想いの始まり
アルベルトside
ミーシアンから第2王子のエルド殿が来た。
エルド殿とは幼い頃から定期的に顔を合わせていた。
初めは私と同じく、模範的な王子で親近感があったが、ある時を境に距離を置くようにした。
そう。
セティーについて聞かれる事が増えた時から。
まだセティーが婚約候補者だった時だ。
他の候補者を含めて聞かれるならまだしも、セティー個人について聞かれ、エルド殿はセティーに興味を持っているのだとわかった。
しかも、エルド殿はセティーと接点がないというのに、セティーを知っているような話ぶりだった。
確かにセティーは我が国で高位の貴族令嬢で尚且つ、評判の高い令嬢。
その評判は白銀の乙女という二つ名と共に、他国へも広まっているが、エルド殿はそんな表面的な事ではなく、セティーの内面を知っている様だった。
何故だ?
何処かでセティーに会ったとしか思えない。
それも公ではなく、私的なセティーに。
エルド殿が我が国に来た事は無かったし、セティーもミーシアンヘ行った事は無いはずだ。
婚約候補者。
正式な婚約者ではなく、他の者との婚約が整えば、候補を降りる事も可能。
万が一セティーが他の者と婚約するとなれば、
まして相手が他国の王子となれば、私は手も足も出せない。
だから私は焦っていたのかもしれない。
セティーをエルド殿に取られぬ様、極力エルド殿とは関わらず、セティーについては情報を渡さない様にしてきた。
ミーシアンからエルド殿の留学を打診された時、シャルの留学を理由に断れた事に安堵した。
それからセティーは正式に私の婚約者となった。
そして私達は苦難を乗り越え、互いに気持ちを通じ合った恋人となった。
だからエルド殿が今更目の前に現れたとて、問題はないはずなんだ。
たとえエルド殿の気持ちがセティーに向いていても。
セティーの事だから、自分が好かれていると思っていても、それは恋愛ではなく、友情だと思うはずだ。
エルド殿の留学が終わるまで後3ヶ月半。
このまま何事なく終えてくれたらいい。
エルド殿は自分の立場を理解している。
私とセティーを巡って争えば、国家間の関係に亀裂が入るという事もわかっているはずだ。
まったく。
モテる恋人をもつと苦労するな。
エルドside
8年前、国家間の交友を目的とした、王子達の交流会に私も参加させてもらえる事となった。
同年代の王子達との交流。
特に同じ年のアルベルト殿とシャルエラント殿との交流は楽しみにしていた。
シャルエラント殿はとても陽気な方だった。
アルベルト殿は自分と同じタイプの王子の様だった。
アルベルト殿とシャルエラント殿は既に面識があり、手紙でのやり取りもある様だった。
「婚約候補者とはアルも大変だな」
「はぁ。他人事だと思って…」
「それで?その中に本命はいるのか?」
「そっそれは…」
「おおかた『白銀の乙女』が本命だろ?」
「なっ!」
「ハハハ!図星だろ。そうかそうか彼女か。手紙でも彼女だけ他の者と違って褒めていたからな」
「うっうるさい」
皆の輪から離れた場所でアルベルト殿とシャルエラント殿はお互い素を出して話をしていた。
聞き耳と立てるようで申し訳ないが、2人の話を聞いてしまった。
なるほど、『白銀の乙女』と言われるセレスティーヌ嬢がアルベルト殿の本命なのか。
マルヴィン公爵令嬢という高位貴族にも関わらず、身分人種関係なく接すると評判だ。
白銀の髪にアメジストの瞳のとても美しい令嬢だという事も。
我が国は純白を尊い色としているため、白銀の髪を持つセレスティーヌ嬢は我が国でも評判の令嬢だ。
アルベルト殿が想いを寄せるくらいだ、評判通りの素晴らしい方なのだろう。
それから4年後。
兄上の婚姻が整い、兄上が王位に近づいた。
それでも私を王位にと望む者がまだまだ多い。
兄上は武はあまり得意ではなかった。
兄上の力になる為、剣の鍛錬を目指し、いずれは軍へと入隊するつもりであると周囲に伝えていたが、かえって軍閥の人間が私の派閥となってしまった。
私は一度品行方正という評価を捨てる必要があると考え、流方の旅へ出た。
と言っても護衛を連れたお忍びの旅だが。
その旅の中でベスタトールへ訪れた。
その際に幾つかの領地と王都を巡った。
そして、私は彼女を見つけた。
『白銀の乙女』
セレスティーヌ•マルヴィン
彼女を見つけたのはマルヴィン公爵領の孤児院だった。
彼女は簡素な服に身を包み、子供達と共に汗水流して畑の作業をしていた。
彼女は子供達に好かれる為ではなく、本気で汚れる事を気にしていない様に見えた。
領民達からも慕われ、セレスティーヌ嬢自ら領内を歩き、路上生活者や困窮者を援助していると聞いた。
噂に違わぬ高潔で清廉な心をもつ令嬢。
それが私が抱いたセレスティーヌ嬢への第一印象。
「お母さーん!!」
「私の馬車に傷が!?どうしてくれる!危なく私まで怪我を負うところだ!」
「加害者が被害者になんて事を!そんな事より早く病院へ運ばないと!」
「私はこの国の貴族!お前達とは違い、尊き血が流れている!」
私は王都へ訪れ、再び彼女を見つけた。
彼女を見つけたのは、王都の人が行き交う往来の中、馬車を走らせた貴族がその馬車に轢かれ、怪我を負った親子を罵倒している場面。
馬車の持ち主である貴族は、簡素な服とカツラで変装してるセレスティーヌ嬢の正体に気づいていない。
少し離れた所で心配そうに彼女を見ている子供達はおそらく彼女か支援している施設の子達だろう。
「そこのおじさん!その荷台に乗せてる野菜、私が全て買い取るから、荷を下ろしてこの親子を病院へ運んでください!」
「あっあぁ。わかった!」
罵声を浴びせている貴族を無視し、セレスティーヌ嬢は怪我人の救護を行った。
「大丈夫!呼吸も脈もしっかりあるわ!出血も多くないし、怪我の場所も臓器には関係ないみたい!処置を受けられれば助かるわ!」
怪我を負った母親にしがみついて離れない子供を安心させるよう話しかけ、親子が荷台に乗せられるのを見送った。
「貴様!誰の許可を得て!」
「貴方の許可など必要ないわ」
「何!?貴様、平民の分際で!私には高貴な血が!」
「私の名前はセレスティーヌ•マルヴィン。貴方の言い分では、貴方より高貴な血が流れている者よ」
セレスティーヌ嬢はカツラを取り、胸元から公爵家の家紋が入ったペンダントを取り出した。
「マルヴィン公爵!?」
「貴方に流れている血はただの人間の血よ。そして私に流れる血も。あの親子も、ここにいる人達全員同じ、人間の血が流れているわ。私達貴族は神ではなく、ただの人間。そしてこの国を平和に、正常に運営できるよう働くのが使命であり、義務を背負っていく者」
「そうだ!我々貴族が居るからコイツらが生活出来るのだ!」
「それは違うわ。彼らが居るから私達は生活出来るの。彼らが納めてくれた血税があるから、私達は生きていける」
「何!?」
「私達は彼らを守る事で、彼らの努力や気持ちに報いるの。私達は貴族という身分で生まれてきたけど、同時に義務と責任を負っている。義務と責任を果たせないなら、その身分を捨てなさい」
貴族と対峙するその姿が強烈に残った。
美しく心優しい令嬢というだけでなく、その芯の強さに惹かれた。
アルベルト殿の婚約者は彼女で決まりだろう。
わかっていた事だが、彼女との接点が欲しかった。
私は国へ戻り、ベスタトールの学園に留学したいとの嘆願書を書いた。
結果として私が留学する事は叶わず、私は自国の学園へ入学した。
入学して間もなく、彼女が正式にアルベルト殿の婚約者となった。
その後、兄上に世継ぎが生まれ、私は王位からより離れるため、学園を飛び級で卒業し、軍へ入隊した。
所属したのは、権力と欲していない家の出身者が多く、平民出身の騎士も居る部隊だった事もあり、政治とは無関係の者と友好を築けた。
軍での職務に明け暮れる中、私の元にシャルエラント殿が早期卒業し、自国へ戻るとの情報が届いた。
諦めた想いが再び燃え上がり、私は軍への休職申請と再びベスタトールへの留学希望の書状を書いた。
軍内部はもちろん、王宮内でも反発はあったが、結果私はベスタトールへ半年間の短期留学する事が出来た。
セレスティーヌ嬢と友好を結び、せティーと愛称で呼ぶ事を許され、私はとても幸せだ。
セティーがミーシアンの純白のドレスを纏い、私の瞳の色の装飾品を身につけた姿は、幼い頃に見た物語の妖精女王そのものだった。
リュカに勧められた生地に装飾品であるが、自身でそれを贈ると決めた。
だがその結果、想いが強まってしまった。
これ以上欲を出してはいけない。
この想いを永久に隠せるよう、この先、第2王子として自身を殺して国に民に尽くせるようにするための思い出作りのための留学なのだから
子供が産まれて1年が経ち、復職しました。
復職と同時に配置転換になり、四苦八苦しております。
元々遅い更新ですが、さらに遅くなるかもしれません。




