去る者、来る者
シャル様が早期卒業試験に合格し、帰国日が決まったわ。
「シャル様が帰国するまで後2週間を切ったわね」
「寂しくなりますね」
「そうね。でも1番寂しいのはマリアよね」
私とエメリアはマリアへ視線を送ったけど、意外とマリアはあっさりと答えたわ。
「案外そうでも無いわ。半年後には再会するのだし」
「そうなの?マリアが落ち込んでいないのなら良いだけど」
「そうですよね!半年なんて直ぐですよ!」
でも半年後にはマリアとお別れなのよね…。
寂しい…。
「セティーどうしたの?」
「半年後にはマリアと中々会えなくなるって実感して、寂しくなっちゃったの」
「セティー…。私も2人に会えなくなるのは寂しいわ」
「うぅ…セティーさん、マリアさん、たくさん思い出を作りましょうね!」
「えぇそうね」
「離れても私達は友達よ」
私達はマリアが出国する日は笑顔で送りますと約束したわ。
その日まで一緒に過ごすしてたくさんの楽しい思い出を残すわ。
夜会の日、私は東の国のドレスに身を包んだわ。
イヤリングはタッセルのついた物を。
髪型も羊ヘアーにして、それらしくなったと思う。
アルが迎えに来てお披露目したわ。
「どうかしら?」
「これは…。よく似合っている。似合い過ぎて他国の姫君に見えるほどだ」
「ふふありがとう」
会場について入場した際一瞬どよめきが起きたわ。
アルの隣に居るのが私で無く別人だと一瞬勘違いが起きていたみたい。
「セティーさん!よくお似合いです!」
「本当に良く似合っているわ。さっきアル様の隣がセティーではなく別人だと錯覚されてたわよ」
「そうだったみたいね。マリアもナハラセスのドレスとても似合ってるわ。エメリアも新しいドレスよね?可愛いわ」
シャル様がベスタトールで過ごす最後の夜会という事でマリアはシャル様とお揃いのナハラセスのドレスを着ているの。
間も無く遠距離になる2人だけど、絆は強いとアピールにもなるしね。
「セレスティーヌ様、ご機嫌よう」
「リーファン姫、ご機嫌よう」
「我が国のドレスとてもお似合いです。流石はセレスティーヌ様です」
「リーファン姫こそやはりドレスが板についてますね。美しいです」
私達のいる箇所だけドレスが複数国で凄いわね。
「マリア様のドレスも素敵ですね。涼しげでこの時期にはピッタリですね」
「そうなんです!とっても涼しくて良いですよ!」
マリアが着てるのはシースドレスと呼ばれるドレス。
「良いですね。東の国もベスタトールのドレスの様に涼しそうですね」
エメリアの言うとおりだわ。
「この国のドレスはスカート部分を膨らませるのに夏でもパニエをたくさん履くから暑いのよね」
「私も夏に着るならそちらのドレスがほしいです」
「この2つのドレス流行るかもね。ナハラセスにはこのドレス以外にもエンパイア型があるんでしょう?」
「そうなの!それだとコルセット無しで着れるからもっと涼しくて楽よ」
「「「コルセットなし!?」」」
なんて魅力的な!
「それは流行らせなければ!」
「セレスティーヌ様!私もそのドレスが着たいです!こちらの国は我が国よりも夏の暑さが厳しいと聞きましたし」
「セティーさん!私もです!」
「この東の国のドレスもパニエを履かなければ涼しいですし、他国のドレスを私達で流行らせましょう!」
「えぇ!頑張りましょう!」
それから私達はひときりドレスについて話をしたわ。
「女性達は凄いな。他国のドレスが流行ればそれぞれの国との交易に繋がる」
「夫人に合わせる為に、男性も他国の装いを揃えるだろうしな」
「女性が流行を作り経済を回すか」
アルとシャル様は私達の後ろで談笑していたわ。
「他国といえば、お前も大変だな。俺が帰ると同時に他国の王子が短期留学に来るのだろう?」
「あぁ。複数の他国の王子が滞在するのは安全上問題があり、国家間の軋轢を招く可能性があると、断っていたのだが、シャルが早期卒業で帰国するならばとゴリ押しされてな」
「この国に滞在したい理由があるのだろうな」
「そのようだな。何度か顔を合わせてた事があるが、良い印象はないな」
「気をつけるんだな。何が目的かわからないのだから」
「あぁもちろんだ」
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いよいよシャル様が帰国する日になったわ。
私達は港に見送りに来たわ。
「気をつけて帰ってくれ、また会おう」
「次に会うのは半年後ですね」
「シャル様、どうかお元気で」
「シャル様!絶対にマリアを迎えに来てくださいね!」
「皆見送りありがとう。半年を必ずマリアを迎えに戻ってくる。その時に皆元気で再会しよう」
今回は半年後に再会でするのが決まっているから、明るい雰囲気で見送れそうだわ。
「マリア…しばらくの別れだが、必ず迎えに来る」
「シャル…待っているわ…手紙、出すわね」
シャル様とマリアは熱く抱擁とキスを交わして、シャル様は帰国したわ。
私達はシャル様を乗せた船が見えなくなった後もしばらく、船の行き先を見つめていたわ。
「マリア、帰ろうか。このままいても注目の的だし」
「そうね帰りましょう。アル様とセティーは明日の準備もあるし」
ヴィクトルがマリアを促したのを合図に、それぞれ馬車に乗り込んでその場を後にしたわ。
私はアルと馬車に乗り、王宮に向かうわ。
明日近隣の国の王子が来るのよ。
「シャル様が居ないと寂しくなるわね」
「そうだな。だが楽しい2年半だった。シャルと過ごせた時間は大切な宝物だ」
「そうね。私もそう思うわ」
「話は変わるが、明日はミーシアン国の王子の出迎えをしなければならない。慌ただしくて申し訳ない」
「私なら大丈夫よ。来るのはミーシアン国の第2王子よね?私はお会いした事無いのだけど、どんな方なの?」
「第2王子という立場を弁えていている方だ」
「では真面目な方なのかしら?」
「真面目ではあると思うが、私もそれ程多く話しをした事はないな」
「そうなの。仲良く出来ると良いわね」
「あまり、関わらなくて良いと思うが…」
翌日、ミーシアン国から第2王子の一行がやってきたわ。
ミーシアン国は陸路で来れる国だから王宮で出迎えたわ。
「エルド王子、ベルタトールへようこそ」
「アルベルト王子、無理な願いを受け入れて頂き、またこの様な歓迎、感謝します」
エルド王子は薄い金色の髪に深い紫色の瞳を持つイケメンだわ。
眼鏡を掛けてインテリ系に見えるわ。
実際、自国の学園では主席だと聞いたし、優秀な方なのよね。
それに剣に優れて軍に所属しているの。
「そちらのお方は、お話に聞く婚約者様でしょうか?」
「そうだとも。婚約者のセレスティーヌ・マルヴィン嬢だ」
「お初にお目に掛かります。エルド王子様がお過ごししやすい様、お手伝いが出来ればと思います」
「お気遣いありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
アルの言う通り真面目そうな印象だわ。
来賓のお出迎えという仕事が終わり、王宮の部屋でゆっくりしていたら、ミーシアン国の使いの方が来たわ。
「こちらエルド王子からセレスティーヌ様にお近づきの印にと」
エルド王子からお近づきの品としてミーシアン国のお茶と茶器を頂いたわ。
この陶器の茶器、とって高価だわ。
この国への献上品にしても良いくらい。
「この様な高級な物を頂くには…」
「いえ。受け取って頂ければエルド王子もお喜びになります」
「では御礼状を書きますので、少しお待ち頂けますか?」
「かしこまりました」
御礼状には頂いた品のお礼にお茶会に招待したいと書き、すぐにエルド王子から是非にとの返事が来たわ。
「セティー待たせてしまったな。ミーシアン国からの献上品の検品がようやく終わった」
「私なら大丈夫よ。所でこの箱は?」
「これはミーシアン国から献上品の中でセティーに似合う物を持ってきたんだ」
「えっそれは王家に献上された品よ!?」
「大丈夫だ。父上と母上も構わないと言っている。気に入れば受け取ってくれ」
「そう言う事なら…。開けさせてもらうわ」
箱の中には美しいピアスとネックレスのセットだったわ。
繊細な金細工に深い色のバイオレットサファイアが使われているわ。
「綺麗…」
「セティーには深すぎる色合いだと思うが、とても似合うと思う」
「あっでも、どうしよう。エンド王子から既にお近づきの品を頂いたの」
「何?」
「お茶と茶器を頂いたの。だから、これを下賜して頂いたら貰い過ぎだわ」
「そうか。エルド王子にはセティーに下賜されたと伝えておくが、気にする様なら無理に受け取らなくて良い」
「いえ、頂くわ。下賜の件を出して下さったのは王妃様でしょう?」
「あぁ。アクセサリーはセティーにと母上がな。もっと派手な物もあったが、これが1番セティーに似合うと思った」
「そう。アルが選んでくれたのね。なら、尚更頂きたいわ。アルと王妃様からのご厚意だもの。それにしても、エルド王子へのお礼にお茶に御招待するだけじゃあ足りないわね」
「何?エルド王子と茶会をするのか?」
「えぇ。お茶と茶器のお礼に。だけど、それだけじゃ駄目よね。何か品を用意するわ」
何が良いかしら?
茶会までに用意出来るといいけど。
「その茶会、私も参加したいのだが」
「えぇもちろん良いわよ。私もアルが居てくれると嬉しいわ」
「それは良かった」
他国の王子を招く茶会だもの、張り切って用意しなきゃね!




