見透かされる想い
廊下に貼り出されたテスト結果と順位に生徒達にどよめきが起きた。
「何かしら?」
「誰か凄い点数を出したのかしら?」
「見にいきましょう」
学園での最後のテストだから、皆んな張り切っていたものね。
1.
アルベルト・ベスタトール
エルド・ミーシアン
3.
セレスティーヌ•マルヴィン
マリア・エルランジェ
エメリア•バルシエ
「私達3人とも同点です!」
「そうね!それに過去最高得点だわ!」
「アル様とエルド様も同率1位よ」
アルはいつも満点だけど、エルド様まで満点だなんて。
エルド様が優秀なのは知っていたけど、ここまで優秀だったのね。
「3人とも結果を見に来ていたのか」
「アル様1位おめでとう」
「ありがとう。セティーも今回も良い結果だな。それにしても3人が同点とは凄いな」
「何言ってるんですかアル様!アル様とエルド様の方が満点での同率1位ですよ!」
「あぁそうみたいだな。エルド殿は秀才だからな。もしかしたら、私以上かもしれないな」
アルがそんな事を話しているとエルド様が来たわ。
「一応1年早く卒業試験を受けた身ですからね、知っていた問題が多かっただけですよ」
「そうか。それにしても、リーファン姫も高得点とは。2人が留学されて他の生徒達にも良い刺激となっただろう」
「私の留学がこちらの利になる事があったならなによりです」
エルド様の留学期間がもう半ばなのよね。
それはリーファン姫も同じだけど。
リーファン姫には学園を卒業しても好きなだけ居たら良いわと言っているけど、エルド様はそ軍に復職するのよね。
「あと3ヶ月か」
「卒業後も留まることは難しいの?」
「一応軍での役職もあるし、これ以上私の我儘で休むわけにはいかないよ」
「そうなの。それじゃあ仕方ないわね」
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エルドside
放課後、勉強をしようと学園の図書館へ訪れた。
この国に居る間は周りの目を気にせずに、好きな学問を学べる。
幼い頃から知識を頭に入れるのが好きだった。
自分の世界が広がるようで、知識はいくらあっても良いと思えた。
それと同時に身体を使うことも好きだった。
まさかそれが王位継承の火種になるとは。
初めは結果に対して周りの者が褒めてくれていたが、8歳を過ぎた頃から私を王位にと望む者が出てきた事で環境が一変した。
帝王学を優先的に学ぶようになり、それまでの講師からより身分の高い者に変えられた。
さらに、兄上と距離を置かねばならなくなり、父上と母上とも会う回数が減った。
中途半端な自分が1番悪いとわかっている。
周りの者に私の王位を諦めさせる為、道化を演じる事も出来ず、ズルズルと今の状態を続けている。
中途半端なのだ。
王位を望んでいない事を認めてほしい。
だが、腑抜け、劣っているなどと思われたくはない。
自分のプライドがこのような事態を招いたのだ。
父上と母上は兄上に王位を継承してほしいというのに。
帰ったら臣下に降りる事を宣言しよう。
周りの者が反対しようとも、今度こそ自分の立場を明確にしよう。
「あそこに居るのは、エメリアか?」
図書館の窓からエメリアが複数の女生徒に囲まれているのが見えた。
不穏な雰囲気だが、大丈夫だろうか?
彼女は確かに元平民だが、成績優秀で去年は模範生も務めた程だ。
マナーや教養も身につけ、セティーやマリアの親友だ。
そして何より彼女は、官僚を目指し、いずれはセティーの女官を目指す才女だ。
入学間もない頃ならともかく、現在の彼女を妬む者も居たとしても、表立って彼女に不満や妬みをぶつける者が居るとは。
助けに行くべきが悩んでいる間に、エメリアは女生徒達から解放された。
良かった。
荒事にはならなかったようだ。
ホッとしているとエメリアが図書館の扉を開け、私の方へ向かって来た。
近くの席に本が積み上げられていたが、もしかしてエメリアが勉強していたのかな?
「あれ?エルド様もお勉強ですか?」
「あぁ。天文学について学びたくて。それより大丈夫だったかい?窓から女生徒達に囲まれているのが見えたけど」
「ご心配ありがとうございます。大丈夫です。いつもの事ですから」
「いつも…。いつもあんな風に囲まれているのかい?セティーやマリアが居ない隙をついて、なんて事を」
「あっ紛らわしかったですね。今は文句や悪口を言われるんじゃなくて、セティーさんとマリアさんをお茶会やサロンに誘ってほしいとか、御兄弟からのお手紙を渡されたりです」
エメリアの手元を見ると、手紙が複数握られていた。
なるほど。
エメリアに好意を抱いている兄弟から手紙を託されたが、教室で渡すには目立ってしまう為ああして呼び出して渡されていたのか。
「エメリアはモテるね」
「私自身がモテているのではなく、セティーさんとマリアさんと仲がいい令嬢だからです。私はただの元平民で貴族の血は流れてませんから」
そう話すエメリアはどこから遠くを見るような目をしていた。
「勉強の邪魔でなければ、少し話さないか?」
「では、隣の談話室へ行きましょう。あそこなら本を読みながら話も出来ます」
「個室になっているのか」
「はい。ここで勉強を教え合ったりするんですよ」
「なるほど。さっきの話の続きになるが、エメリアはその手紙を読む気はないのかい?」
「何故私がこの手紙を読まないとお分かりなのですか?」
「その手紙を渡された事が辛そうに見えたからかな?」
「顔に出てしまっていたんですね。はぁ。やっぱり私はまだまだですね。そうです。この手紙は読みません。私は『貴方様の気持ちには応えられない』とお返信するだけです」
「断って角が立つ事はないのかい?」
「大丈夫ですよ。家同士の正式なお付き合いの申し込みではないので」
聞けば、彼女は告白される事はあるが、正式な婚約者として望まれる事は、そこまで多くないという。
元平民という事が理由だろう。
そうでなければ、次期王太子妃となる2人が親友だと言っている女性だ。
周りがほっておくわけがない。
彼女自身とても可憐な容姿をしている上に頭脳明晰で性格も良く、『銀の乙女』という二つ名があるほどだ。
血筋さえ良ければ高位貴族や王族とだって婚姻を望めただろう。
「幸い義父は私に政略結婚を望んでいませんし、セティーさんやマリアさんが牽制をしてくれているおかげで、望まない婚姻を避けられてます」
「その気になればそれなりの身分の者に嫁げるだろうに」
「そうでしょうか?」
「あぁ実際私に媚びる事も無いじゃないか。王子の妃になる。それこそセティー達と同じ立場になれるのに」
「私には分不相応ですよ。同じ立場になれたって幸せになれるとは限らないですから。元平民が妃になんて、物語の中だから成立するんです」
「そうか。話してくれてありがとう。断る事が難しい相手がもし現れたなら言って。力になる事はするよ」
「ありがとうございます」
「あの、エルド様は気持ちを伝えられないのですか?」
「私の気持ち?」
「セティーさんの事好きですよね?それも、とても深い愛情を」
エメリアは凛とした雰囲気を纏い、ジッとこちらを探るように見ていた。




