嫁姑
「こんな時にお茶会とは、呑気なものだ」
皇太后陛下、開口1番にそれですか。
あぁせっかく楽しくお茶会していたのに。
「こんな時と言われましても、私達の自由ですよ。皇太后陛下はお茶会どころではないご心情でしょうから、御招待はしなかったのですが、気遣いは不要でしたか」
「相変わらず口の減らない者だな」
「あらここは王妃宮。ここの主人である私が招いた覚えないのない方をお相手するのは当然では?」
王妃様と皇太后陛下の間にバチバチと火花が飛ぶわ。
「まぁ良い。用があるのはお前ではない。セレスティーヌ•マルヴィン」
「私になんの御用でしょうか。皇太后陛下」
やっぱり目的は私よね。
「場所を移そう。2人で話がしたい」
「お断りいたしますわ。お話しでしたら、ここでお話し下さい」
私はニコッと笑いながらお断りしたわ。
皇太后陛下から負のオーラが漂ってくるわ。
皇太后陛下とは対立する覚悟を決めたし、昨日お父様にも報告して、マルヴィン家としても皇太后陛下の意向に従わないと決まったのよ。
「誰にその様な発言をしているのか、わかっているのか」
「話でしたらここでも出来ますわ。王妃様はお優しいので、御招待されていない方にもお席をご用意して下さいますよ」
「えぇもちろんよ。お茶と席の用意を」
王妃様は手を挙げて侍女達に合図をしたわ。
「お茶菓子はそうねぇ。歯に優しいゼリーが良いわ。クッキーはお辛いでしょうから」
王妃様は皇太后陛下の前にゼリーを運ばせたわ。
それも皇太后陛下がお嫌いな果物のゼリーを。
クッキーは辛いとは、年寄りに固い物は無理でしょうという嫌味だし。
あぁこれが嫁姑のバトルなのね。
「あらぁ申し訳ありません。こちらのゼリーしか用意しておりませんの。予定にない方の好みの茶菓子までは用意してませんので。せめて事前に知らせてくだされば違ったかもしれませんが」
クスクス笑いながら皇太后陛下を挑発する王妃様はとても楽しそうだわ。
「昨日の今日で私の来訪を予測出来ぬとは、王妃としての質に欠けるな」
「王妃としての質ですかぁ。公務は支障なくこなしているはずですがぁ…。夫に愛された事のない方って他者を妬んでばかりで不憫ですねぇ」
皇太后陛下が王妃になって直ぐに側室が迎え入れられたのよね。
皇太后陛下は完全に政略結婚だったし、先代の国王陛下との仲が冷え切っていたはず。
「王妃様、それを言うなら我が子にも愛されないですわ」
「そうだったわね」
先代の側室は2人。
1人は王弟殿下の母君。
もう1人は先代の寵妃と言われていた方。
この寵妃の事は今の国王陛下も慕っていたと聞いているわ。
実の母親ではなく、先代の側室を慕うなんて何か理由があるに決まっているわ。
「本当に口の減らぬ者だ。そんな事より、セレスティーヌ•マルヴィン」
皇太后陛下がギロリとこちらを向いたわ。
「先日の官僚試験不正の件でしたら、どんな条件を頂いても、手打ちにするつもりはありません。これはマルヴィン家としての、そして次期王太子妃としての答えでございます」
「無闇に王宮内を混乱させる必要ない」
「混乱なら既に起きておりますわ。それ相応の能力の無い者が王宮に入り込んでいるのですから」
私の言葉に場は一段と冷え込んだわ。
皇太后陛下の侍女は私を睨む方、困惑している方様々ね。
「そもそも皇太后陛下やクレイゾール家がこちらが納得する条件を出せるとは思えませんわ。こんな事なら無理にケイミーを私の女官に押さなければ良かったですのに」
クレイゾール侯爵家
皇太后陛下やケイミー様の生家。
現在4つの侯爵家の中で唯一の貴族派。
そして最近では、落ち目の家。
こちらが手を引く程の条件を提示出来るとは思えないわ。
皇太后陛下が隠居されるまであと数年。
下手したら数年を待たずに隠居されるかもしれないわ。
「クレイゾールを敵に回すというのか」
「皇太后陛下。家の力はこちらの方が上ですわ。何より、皇太后陛下のお力が振るわれるのはこの後宮のみ。その後宮ですら国王陛下の一声で白が黒へと変わる世界。恐れる事はありません」
学園もある事だし、落ち着くまでこの後宮に来なければ良い話よ。
何より王妃様や国王陛下はこちらの味方。
特に国王陛下は母親への愛情がない上に、一刻も早い隠居を望んでいるのよ。
「南の鉱山でどうだ」
「あの鉱山にそのような価値はないかと。港の権利ぐらいは頂かねば割に合いません」
あの鉱山はもう鉱石が取れなくなってきてるわ。
港の独占権なら利益になるけど。
でも港の権利はクレイゾール家にとって1番の収入源。
手放すわけにはいかないはず。
「強欲は身を滅ぼす。あまり多くは望まない方が良いぞ」
「嫌ですわ。取引に見合った物を提示しただけですわ。それに、あの港はそこまで価値の高いくはないという認識でしたのに」
マルヴィン家も港の権利を持っているし。
クレイゾール家が権利を握っている港は小さいし、どうしても手に入れたいという程ではないわ。
皇太后陛下はこれ以上の物を用意できそうにないわね。
まぁ何を出されても私は許す気がないわ。
エメリアがずっと図書館に篭って勉強しているの。
エメリアなら筆記試験は問題ないのに。
身分は男爵令嬢だけど、産まれは平民だから周りに何も言わせない為、最高得点を目指すと励んでいるの。
それだけじゃないわ。
社交も頑張っているの。
私やマリアの力を借りずに1人でお茶会に出向いているの。
エメリアが努力して苦労して得ようとしている官僚という役職。
それを大した努力もなく、不正で手に入れていたなんて、許せるはずがないわ。
「お話は以上でしょうか。くだんの件は数日以内にも王宮内に伝わるでしょう」
既に国王陛下や宰相であるお父様も知っているわ。
数日以内と言ったけど、明日にもクレイゾール侯爵家へ登城命令が届き、騎士団によって連行される予定なのよ。
「皇太后陛下。そろそろ茶会もお開きしますわ。お気を付けてお帰りください」
皇太后陛下はとても不機嫌そうに帰っていったわ。
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翌日
クレイゾール侯爵が騎士達によって王城へ連行されてきたわ。
ケイミー様とそのお兄様も一緒に。
「クレイゾール。お前達は官僚試験に不正を行った。子息、令嬢は長きに渡って不正に給金を得ていた罪。そして能力を欺き、自身の親族を王宮に入り込せていた事、反逆罪にも問える」
「反逆など滅相もありません。我が家の発展を願っての事。不正も私はめが先導したわけでは…」
「其方達は解任とする。またこちらが呼ぶまで登城を禁じる」
「陛下!クレイゾール家はご自身の母君の生家ですぞ!」
「我はもう国王。周りに信頼のおける臣下や友が居る。其方達の力など必要としていない。たとえ民の心が我から離れたとしても、王太子に任を譲るだけだ」
クレイゾール侯爵が大臣から退任。
子息達も解雇。
つまり、当代のクレイゾール家の人間は政治に関われないわ。
国王陛下がまだ幼い王太子であった時は母親の実家の力が必要だっただろうけど、今は必要ない。
ましてその母親を疎んでいるのだから、遠ざける良い理由だったわね。
隣に居るアルが私に耳打ちをするわ。
「ここだけの話しだが、皇太后陛下は来月に体調を崩し、療養のため王都を離れる予定なんだ」
クレイゾール侯爵家の邪魔が無くなったから、国王陛下が皇太后陛下を程よく追い出す事が出来るのね。
長きに渡る王妃様と皇太后陛下の嫁姑問題が決着が着くのね。




