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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
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それぞれの回想

私とアルが会場に着くと既に国王陛下に王妃様、それにお父様とお母様まで居たわ。


「さっそく乾杯といこうか!」

席に着くと直ぐに国王陛下が乾杯の音頭を取ったわ。


「これからの明るく、歪みのない王室に乾杯!」

「「「「「乾杯」」」」」


「良かったわー。これで安心してセティーちゃんをお嫁に出せるわぁ」

「うっセティーがお嫁に…」

「お父様とお母様も皇太后陛下に良い感情が無かったのですね」

「私は幼い頃からロベルトと一緒に居たから、小言をたくさんもらったよ」

「私はアイリーンより実家の爵位が高いから、アイリーンに代わって婚約者にって煩かったわ」

「はぁそんな事があったのですね」


お父様への小言はまぁ予想通りとして、お母様を婚約者にゴリ押そうとしたのはいただけないわね。


「本当色々あったわぁ。さっそく皇太后宮取り壊しちゃうー?」

「アイリーン、流石に直ぐには無理だな。数名煩い者が居るからな。まぁ火事などで消失してしまったりしたら仕方ないがな」

「そうよねぇー。でも私あの人が住んでた宮に住むの嫌よぉー」

「わかっているさ。新たに宮を建てるか、他の宮を使おう」


1ヶ月後、皇太后宮が火事になった。

出火元は不明とされ、消化活動も遅れてしまい、宮殿は全壊したわ。

まさか…国王陛下…。

まさかね…。



国王陛下side


長年の悩みの種であった母親とついに縁が切れた。

年月を掛け、クレイゾール家の力を削ぎ、家臣には皇太后との仲は良くない事を周知させた。


幼い頃は恐ろしくて仕方なかった。

勉学の為、机に足を縛りつけられた事も、鞭で打たれた事も。

食事を満足に与えられなかった事も。

全て懐かしいと、昔の事だと思えるのは、父と彼女が居てくれたからだろう。


自分が生まれた経緯からすれば、父に愛されるなどありはしないが、自分と父を繋げてくれたのも彼女だ。


母親と侍女の目を掻い潜り、後宮の隅まで逃げてきた自分を見つけた彼女は、怪我の手当てをし、自分の宮まで連れて行き、後に訪れた父を説得してくれた。

父も父で、痩せ細り傷だらけの自分に罪悪感があったのだろう。

そこからは3人で過ごす事が多かった。


国王は私室に飾られている絵に視線を移す。

先王と幼い頃の自分、そして寵妃が描かれている。


寵妃は茶色の髪と瞳。

大きな眼鏡を掛け、優しく微笑んでいる姿が描かれている。

描かれている寵妃は絶世の美姫というわけではなく、どちらかと言うと見た目は地味な方である。


先王が彼女を見染めたのは見た目ではなく、内面だ。

先王から王子を産んでも正妃にはなれい、代わりに後宮で自由に過ごして構わないという条件に、好条件だと笑っていた。

彼女は辺境の領地出身で主な生業は農業。

趣味は土壌改良に品種改良。

彼女の希望は後宮内で庭園というより、畑で土いじりをしたいというもの。

彼女が行った品種改良で寒い地域や湿地や乾燥地域でも栽培可能となった作物は多く、彼女のおかげで戦地で食料に困るという事はなかった。


褒賞をという声が上がったが、彼女は拒否した。

「人生の中で食事をする回数は決まっているのだから、私はより美味しい物を食べたい!それを皆さんにもお裾分けしただけよ。それより、新しく植えた作物の芽が出たの!2ヶ月もすればまた美味しい野菜を食べさせてあげるわ」


地位や名声になど興味はなく、屈託なく笑う姿が印象的だった。


母親が何故あの様な者がと呟いていたが、彼女が絶世美姫で、惚れた理由が見た目であれば、あの母親も納得しただろうな。


母親は見た目こそ美しいが、中身は良く言えば合理的、悪く言えば冷徹で冷酷だ。

その冷徹さが父には受け入れがたかったのだろう。


決定的に無理だと感じたのは、戦場での作戦に出された意見だ。


落とされそうになっている砦を護る事は難しく、その奥の城は落とされない様に守りを固めたい。

しかし、砦が間も無く落ちる。

兵士の数も足りず、時間稼ぎをするだけの戦力をそこに置くのは難しい状況だった。


その時あの母親は当時のクレイゾール家当主にこお告げた。


「負傷兵を当てがいましょう。負傷していても動ける者であれば最低限戦えますし、今いる負傷兵は平民。今度の政界や戦争に影響ありません。どうせ落とされる砦ですから、そこで戦死したとしても名誉です。それに、負傷兵を移動させる手間が省ける分、城の守りを固められます」


当主は名案だとその案を実行してしまった。

結果城は守られたが、砦に残された負傷兵400名全てが戦死した。

生き残った者はおらず、遺体の損傷が激しく遺族の元へ戻す事も叶わなかった。


この非人道的な作戦に当時王太子であった父は激しく怒りを覚え、クレイゾール侯爵へ嫌悪感を抱いた。


しかし数日後、この作戦の発案者が自身の婚約者であった事を知り、父は動揺した。

自身が発案した作戦が上手くいったのだと、誇らしげに父に言ったのだ。


「兵の命をなんだと思っているんだ」という父の発言に対しても、「兵の1割の貴族は貴重ですが、他9割の兵も、また今回の作戦で使った負傷兵も平民。替えがききます」と宣った。

そう平民の命は物や道具のような発言。

父はそんな母親を生理的に受け付けなくなったのだ。


今にして思えば自分もまた父から関心を得る為の道具に過ぎなかったのだろう。


もう一度絵を見る。


『ロト』

2人から愛称で呼ばれ、楽しく幸せな時間を思い出す。


「やっと片付きましたよ。父上、アミナ様」


国王は塔に登り、皇太后宮が燃えるのを静かに見ていた。



皇太后side


王家に嫁いで早数十年。

こんな形で生まれ故郷に帰る事になるとは。


ここで過ごしたのは幼少期のみ。

その後は王都の屋敷で過ごしいていた。

そして最も長く過ごしたのは王宮。

ここを懐かしく思う気持ちも、癒されるという事はない。

むしろ知らぬ場所の様で落ち着かない。


皇太后はアルベルトの言葉やロベルトからの伝言を思い返した。


まぁ良い。

強気な事を言っても、私はこの国の皇太后。

直ぐに王宮へ戻る事になるだろう。


ロベルト。

誰のおかげで国王の座に就けたと思っているのか。

いやそもそも、誰のおかげで生を受けたと思っているのか。

あれは一度も私の言う事を聞かなかった。

婚約者も私が選んだ者は目もくれず、よりにもよってあの女を選ぶとは。

そう、よりにもよって側妃の遠縁である、あの女を。


唯一王子であり、王太子だという事に胡座を掻いているのかと思い、もう1人の側妃が子を儲けるのを許したが、産まれ出来たのは身体が弱く、王位に就くのは難しい者であった。


儘ならぬ人生だ。

結婚してしまえば、状況は変わると思っていた。


白い結婚を持ちかけられ愕然としたが、そんな事よりも、あのお方が私を少しも惜しいとは思っていない事の方が嫌だった。

他の女と婚姻するなど、納得出来なかった。

だから仕方なく契約を聞き入れた。

どうせ口約束だろうと思っていたが、正式な契約書を交わされるとはな。


契約どおり側室を作られたが、あの女達も私同様愛される事は無いと考えていた。

ジャミール伯爵の娘は美しいが精神が弱く、権力を欲している父や兄と違い、側妃としての面目が保てる程度に通ってもらえれば良いという欲のない者だった。

そして、もう1人の娘は特段美しいという事は無く、作法も優れず私に勝るものなど無かった。


それだというのに、彼の方はあの女を愛した。

これまでの私への行為は義務でしかなかったと言う様に、目に見えてあの女を愛した。

嫁いでからというもの、私は王妃として存在するのみ。

嫁いで以降役職で呼ばれるのみで一度も名前を呼んでくださる事も無かった。

公務こそ一緒だが、それ以外は私に会いに来る事も無かった。

何より私には頂け無かった、ブルーグレーの品をあの女に渡しているのが何よりも気に入らなかった。


子さえ出来れば現状が変わると思い、私はプライドを捨て決行した。

あの女の、平凡な茶髪のカツラを被り、あの女に振りをした。


その苦労が実り私は子を身ごもり、王子を出産した。

彼の方は出産後1度だけ私に会いにきた。

これで私も見てもらえると思っていたが、その期待は崩れ去った。


『貴方は契約不履行をした。王妃として最低限の敬いもするつもりはない』


それ以降、彼の方から贈り物を頂く事も、会話を交わす事も無かった。


だが王子が育ち、他に王子が産まれなれば母親である私を損なう事は無いだろうと考えていた。

その為に王子を厳しく育てた。


結果、自身の子から恨まれる事になったが、王子を厳しく育てるなど、至極当然の事だ。

そう当然の事をしただけだ。

私は高位貴族に生まれ、義務を果たし当然の事をしてきただけだ。


月日が経ち、私は彼の方から忘れられた存在となった。

名前すら忘れられていた。


麗しい御尊顔に似つかわしくない武勇。

そしてその誠実さ。

一度でも彼の方を見た者で惚れぬ者など居ないだろう。


多くの令嬢が彼の方に焦がれた。

私もその内の1人だ。

一つの席を奪い合うような競走はない。

より高位の者が彼の方の隣に並ぶだけ。


私よりも高位の令嬢は流行病で亡くなり、その席は私の前に舞い降りた。

これは必然なのだと思った。

私こそが選ばれたのだと。


彼の方に見てほしい。

意識して欲しい。

忘れられたくはない。


長年の愛情はいつかしか憎しみへと変わり、私は側妃に達を害する策略をした。


今振り返っても、後悔も懺悔する気持ちもない。

最後に彼の方の目にはハッキリと私が映り、名前を呼ぼれたのだから。

例えそれが恨み事でも。



数日後。

皇太后の元へ皇太后宮が焼失したとの一報が入った。


皇太后はその知らせを受け、気力が抜け、その場に座り込んだ。


皇太后宮には、唯一大事にしていた絵があった。

2人の結婚式の絵が。

2人の肖像画は、単独の絵しかないため、それが唯一、一緒に描かれた絵だ。

皇太后が生涯で1番幸せだと感じていた時の絵だ。

それが燃えたのだ。

皇太后宮には他にも婚約者であった頃に先王から贈られた物があった。

それらも全て燃えた。


皇太后は本当に心を痛める事となった。


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