誘惑
誤字脱字報告ありがとうございます。
「リーファン姫この国には慣れましたか?」
「はい。お陰様で楽しい学園生活を送っています」
「そうですか。それは良かったです。クラスにも馴染めている様で安心しました」
「クリスティーヌ様がいらっしゃいますし大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
東の国の姫であるリーファン姫は私と同じクラスになるのだけど、前回クリスティーヌ様と同じクラスで学ばれたため、そちらのクラスをご希望されたの。
年を重ねて退学者が出たのもあってクラス間の人数差や爵位格差があったからその調整が出来るから学園側にとっては有り難がったのよね。
「あの…セレスティーヌ様とクリスティーヌ様は関わり合う事はないとお聞きしましたが…他のご令嬢もそうなのでしょうか?」
「クリスティーヌ様がクラスの令嬢達と仲良く出来ていない事が気になりますか?」
「はい…。以前は学園で学べる事が嬉しくて、気が回りませんでしたが、編入して来て、改めてクラス内の方々を見ると、クリスティーヌ様は孤立されているようで…」
「以前も言いましたが、『今更謝られても』という方は私の他にも居ます」
「そう…ですか…」
「ですが、孤立していても蔑ろにはされていないはずですよ。関わりの浅かった方とは交流されていますし」
「それは…そうですが…」
「以前同様。先入観の無いリーファン姫がクリスティーヌ様をお願いします。無理に他の方との仲を取り持とうとはしないで下さい」
令嬢達にとっては苦痛でしか無いもの。
加害者が謝罪したって、被害者が許さない限り、無かった事には出来ないし、関係は修復出来ないわ。
「あの。不躾で申し訳ないのですが、今王都で公演されているオペラはご存知ですか?」
「どちらの劇場のものでしょうか?王都にはいくつか劇場があります」
「王都中央の南側の劇場です」
「あちらの劇場ですか。えぇよく知っておりますよ。演目の原作は小説で、私も好きな話なんですよ」
「その本、出来たらお貸し頂けませんか?」
「えぇ大丈夫ですよ。よろしければオペラのチケットを手配しましょうか?」
「あっいえ、実は今度そのオペラを観覧しに行くのです」
「まぁそうなのですね!クリスティーヌ様と行かれるのですか?」
「あっいえ、カミーユ様とです」
「まぁ!」
パーティーでもパートナーだったし、もしかしてお2人はそういう仲!?
「その後援者として招待されたものの、当主御夫妻はご都合が悪く、カミーユ様が名代として行かれる事に。クリスティーヌ様と行かれるのが普通だと思うのですが、クリスティーヌ様も生憎都合が悪く、それでたまたま御屋敷に招かれていた私をクリスティーヌ様が推薦されて…。きっと私がオペラを見た事がない事に気を配って下さったのです!」
「あらそうでしたのね。確かにあそこの劇場はアルベール家が後援していましたね」
クリスティーヌ様は基本的に自宅謹慎だからオペラには行けないものね。
当主夫妻からチケットを譲られ、パートナーにと誘われるのは常套手段だと思うわ。
クリスティーヌ様はカミーユ様とリーファン姫をくっつけたいのかしら?
まぁ自分の兄には素敵な女性と結婚してほしいわよね。
「オペラでしたらパーティーと同じ装いで行かれると良いですよ」
「そうなのですか。ありがとうございます」
「オペラは社交の場ですし、行かれるのは貴族御用達の劇場ですから」
「故郷の物では変に目立ってしまうでしょうか?」
「東の国の装いはこの国のドレスとは違うので注目を集める可能性はありますね」
東の国のドレスはチャイナドレスの様なデザインなのよ。
足が見えない様スリット部分にレースが使われて可愛いの。
「そうですか。ではこちらの国のドレスを用意致します」
「東の国の装いも素敵だと思いますよ」
「ありがとうございます。ですが、カミーユ様にご迷惑にならぬ様出来るだけ溶け込める格好で行きたいと思います」
「では、よろしければマダムフルールのお店をご紹介します。今からオーダーメイドは難しいでしょうけど、既製品のドレスもとても良い物が揃っています」
「ありがとうございます!助かります」
「では後日一緒マダムのお店に行きましょうか。その時本もお貸しします」
「はい!」
マダムに連絡したらすぐに対応してくれると返事があったわ。
いつも急なお願いなのに、本当に有難いわ。
「今回も急なお願いを聞いてくれてありがとう。こちらが東の国の姫、リーファン様よ」
「お嬢様のお願いでしたらいでも構いませんよ。お話に聞いていた通りなんて可愛らしいお姫様なのでしょう。これはドレス選びが楽しいでしょう」
マダムはズラリとドレス並べてリーファン姫にあてがいドレスを選び始めたわ。
「こちらのドレスは如何でしょう?」
「私には色味が派手な気がします」
「そんな事はありませんわ。劇場は薄暗いですから、ハッキリした色味が映えますわ」
マダムが勧めているのは真紅のドレス。
とてもお似合いだと思うけど、リーファン姫は迷っているみたいだわ。
「そうなのですか。セレスティーヌ様はどう思われますか?」
「とてもお似合いだと思いますよ。真紅のドレスが着慣れない様でしたら、同じデザインの深緑色のドレスはいかがです?」
確か初めてこの国に来た際にリーファン姫が着ていたドレスは緑色だったはず。
深緑色とは少し色味が違うけど、こっちの方が着るのに抵抗は無いかも。
「こちらの方が自分に合っている気がします!」「では試着してみましょう。細かいサイズ調整もさせて頂きます」
ドレスはとてもリーファン姫に似合っていたわ。
普段の可愛らしい印象に加え、美しさが増したと思うわ。
「とてもお似合いです!お綺麗ですよ!」
「ありがとうございます!」
「少しだけウエストを詰めます。直ぐに済みますのでお待ち頂けますか?」
「わかりました」
「リーファン姫、他のドレスを見ながら待ちましょう」
リーファン姫とお店のドレスや装飾品を見ながら待つのはとても楽しかったわ。
可愛いヘッドドレスを見つけてつい買ってしまったわ。
「私リーファン姫が着ているドレス着てみたいです」
「これですか?セレスティーヌ様ならとてもお似合いになると思います」
「せっかくマダムの店に来たので、オーダーしていこうと思います。今度の夜会で着ようと思います」
「本当ですか!?それなら私も自国のドレスを着ます」
「いいですね。もしかしたらそのドレスが流行るかもしれませんね」
数日後カミーユ様がリーファン姫とオペラ鑑賞していたと噂になったわ。
前にもリーファン姫をエスコートしていたから、カミーユ様とリーファン姫の仲を推測する噂が飛び交っているわ。
カミーユ様のお相手がリーファン姫なら私は大賛成だけど、それは本人達次第よね。
私とリーファン姫がマダムフルールのお店へ行ったのを見られていた様だし、色々聞かれるだろうけど、当たり障りなく答えておこう。
そうそう、マダムから私がオーダーしたドレスも届いたわ!
「わぁ!やっぱり可愛いわぁ!」
チャイナ風ドレス!
薄紫色で花の刺繍を入れて、スリットにはレースを使って足が見えない様になっているわ。
そしてパニエでスカートをふんわりさせてるの。
これに合わせる髪型はやっぱりお団子ヘアー?
それとも羊ヘアーかしら?
今度の夜会が楽しみだわ。
そしてもう1着の赤いチャイナドレス。
これは家で着る用ね。
スリットにレースが使われていない、一般的なチャイナドレス。
足が丸見えだから家でしか着れないドレス。
せっかくだからさっそく着てみようっと!
チャイナドレスを着て、鏡に映った自分を見る。
おぉ…これは…中々…セクシー過ぎかしら…。
我ながらチャイナドレスが映える体型だわ。
そして生足はと思ってニーハイのソックスを履いたけど、返ってセクシーさが増した様な。
さて早く着替えないと、そろそろアルが来る頃だわ。
ドレスに着替えるため、メイド呼ぼうとしたら、タイミングよくメイド達が来てくれたわ。
「ちょうど良かった。着替を…「おっおっお嬢様!?」
「お嬢様!?なんてお姿を!?」
「どっどうしましょう!?」
どうしよう。
私の突拍子もない事にも動じない3人が動揺してしまっているわ。
まぁこの格好では仕方ないわよね。
「セティー!何があったのか!?」
「えっアル様!?」
嘘!
アルが来てたの!?
あっそれで私を呼びに来たのね!
アルが来たら直ぐに私の部屋に案内する様に言っていたのは私だけど!
「あっあっアルベルト殿下!?」
「どっどうしまょう!お嬢様が大変な事に!」
あっ待ってそんな言い方だとアルが誤解するわ。
「何!?セティーが大変だと!セティー!失礼する!」
「あっ待っ…て…」
時既に遅し。
アルに見られちゃった。
ドアノブを握ったまま、アルが固まっているわ。
「えっと…アル様?」
「……。っ!?」
ハッとした後勢いよくドアを閉めたわ。
顔、真っ赤だったわね。
「すっすまない。セティーの緊急事態だと思い」
「いっいいのよ。アル様が来るのをわかってたのに新しいドレスを試着した私が悪いんだし。その、アル様さえ良ければ入って」
もう見られちゃったし、今度の夜会で着るドレスも見せたいし、良いかな。
「何か、羽織ってくれないか」
「えぇわかったわ」
羽織りを着たらアルが部屋に入って来たわ。
メイド達は部屋の前で待機してもらったわ。
「その、新しいドレスだと言ってたが…」
「そうなの!今度の夜会で着ようと…「駄目だ!絶対に駄目だ!いくらセティーの願いだとしても容認出来ない!」
「あっアル、夜会で着ようとしてるドレスはあっちよ!」
物凄い勢いで反対されて驚いたけど、直ぐに今着てるドレスと勘違いしているのだとわかったわ。
アルの視線がトルソーに掛けられているドレスへ移る。
「はぁー。良かった。あちらのドレスか。本当に良かった」
アルが脱力してホッとした表情をしたわ。
「勘違いさせてごめんね。東の国のドレスなの。リーファン姫が着ていたのを見て着てみたくなったのよ。今着てるこれは出来心というか…。部屋着用かな」
「部屋着用…。」
「自分では中々似合ってると思うんだけど…」
「似合っている。似合っているから危険なのだ。今のセティーなら一国も落とせる。傾国の美姫になるだろうな」
「傾国の美姫って、そんな大袈裟なぁ」
「セティーは自分の魅力をきちんと把握していない。何度、無粋な視線が送られた事か。頼むから他国の者の前に出る時は露出を控えてほしい」
「わっわかったわ」
私がアルの婚約者だと知らない人に話しかけられる事はあったけど、誘われた事なんて一度も無いのに。
アルったら過保護ねぇ。
アルの方が秋波を送られる事が多いのに。
「はぁ。この先私の心臓は持つのだろうか。心臓はどうやったら鍛えられるのか」
アルが小声で何か言っているわ。
「そうだ。アルだって秋波を送られるのだから気をつけてね」
「私は大丈夫だ」
「もうそんな事言って。それこそ傾国の美姫が現れたらどうするの?」
「セティー以上に惹かれる人はこの世に居ないさ」
嬉しい事を言ってくれるけど、アルは真面目だからそこを付け込まれるそう。
「そう?でもこうされたら?」
私は羽織りを脱いでアルの膝の上に座りアルの首に手を回した。
「どう?こんな風に迫られたら大変でしょう?」
「あぁ全く。どうしてセティーは私の理性を壊そうとするんだ」
「アルの隣を狙う人はどんな手を使ってくるかわからないわ」
「それで?自分で慣れておけと?」
「うーん。こうされる事もあるって知ってほしいのよ。アルが思う以上に女性は手段を選ばないって」
「知っているさ。それこそ媚薬を仕込まれた事だってある」
「えっいつ!?」
そんな事があったのに、私何も知らないわ。
「成人して直ぐだ。もちろん何も無かった」
「そう。それなら良かったわ」
「所でセティー」
「何?あっもう退くわね」
「いや、いい」
そのままアルに抱きしめられて退けれなくなったわ。
「セティーは私の婚約者で来年には私と結婚をする。今何かあっても問題ない」
「えっ?」
「セティーは私とそうなっても良いと覚悟が決まったのか?」
「えっいやそれは…」
「はぁ。それなら前にも言ったが私を刺激し過ぎないでくれ」
「うぅ。ごめんなさい。考えなしだったわ」
「ふぅ…まぁ、セティーがこうするのは私だけだと知っているから良いが」
「そうよ。アルだけだもの」
「だからって、無闇にしないでくれ。刺激が強すぎる」
アルはそう言いながら羽織りで私を包んでくれた。
「そろそろ着替えるといい。部屋の外で待っているから」
「えぇそうよね」
メイド3人からたっぷりと小言を貰いながらいつものドレスに着替えたわ。
今回は私が悪かったと反省したわ。




