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悪役令嬢だけど両思いになりたい  作者: 月乃
第3章
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皇太后

久しぶりにアルと2人きりで食事をしているわ。


「皇太后陛下が明日、クレイゾール家の領地へと移送される」

「そう、突然なのね。私はお見送りには行かない方が良いかしら?」

「行きたいのなら構わないが。私は顔を出すが、父上は来ない。母上は…来るかもしれないな。表向きには今回のクレイゾール家の解雇騒動に心を痛めた事になっている」


翌日、皇太后陛下を見送る為に登城したわ。

皇太后陛下は正門ではなく、東門からひっそりと出発される。

連れて行く従者もなく、皇太后陛下の出立にしてはとても寂しいものになったわ。


「フフ。生きすぎたババァがやっと消えてくれるわぁ。王妃、皇太后という地位についても、最後の最後に追い払われるなんて、ざまぁね」


王妃様!?

馬車に乗り込む皇太后陛下にとんでもない爆弾発言を!!


「母上…。はぁ。皇太后陛下、王宮より遠く離れた土地で余生を過ごし、そこでお眠り下さい」


えっ!?

アルも酷い事言ってる!?


「父上からの伝言です『ずっと貴方が嫌いだった。何故自分はあの人から生まれる事が出来なかったのだと思いながら幼少期を過ごした。先王の遺言に則り、死後は父と共に眠せはしない。自分の行いを悔い改めながら余生を過ごせ』とのことです」


皇太后陛下、相当嫌われているのね。


2人、いや国王陛下を含め3人から辛辣な言葉を投げかれた皇太后陛下は只々黙ってそれを聞いていたわ。


「あの、どうかお体にはお気をつけて下さい。数十年振りの御実家の領地です。…羽を伸ばすようにお過ごし下さい」


皇太后陛下からの返事は無かったわ。


黙って馬車に乗り出発されたわ。

表向きには今回のクレイゾール家の解雇騒動に心を痛めた事になったというけど、本当に心を痛められたのかしら…。


「はぁ。やっと居なくなったわぁー!さぁ皆んなで乾杯よぉー!」

「父上が今日は公務も切り上げて皆で会食をと言っているんだ、セティも嫌でなければ参加してほしい」

「もちろん参加させてもらうわ。ねぇアル、後で聞きたい事があるの」

「では父上の公務が終わるまで私の部屋で過ごそう。母上、また後で」

「はぁーい。あと2時間もあれば終わると思うわぁ」


王妃様と別れアルの部屋に来たわ。


「さて聞きたい事は皇太后の事だろう。母上はともかく、どうしてここまで、先王や父上から嫌われているのか聞きたいのだろう?」

「当たりよ!なんでわかったの?」

「ここまで露骨に嫌っていたら誰だって不思議に思うさ。さて何処から話そうか。父上から聞いた話しになるが…」


アルは昔話を聞かせてくれたわ。

皇太后陛下が妃になったのは身分が釣り合う令嬢が他に居なかったから。

戦争もや流行り病で多くの人が亡くなってしまったの。


先王は皇太后陛下と何度も顔を合わせ、一緒に食事をするなどをしても、どうしても好きになれなかったそうなの。


先王から婚約当初から白い結婚ですぐに側室を迎え入れる。

その代わり何があっても正妃、そして後の皇太后の地位を約束し、それ相応の富も用意すると提示されたの。


受け入れられない場合は婚約を解消し、そちらが新たな婚約者を見つけられる様、助力すると。

自分は他の身分が釣り合わない令嬢を婚約者にしても、周囲の方々を納得させると言われ、皇太后陛下は白い結婚を受け入れたの。


そして本当に側室を迎え入れられたわ。

先王は王弟殿下のお母様の所へは、定期的に通い、それ以外は寵妃と過ごしていたそうよ。


側室のどちらか、いえ寵妃が先におそらく身篭られるだろうと皆が思っていた矢先、皇太后陛下は懐妊したわ。

もちろん先王の子であり、今の国王陛下よ。

疑問なのは、渡りも無いのに、どうやって先王の子を懐妊出来たかという事。

それは宴会の後、酔った先王がいつも通り、寵妃の元へ渡ろうとした時。

皇太后陛下は寵妃を脅し、寵妃の部屋から寵妃を追い出し、寵妃の部屋で先王を待ったの。

寵妃と同じ髪色のカツラを被って。


酔った先王にさらにお酒を飲ませ、その際に媚薬も盛ったそうよ。

そうやって先王と一晩を共にし、見事懐妊する事が出来たの。

朝になって隣に居るのが寵妃ではなく、皇太后陛下だと知った先王は激昂し、皇太后陛下を一定期間幽閉したわ。

だけど、幽閉期間中に懐妊が発覚。

幽閉中とあって、他に接触者もおらず、先王の子であるとされたの。

実際生まれてきた子は王家特有の目の色をしていて、先王の子であるのは間違いなかった。


皇太后陛下はその後も寵妃に嫌がせをしたわ。

妊娠中は避けた方が良い効能がある茶や香を送り続けたの。

後に発覚しても、その様な効果があったとは知らぬ存ぜぬを通した。

そんな事がなん度も繰り返され、寵妃は無事に子を産む事が叶わなかったわ。

それでも先王の愛は寵妃へと向いていたわ。

そして自身の子もまた、自分ではなく寵妃を愛し、母親の様に慕っていたの。


皇太后陛下は子供であった国王陛下に厳し過ぎる教育を施し、毎日叱咤を繰り返したわ。

その傷ついた少年の心を癒してくれたのが寵妃。

皇太后陛下の目を掻い潜って会いにきてくれていたそうよ。

寵妃は先王に願い出て、皇太后の元から離し、先王と同じ宮殿で暮らせる様にしてくれたの。

そこから3人で本当の親子の様に過ごせる時間があったから、今のハツラツとした国王陛下が居るの。


皇太后陛下は激怒したわ。

自分が産んだ王子を取り上げられて怒るのは当たり前だけど、寵妃が自分の立場を奪うつもりだと風潮したの。

先王は王妃、そして後の皇太后の地位は揺るぎ無いとしていたけど、自分への愛情が無い事や形だけの立場が許せなかったのね。

本来なら政略結婚の白い結婚。

国で2番目の地位と財が与えられると婚姻前から提示されていたけど、納得していなかったのね。


「こう聞いていると、皇太后陛下は先王に片思いをしていたのね。結婚すれば変わると思っていたのかしら」

「どうだろうな。もし、そうだったとしたら皇太后も虚しいな。先王は皇太の事を生理的に受け入れられなかったようだから」

「生理的に…。それは振り向いてもらうのは難しいわね。でも先王は皇太后陛下の事を蔑ろにはしなかったから、ずっと期待していたのかしら」


先王は皇太后陛下の事をきちんと婚約者として扱ったし、定期的に会っていたし、エスコートや贈り物もしていたの。

婚姻後も夫婦としての関係はないけど、王妃としては蔑ろにされてないわ。

一度だって他の側妃を代わりに連れて公の場に出た事がないわ。


「先王は王としては真面目な方だった。皇太后に対して中途半端に誠実でいたのが仇になったのか」

「皇太后陛下の気持ちを先王が知っていたのかにもよると思うわ。知っていたなら、遠ざけるなり、関係を断ち切るなり、何かしら対策をしないと」

「そうだな。父上が成長したあたりで皇太后とは離縁すべきだった。そうであったら、今も先王は健全だっただろうに」


先王と寵妃は確か病死だったはず…。


「皇太后は寵妃の侍女に疫病に罹った者を送り込み、寵妃を病死させたんだ」


私は息を呑んだわ。

皇太后陛下はそこまでして、寵妃を消したかったのね。


「正確には側妃達にか。叔父上の母君にも送り込んでいたが、叔父上が産まれたばかりで、新参者には警戒していたおかげで難を逃れた。皇太后陛下は今までと同じく知らぬ存ぜぬであったがな」

「そう。それにしても寵妃の病死が疫病だったなんて…。もしかして、先王も…」

「あぁそうだ。寵妃の側で寄り添いたいと言ってな。しばらくして先王も罹患されたんだ。幸い2人とも発症しても数年は普段通りに生活が出来たが、少しずつ弱っていき、先に寵妃が亡くなり、後を追う様に先王も亡くなった」


確か国王陛下が王位に就いたのは20歳。

先王が亡くなる前に王位を譲られているわ。

成人からわずか数年で王位に就いた若き国王。

終戦からわずか数年。

そして、さらにその数年後には父を亡くした…。

国王陛下はとても…苦労したでしょうね。


「先王が亡くなる際に側に呼んだ者の中に皇太后陛下は居なかった。遺言はその時に託されたのだ。先王は皇太后に対して憎しみを抱いていた。父上も幼い頃の憎しみに加え、母上を害された恨みがあるんだ。叔父上の母君が母上を害したのは、皇太后陛下に唆されたからだ。王位を継ぐ王太子が産まれれば立場が曖昧な王弟など、始末されるとな」

「そんなっ…」

「私は母上を苦しめる皇太后陛下の事が嫌いだった。側室を承諾しておきながら、側妃達を害した性根の悪さも。何もしなければ先王や父上達からこの様に恨まれる事は無かっただろうに」

「ねぇアル。私が思うに、皇太后陛下は、先王に気持ちを向けてほしかったのだと思うの。たとえそれが憎しみの感情でも」

「憎しみでも良いなどと思うものなのだろうか」

「先王から皇太后陛下の気持を向けられる事は無く、正妃としてでしか自分は見てもらえない。先王が自分を思ってくれる事はないのよ。この先もずっと。きっと先王の思い出にも残らない。たとえ憎しみの感情でも自分に気持ちを向けてもらえるだけ良かったのよ」

「…。愛とは怖いものだな…」

「愛情と執着でしょうね…。皇太后陛下は先王と同じお墓に入れないの?」

「表向きには同じ墓に眠っている事になるが、別の場所に墓を建てる事になるだろうな。それが先王の遺言だからな」

「そうなの…。でも生まれ故郷なら安らかに眠れるかしら。なんて亡くなってもいないのに、そんな心配は失礼よね」

「そんな事はないさ。だがこれで、セティーに憂いなく私の元に嫁いでもらえるな」

「もう…アルったら」


間も無くして国王陛下の仕事が終わったと知らせが来て、アルと会食へ向かった。

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