深まる交友②
放課後になり、エルド様と学園内を歩く。
「こちらが図書室よ」
「蔵書の数が多いね」
「マリアが蔵書を増やすために、働きかけてくれたの。他国の本も取り揃えてあるわ」
マリアが多方面の本を図書室に置く事で生徒の知識量と幅が広がると進言し続けてくれて、生徒達にも図書室を利用するよう宣伝してくれたのよ。
「そうかマリアが。確かに利用者が多いし、専門書の種類が多いね」
「そうなの。エメリアは毎日に此処で勉強しているわ。他の人も試験前には良く使っているわ。次へ行きましょう」
それから私は授業に必要な教室やサロンに中庭、そして鍛錬場を案内したわ。
「流石はベスタトール王国の学園だね。一つ一つがとても広ろい。設備も充実しているね」
「ありがとう。私は他国の学園を知らないけれど、とても良い環境が整っていると思っているわ」
「ミーシアンの学園よりも広いよ。平民の棟があるんだろう?」
「えぇ。礼拝堂と中庭を挟んだ向こう側が平民の生徒が学ぶ棟よ。エルド様、まだ時間は大丈夫かしら?」
「大丈夫だよ」
「では、あちらの棟へ行った時、もし会えたらなのだけど、もう1人大事な友人を紹介させてほしいの」
「あちらの棟という事は相手は平民なんだね」
「えぇ。去年一緒に模範生を務めた優秀な方よ」
エルド様なら平民であるリュカを見下さないと思ったけど、どうかしら。
「平民で模範生とは。相当優秀な生徒なんだね。是非会ってみたい」
「えぇ!それに、勉強が優れているだけじゃないの!商家の子息なのだけど、既に自分で商売を成功させているの!」
私はリュカが各領地を回って、売上を伸ばしたり、シャル様の依頼で、ナハラセスでの地下水汲み上げの装置を作る技術者を派遣したり、部品を揃えたりした事、カメラを開発して文明に革命が起きている事を話したわ。
「成程。ただ頭が良いわけじゃなく、これから先の時代に必要な人材と物を揃え、新たな物を生み出す事が出来るとは…。今すぐ我が国に欲しいと思う程の人だね」
「そうなの。それにリュカは細かい所にも気を回してくれて、いつも私達のサポートをしてくれるの」
話をしていると平民用の棟についたわ。
「棟の作りは同じなんだね」
「そうね。棟は分けているけど、建物や設備に差はないわ。分けている理由は貴族に萎縮せずに学ぶ為だから」
「確かに貴族と平民が一緒では軋轢を招かねない。問題が起きても、平民は貴族に逆らう事が出来ないだろうし」
「そうね。お互いの為にも分かれている方が良いわ。エメリアも一年生の頃は苦労したのよ」
「そうか…。貴族社会は血筋が全てだからね…」
「さてと。この話はここまでにして、リュカを探さないと」
約束してはいないけど、会えるかしら?
先程から生徒達が遠巻きにこちらを見ているけど、その中にリュカは居ないわ。
とりあえず、リュカの教室に行ってみようかしら。
「セティー様!」
「リュカ!」
リュカが私達の方へ駆けて来てくれたわ。
「クラスメイトがセティー様がこちらに来ていると教えてくれまして。僕に御用でしょうか?」
「そうなの。リュカに会いたかったのよ。リュカ、こちらミーシアン国の第2王子、エルド様よ」
エルド様をリュカ煮紹介すると、リュカはエルド様に頭を下げたわ。
「友達であるリュカを紹介したかったのよ。学園を案内中に会えたら良いなって思ってたの」
「セティー様ありがとうございます。ご紹介に賜りました。リュカと申します。分不相応にもセティー様をはじめ、皆様とは親しくさせて頂いております」
「頭を上げてほしい。他の皆んなと同じように私も君と仲良くなれたら嬉しい」
エルド様はリュカに手を差し伸べてくれたわ。
リュカは少し驚いた表情をした後、嬉しそうにエルド様と握手を交わしたわ。
「何か必要な物があれば僕に言ってください。必ず揃えてみせます」
「ありがとう。頼もしいね。確か商人の家だと聞いたけど」
「実家はサリュート商会を営んでいます。僕はそこの三男になります」
「サリュート商会。ミーシアンでも幾つか取引をしている所だね」
「ご存知でしたか」
「もちろん。ミーシアンへ輸入品を運んで来てくれる商人だからね」
「ありがとうございます。父も喜びます」
良かった。
エルド様はリュカとも仲良くしてくれそうだわ。
「そうだセティー様、ご依頼の生地が揃いました」
「ありがとう!無理を言ってごめんね」
「とんでもない。もう少しだけ完成をお待ち下さい」
「もちろんよ」
リュカに他国の涼しいドレスを作る為に生地をたくさん集めてもらっていたの。
自分のは何着か作ったから、リーゼ義姉様にプレゼントしようと思うの。
「揃えるのが難しい生地なのかい?」
「そうね。他国のドレスを作るのに、他国で生産された生地が必要だったの」
「他国のドレス?」
エルド様に他国のドレスを流行らせた話をしたわ。
「ここはまだまだ暑いでしょう?次の夜会にも涼しい他国のドレスで行こうと思っているの。今リュカにお願いしているのは、リーゼ義姉様にプレゼントなの」
「他国のドレスか。ミーシアンのドレスを贈ったら着てくれるかい?」
「えっそんな。ドレスをエルド様に貰うわけには…」
「セティーが着てくれたら流行るだろうね。そうなれば、ミーシアンの生地がこちらの国に売れるから、私が無理に留学した事、認めてくれる者が増えと思ったのだけど」
うっ。
そんな事言われたら嫌だとは言えないわ。
でもドレスを貰うなんて。
ドレスは高価だし、贈る相手は大抵、想い人よ。
「マリアやエメリアにも贈るよ。それならどうかな?」
「マリアとエメリアも着るなら大丈夫だわ」
2人にも贈るなら、友人としての贈り物だと、アルもわかってくれるわ。
「エルド様、そのドレスの手配を僕にお任せ下さい」
「ありがとうお願いするよ。色々相談させてほしいな」
「それでは後日、細かい話をお聞かせください」
「うん。そうしてくれると助かるよ」
2人の話が纏まり、私達は自分達の棟へ戻ったわ。
後案内していないのは寮くらいだけど、私は男性の寮には入れないし、そこはアルにお願いしないと。
「セティー!」
「あっアル様!丁度良かった。エルド様に学園を案内して、今戻った所だったのよ」
「申し訳ない。アルベルト殿はお忙しいようでしたので、セティーの優しさに甘えてしまいました」
今日で皆んなが仲良くなって呼び方とか砕けた話し方になったのに、アルとエルド様は変わらずなのよね。
「そうか。セティーに任せてしまってすまない」
「大丈夫よ。この後、寮内の案内をアル様にお願いしたかったの」
「わかった。それは私が承る。エルド殿、セティーに少し話があるので、待っていてほしい」
「えぇ。むしろお願いしているのは私の方ですから、構いませんよ」
アルと私はエルド様と少し離れた所で話をしたわ。
「セティー。エルド殿案内ありがとう。変わった事や困った事は無かったか?」
「そういった事は無かったわよ。リュカを紹介出来たし。あっそうだアルに言わなきゃいけない事があるの」
アルにエルド様からドレスを頂く話をしたわ。
「エルド殿がセティーにドレスを…」
「私だけじゃないわよ。マリアとエメリアにも贈るの。今他国のドレスが流行ってるから、ミーシアンのドレスも流行らせたいって事で」
「それならば…仕方ないか…」
アルは苦虫を潰したような顔しているわ。
「本音を言えば、私以外の男性から贈られたドレスを着てほしくはないな」
「ふふありがとう。アルに嫉妬してもらえるなんて、嬉しいわ」
「そう喜ばれると複雑だな」
アルはその後、エルド様を寮へ案内しに行ったわ。
案内中に2人が仲良くなると良いなぁ。
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エルドside
「エルド様、本日お会いしたリュカさんからお手紙が届いてます」
「ありがとう」
手紙の内容はドレスの仕立てについて、打ち合わせを2日後にしたいとの内容だった。
「直ぐに返事を書こう」
「凄い青年ですね。聞く話によると、開発したカメラで写真を図鑑や医学書に載せる為に、各方面の学者とコンタクトを取っているようですよ」
「もしそれが叶えば、各方面の分野が他国より一歩も二歩も先に進むだろうね」
もし実現されたら彼は、技術、医療等の発展に大きく貢献した人物として、爵位を得るかもしれないな。
2日後の放課後、彼が用意してくれた馬車に乗り、彼の店のアトリエに向かった。
「御足労をお掛けして、申し訳ありません。こちらにお掛け下さい」
「いやこちらこそありがとう」
「さっそくですが、ドレスの打ち合わせをさせて下さい」
そう言って彼はデザイナーを呼んだ。
呼ばれたデザイナーはたくさんの生地を乗せたワゴンを押して部屋に入ってきた。
「この生地は…ミーシアンのものだね。これだけの生地を、どうやって短時間で…」
「ミーシアン国から王子が御留学でお越しになられるとお聞きして、必要になると思い、仕入れていたのです」
「こうなる事を見越していたのかい?」
「いえいえ。他国のドレスが流行ってますから、ミーシアンから王子がお越しになられたら、ミーシアンのドレスに興味をお持ちになる方が居ると思いまして」
「先見の目があるんだね」
それからデザイナーがミーシアンのドレスのデザイン図を出してくれた。
「こちらも事前に用意していたのかな?」
「えぇそうです。いつくかデザイン図を書いておりました。どうでしょうか?エルド様から見て、これらのデザインは」
「素晴らしいよ。どれもミーシアンのデザインだよ。ミーシアンのデザイナーが書いたようだよ」
「ありがとうございます。この中からセティー様達にお似合いになるものがあればお選び頂きたいです」
どれも素晴らしいデザインだな。
「マリア様でしたら瞳の色に合わせた緑色のドレスが。リアでしたらこの薄紫色が似合うと思います」
「リア?」
「あっエメリアです。実は僕達は幼馴染でして。僕はリアと呼んでいます」
「そうなんだ。他の皆んなはリアとは呼ばないのかな?」
「そうですね。僕だけが呼ぶ愛称ですね」
「自分だけの愛称か。良いね。うん。2人にはこの色のドレスにしよう」
「ありがとうございます」
2人には彼が薦めてくれた色とデザインで良いとして、セティーにはどうしようか。
「こちらの生地は如何でしょうか?」
「これは…。ミーシアンのシルク生地だね。よく手に入ったね。国内でもとても貴重な生地だよ」
「色々とツテがありまして。それに、純白はミーシアンでは大切にされている色ですから」
「そうだね。白と青が貴重で高貴と考えられているよ。ではこの生地を使わせてもらうよ」
「かしこまりました」
デザインはどうしたら良いだろうか。
セティーの優しい雰囲気と凜とした面を表すドレスは…。
「このデザイン画は?」
「あっそちらはまだ途中でして…」
「セティーのドレスは、こちらにデザインや装飾を足していくのはどうだろうか」
「良いと思います」
「足回りは少し広げて歩きやすくしたい。胸元から腰に掛けてドレープを」
「こんな感じでしょうか?」
私が言った事をすぐにデザイナーが書き足してくれた。
「うんイメージ通りだよ。ありがとう」
「ではドレスの作成に入りますね。2週間程で出来ると思います」
「3着を2週間で?有難いが、無理をさせたくはないよ」
「後配慮ありがとうございます。大丈夫です。工房にはたくさんの針子がおりますので」
聞くと彼は腕のお針子を雇っているみたいだ。
「本日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう。完成が楽しみだよ」
「よろしかったのですか?」
「何がだい?」
「純白のシルク生地は確かに貴重です。貴重過ぎてウェディングドレスに使われるのが一般的ですが」
「そうだね。一生に一度の結婚式でしか使えない。その貴重なシルクを用意出来る事に驚いたよ」
「そこじゃないですよ。その貴重な生地のドレスを他国の令嬢に贈って良いのかという事ですよ」
「別に良いじゃないか。確かに貴重だけど、結婚式にしか使ってはいけないという決まりは無いのだから」
「それはそうですが…」
「それに彼の口ぶりから、貴重な生地とはわかっていても、結婚式でしか使われていないのは、知らないのだろうしね」
「はぁ全く。大臣達が聞いたら卒倒しますよ」
「それは、それで楽しいだろうね」
あの生地を手に入れる事が出来るとは、サリュート商会、いやリュカは本当に凄腕の商人なのだろな。




