深まる交友
エルド様がこの国に来て、いよいよ今日から学園に通うわ。
「セティーはエルド王子とは仲が良いのでしょう?どんな方なの?」
「とても優しいくて、気さくな方よ。孤児院に一緒に行ったのだけど、子供達のために泥だらけになる事も厭わない人よ」
「イメージではクールそうだと思ったけど、違うのね。私達も仲良くなれたら良いわね」
「そうですね!それにしても、王子様が泥だらけになるのも構わないなんて、凄いですね!」
「きっと仲良くなれるわよ。とても良い人だもの。それよりマリア」
「なぁに?」
「どうして私がエルド様と仲が良いって知っているの?」
公には一緒に出歩いてないし、噂になる様な事は無いはずだけど。
「エルド王子が王都へ行く度にセティーに教えてもらったと言ってるみたいよ」
「えっそうなの?」
確かに王都を案内したのは私だけど。
「えぇ。王太子の婚約者として、エルド王子をもてなしているって噂なんだけど」
「そう。変な噂じゃないなら良いわ」
「大丈夫よ。もう国内の貴族の間じゃあ、アル様の相手はセティーしか居ないって認識なんだから」
「貴族だけじゃないですよ!国民の間でもセティーさんしかないって言われてるんですから!」
「認められているようなら嬉しいわ」
期待に応えられるように、もっともっと頑張らないとね。
「そろそろアル様と先生がエルド様を連れて来る頃だわ」
私がそう言うと教室の扉が開いたわ。
「皆さん、お座り下さい」
「本日から私達と一緒に学ぶ事になったミーシアン国の第2王子だ」
「皆様初めまして。ご紹介に賜りました。エルド・ミーシアンです。短い間ですが、皆様と楽しいひと時を過ごせたら嬉しいです」
エルド様はニッコリと笑って挨拶をしてくれたわ。
皆んながエルド様に注目している中、ヴィクトルがコソッと話しかけてきたわ。
「ねぇセティー。エルド王子って軍に所属してる騎士なんだよね?」
「えぇそうよ。細身に見えて、力があるわよ」
「そうなんだ!俺と手合わせしてくれないかなぁ」
「エルド様なら了承してくれそうだけど、政治的にどうかしらね」
アルの護衛になるヴィクトルも、自国で軍に所属しているエルド様も、お互いに負けるわけにはいかないし。
「えぇー。セティーからも頼んだよぉー」
「もうヴィったら。セティーに無理言ったらダメよ」
「あの雰囲気、あの立ち姿。絶対強者だよ。手合わせしたいじゃん」
「ヴィクトルらしいわね」
「セティーさん。エルド王子をランチにお誘いしてはどうですか?仲が良くなればヴィ君と一緒に鍛錬してもらえるかもしれませんし」
「そうね。私もエルド様に皆んなを紹介したいわ」
事前に仲が皆んなの事は話してあるけど、ちゃんと紹介をしたいわ。
「エルド殿、こちらへ」
「隣、掛けさせて頂きますね」
アルがエルド様を私達が座っている場所へ連れて来てくれて、エルド様はヴィクトルの隣に座ったわ。
「どうぞエルド王子。ヴィクトル・エルランジェです」
「ヴィクトル殿、よろしくお願いします」
「ヴィで良いですよ。それに敬語もよして下さい」
「エルド殿、講義が始まってしまう。後で友人達を紹介させてほしい」
「えぇ是非、お願いします」
それからアルが授業と授業の合間、エルド様にクラスメイトの男性陣を紹介していたわ。
お昼になって私はエルド様に話しかけたわ。
「エルド様。私達一緒にランチを取っているのでだけど、一緒にどうかしら?」
「ありがとう。セティーの友人にも挨拶がしたいな」
「良かった。2人とも私の親友なの。仲良くしてもらえれば嬉しいわ」
マリア達には先にテラスへ行ってもらってるいるし、アルも教員に呼ばれているから、エルド様と2人でテラスへ向かうわ。
「いつもテラスでランチを取っているの。まずは食堂に案内するわね。その後テラスへ向かいましょう」
「ありがとう。学園のランチを楽しみにしてたんだ」
「一般的なメニューばかりだから、珍しい物は無いかもしれないわ」
ミーシアン国との食文化は大きな違いは無いはずだだし。
エルド様にとって珍しいものはないかも。
「それは良いんだ。学園で皆と同じ物を食べる事が楽しみだったんだ」
エルド様も自国の学園に通っていたはず…。
飛級して去年に卒業したと聞いていたけど…。
「自国では仲を深める者は居なかったんだ。高位貴族の者と仲を深めれば、私を王位にと考えている者が助長してしまうから…」
「そうでしたか…」
確かにエルド様って才色兼備かつ文武兼備で凄く優秀なのよね。
王太子である第1王子のは15歳年上。
去年王太子に子が出来たし、普通にいけば次の王位は王太子よ。
でも、王太子が王位についても、子が育つまでの間、エルド様の方が王位に近いし、エルド様を推したい人が多いのは仕方ないのかしら。
第2王子の立場で優秀過ぎるのも大変なのね。
もしかして、王太子に子が出来た去年のタイミングで学園を卒業して軍に入ったのは、王位争いから遠ざかる為?
「セティー。敬語に戻っているよ。学園が窮屈だった分、軍では羽を伸ばしていたんだ。それに、この国来れて、学園生活のやり直しが出来て嬉しいんだ」
「半年という決まったら期間だけど、たくさん思い出を作りましょう!」
本当は1年生から留学したかったのよね。
過ごせなかったら期間の分もこの国を、この学園を楽しんでくれたら嬉しいわ。
「お魚とお肉のランチを1つずつお願いします。それとワゴンをお借りしますね」
ランチを注文して、テラスまで運ぶのにワゴンを借りたわ。
「ランチを2つ?」
「アル様の分よ。アル様はいつもお肉のランチだから。エルド様のも運ぶから載せて」
「私がワゴンを押すよ」
「重くないし、大丈夫よ。さぁテラスに行きましょう」
テラスへ向かうため食堂を出たら、アルが前から歩いてきたわ。
「アル様!」
「セティー。今から食事を注文しに行くから、先にテラスに行っててくれないか」
「アル様の分も注文したわ。お肉のランチで大丈夫だったかしら?」
「ありがとう。いつも私が食べているのを注文してくれたんだな」
「えぇ。じゃあテラスへ行きましょう」
テラスに着くとすぐにヴィクトルが私達に気づいてくれたわ。
「アル様ー!セティー!ここだよー!」
「皆ん席を取ってくれてありがとう。あら?皆んな食べずに待ってたの?」
「セティー達を待ってたんだ!」
「先に食べてて良かったのに…」
「皆んな揃って食べたかったからさ」
「皆んな待っててくれてありがとう。エルド様、食事の前に紹介するわ。私の親友のマリアとエメリアよ」
「マリア・エルランジェと申します」
「エメリア・バルリエです」
「「お目に掛かれて光栄でございます」」
2人はエルド様に挨拶したわ。
エメリアのカーテンシーも板についてきた感じになったわぁ。
「2人とも。そんなに畏まらないで。私の方こそ2人に会えて光栄だよ」
エルド様は、カーテンシーのまま、頭を下げている2人に手を差し伸べてくれたわ。
「「ありがとうございます」」
「2人との事はセティーに聞いているよ。2人とも、仲良くなれたら嬉しい」
「「はい」」
「じゃあ2人の紹介も済んだし、食事にしましょう」
「そうだマリア嬢。ナハラセス国のシャルエラント殿との婚約おめでとう」
「ありがとうございます。ご存じだったのですね」
「一国の王子。それも次期国王となる王子の婚約だからね。あのシャルエラント殿に最愛な方が出来るとは。喜ばしいね」
「ありがとうございます。私もシャルと婚約するなんて、出会った時は思ってませんでした」
「此処での生活がシャルエラント殿を変えたのだろうね。最愛の人を見つけ、縁を結ぶ。羨ましい事だよ」
「エルド様にもきっと最愛の方が見つかりますよ」
「ありがとう。そうなったら、幸せだろうね」
エルド様は確か婚約者も、婚約者候補も居ないのよね。
貴族、それも王族だもの。
政治的な兼ね合いもあるから、簡単には決められないわよね。
しばらく楽しい会話が続き、皆んながエルド様に対して敬語が抜けてきた頃、エルド様はヴィクトルに提案したわ。
「そうだヴィ。私と手合わせをお願いしたいな」
「やったー!願ってもないよ!」
エルド様の提案にヴィクトルは立ち上がって喜んだわ。
「俺はいつでも良いよ!」
「じゃあ鍛錬場の予約が取れ次第にしようか」
「やった!楽しみだなぁ!」
「あぁ私もだよ」
エルド様とヴィクトルが手合わせをするのが決まってマリアの顔色が悪くなったわ。
「えっエルド様!ヴィに気を遣っているなら大丈夫だから…」
「大丈夫だよ。私もヴィと手合わせをしたかったから。ヴィの強さは私の耳にも届いていたからね」
「それでも…」
「大丈夫だよ。マリアが心配する様な事は起こさせないから」
「それなら…良いのですが」
「大丈夫だよ!手合わせって言っても真剣じゃないから!」
「もうヴィったら。くれぐれも怪我の無いようにね!」
「大丈夫ですよマリアさん!お2人とも卓越した技術を持っているんですから!」
「手合わせが決まったら、皆んなで見学させてもらってもいいかしら?」
「「もちろん」」
2人とも見学を了承してくれたから、皆んなで応援に行こう。
「そろそろ教室に戻らねばいけないな」
「そうね。次の講義の準備をしないとね」
教室へ戻るために廊下を歩いていたら、いつの間にかエルド様が隣に居たわ。
「皆んながエルド様と仲良くなれて嬉しいわ」
「私も皆と友人になれて嬉しいよ。セティーが皆との仲を取り持ってくれたおかげだよ。ありがとう」
「いえいえ」
「頼ってばかりで申し訳ないのだが、放課後学園を案内してくれないだろうか?」
「もちろん良いわよ」
本当だったらアルの役目なんだろうけど。
最近アルが何かと忙しいから、私がアルの代わりをしないとね。
それに、放課後ならリュカを紹介出来るかも。
学園内を案内する時に見かけたら紹介しましょう。




