていた。実際にセティーを見たのは4年前。私はお忍びでこの国に来たんだ」
私は彼女に4年前にセティーを見かけ、セティーに恋情を抱いたきっかけを話した。
「この留学が思い出作りですか」
「そうだ。だからアルベルト殿とセティーを引き裂きたいという気持ちはない」
「はぁ。だったらセティーさんにミーシアンのシルクドレスなんて贈らないで下さい。ましてエルド様の瞳の色のアクセサリーなんて。エルド様なら、それらがどんな憶測を呼ぶかわかりますよね」
彼女はため息をついて、呆れた表情をしている。
「実際そのような憶測を言う者はいないだろう。それに、アルベルト殿とセティーの絆を疑う者など居ないだろう」
「それはそうですけど、リュカが心配していました。ミーシアンのシルクドレスの価値を思い違いしていたと。自分のせいで2人の間に亀裂が入ったらと」
「彼に責任を感じさせてしまっていたか。確かに彼の店で揃えたからね。彼には悪い事をしたね」
「そうです。万が一セティーさん達の仲を疑う様な噂が流れたら、リュカが責められる可能性がありました」
「彼とは幼馴染と聞いたが、貴族になった今でも仲が良いんだね」
「私がどんな身分になろうと、大事な幼馴染です。それは立場が反対であったとしても、同じだと思います」
「そうか。彼には折を見て謝罪するよ」
「話を戻しますが、セティーさんの事は諦めがつきそうですか?」
「それが出来たら苦労はしないよ。何せ他国の王太子の婚約者、それも相思相愛で絆も深い。決して叶うはずがないのに、こうして無理に留学して接点を持とうとしたくらいだからね」
我ながら女々しいな。
「それならいっその事、セティーさんに想いを伝えてその想いを昇華させた方が良いのではありませんか?」
「2人を引き裂くような事は反対じゃなかったのかい?」
「それはもちろん反対ですが、このまま未練が残れば、後々セティーさんが困る事になる可能性があります。エルド様には、セティーさんに想いを伝えた上で、キッパリと振られ、良き友人としてミーシアンにお帰り頂きたいです」
「君は…顔に似合わずハッキリと酷い事を言うね」
「大切な人の笑顔を守るためですから。それに、無礼講をお許しくださるエルド様にだから言えるんですよ」
「君にとってセティーはとても大切な友人なんだね」
「えぇ生涯の友であり、尊敬し敬愛する人です」
彼女の顔はとても穏やかで澄んだ瞳をしていた。
セティーに対しする思いがその表情をさせているのだろう。
「想いを伝えるなら、セティーの迷惑にならないタイミングが良いな」
「それなら帰国直前でどうですか?」
「直前か…」
「それなら気まずくならずに帰国出来ますし、それまでの思い出作りなら協力しまよ」
「は?」
「あくまで思い出作りです。エルド様の想いを昇華させるためのお手伝いです」
「そうか…それなら、お願いしようかな」
「直接的な事は出来ませんが。さっそくですが、3日後に私達は乗馬の練習をします」
「そうか」
「セティーさんは一般的な乗馬は出来るのですが、馬術に自信が無いのです。どなたか、教えて頂けたら幸いなのですが」
セティーと乗馬の思い出作りという事か。
確かに楽しそうだ。
それにしても馬術が苦手とは意外だな。
なんでも卒なくこなすと思っていたのに。
3日後。
エメリアに聞いた乗馬場を訪れた。
障害物のコースではマリアとエメリアが馬を走らせていた。
2人とも凄いな。
男性に混じっても引けを取らない程の馬術だ。
一般の乗馬場ではセティーが優雅に乗馬をしていた。
なるほど。
令嬢の嗜みとしては申し分ない乗馬だが、馬術をするには、もう少し速乗りが出来るようになった方が良いだろうな。
「セティー!」
「エルド様!?どうしてここに」
「気晴らしに馬に乗ろうと思ってね。セティー達も乗馬を?」
「えっと私達は馬術の練習に。でも私は2人と違って馬術が苦手で。まずは馬と呼吸を合わせてからにしようと思って」
「そうか。見たところ馬との呼吸は合っていると思う。少し速度を上げて走ってみてはどうかな」
「スピードを…。従兄弟のお兄様達と乗った時の様な猛スピードは怖くて」
「そこまで早くなくて大丈夫だよ。大事なのは自分で制御出来るスピードを把握する事だから」
私は自分の馬を降り、セティーの馬に乗る。
セティーの後ろに乗り、手綱を持つ。
「エッエルド様!?」
驚いているセティーをよそに、私はそのまま馬を走らせる。
「ほらこのくらいの速度なら大丈夫だろう。手綱を握ってごらん」
「はっはい」
セティーは問題なく馬を走らせる事が出来た。
「よし。もう少し速度を上げてごらん。大丈夫もしもの時は私が制御するから」
「はい」
よし。
これくらいの速度で走る事が出来れば馬術も出来るだろう。
「休憩をしよう」
「はい。ありがとうございました」
「私が勝手にした事だから気にしないで。勝手ついでにこのまま馬術も教えるよ」
「それではエルド様が満足に乗馬が出来ないわ」
「私なら大丈夫だよ。久しぶりに人に教えるのも自分の成長に繋がるからね」
「それなら…お願いします!」
休憩後。
セティーと乗馬訓練を行う。
「まずこの丸太を跨ぐんだ」
「えっ跨ぐだけ?」
「あぁいきなり飛び越えるのは難しい。少しずつ慣らしていくんだ」
セティーは少しずつ跨ぐ丸太の数を増やし、軽く飛ぶ必要がある高さになった。
「よし、飛んでみようか」
「はい!」
セティーは上手く馬と呼吸を合わせ、飛び越えていった。
「よし!次はいよいよコースの生涯に挑もうか」
「うっうん!」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。1番低いのだから」
「うん。そうだよね!頑張るわ!」
セティーはとても緊張してきたが、難なく1番低い障害物を飛び越え、次の障害物も飛び越える事が出来た。
「エルド様。今日はありがとう!お陰様で初めて障害物が飛べたわ!」
「セティーが上手く馬術が出来て良かったよ。私も楽しかった。また機会があったら一緒に練習をしよう」
「えぇ!その時はまた教えてくれたら嬉しいわ」
「もちろんだよ」
セティーはマリアとエメリアに合流し、コースを走りに行った。
楽しい休日だったな。




