自分の希望通りに
王宮での仕事が終わったわ。
仕事と言っても、王妃様主催のお茶会に参加しただけだけどね。
はぁー。
それでもバチバチの社交を目の前にして、疲れたわ。
皇太后陛下の姪御様と王妃様がバチバチしてたの。
皇太后陛下の生家は4大侯爵家の一角。
姪御様はその侯爵家出身の現伯爵夫人。
以前までは、社交界での地位も高かったのよ。
そう以前まではね。
エルランジェ•ファビウス・アルベールの4大侯爵家のうち3家がこちら側の派閥。
お母様以外にマリアとマリーのお母様も王妃様の味方だから、形勢的にこちら側が有利なのよ。
王妃様が姪御様を「骨董品のようね」なんて古臭いとなじっていたわ。
「4つの星が3つにならぬよう、祈ってはいかがかしら」
なんて嫌味を言っていたお母様は、この状況を楽しんでいるようだったわ。
さてアルに挨拶をして帰ろう。
アルの所へ向かう途中、前から来た人物に対して通路の端へ移動し頭を下げる。
皇太后陛下が前から来たのよ。
王妃様の所へ苦言を言いにお出になられていると、聞いていたけど、こちらの宮殿に来られるのは珍しいわ。
「頭を上げなさい」
「ご機嫌麗しゅうございます。皇太后陛下」
「本日は妃の茶会に来ていたはず。こちらへは何用で参った」
「アルベルト王太子様に一言ご挨拶をと思いまして」
私の回答に皇太后陛下は溜息をついて冷たく答えたわ。
「あの子は忙しい。そのような無駄な事は不要」
今日の茶会で姪御様が王妃様にコケにされたのも、お母様が皇太后陛下の生家が没落しない様に祈りなさいなんて皮肉を言ったのもお聞きになったわよね。
元々好かれて無いだろうなって思ったけど、完全に敵に認定されたかな。
「作用でございますか。アルベルト王太子様より顔を出すよう仰せつかっておりましたので。今後についてはアルベルト王太子様と話して決めさせて頂きます」
「この件は私からあの子へ伝えておくゆえ、其方は帰ってけっこう」
あー。
やっぱり一筋なわではいかないわね。
一旦引いて出直そうかしら。
「セティーではないか。おっとこれは皇太后陛下、大いなる月の君にご挨拶申し上げる」
「苦しゅうない」
「!?シャルエラント王子」
「アルベルト王子の所へ行く途中だろう?俺もこれから行く所だ。一緒に行くとしよう」
シャル様が来て私と皇太后陛下の間に割って入ってくれた。
「シャルエラント王子。セレスティーヌ嬢は茶会より帰る所。お一人でお行きくだされ」
「そうでしたか。セティー、以前話をした地熱について意見がほしい。共に来て知恵を貸して欲しい」
「畏まりました。私を頼って頂き、ありがとうございます」
「皇太后陛下、貴方様が言った通り、こちらの王太子殿は多忙。約束の時間に遅れるわけにはいかぬゆえ、これにて失礼させて頂きます。さぁセティー、行こう」
私は皇后陛下に礼をして、シャル様の手を取った。
「はぁ助かったわ。ありがとうシャル様」
「借りてる部屋に居るのが暇でな。宮殿内を散歩していたのだが、良いタイミングで会えたな。本当にこのままアルの所へ行こう」
「えぇ」
アル様の部屋に来たわ。
「アル、俺だ。入るぞ」
「シャルか。どうし…セティーも一緒だったのか」
「そこの廊下でシャル様と会ったから一緒に来たの」
「皇太后に捕まっている所に出会してな」
「なっ!?セティー!大丈夫だったのか!?」
「大丈夫よ。心配しないで」
私は今日のお茶会での出来事と皇太后陛下と交わしたやり取りをアルに話したわ。
「はぁ。母上がいよいよ表立って皇太后陛下側を攻撃し始めたか」
「王妃様だって頻回に苦言を言われていたから、我慢の限界だったのよ。皇太后陛下の生家の力が弱まっているから、今が反撃のチャンスでもあるし」
「そうだな。元々父上から距離を置かれている上に、政界の力関係のバランスが崩れ、権力が弱まっている」
「私の立ち位置は王妃様の味方よ。余計な衝突は避けるけど、皇太后陛下の言う通りにするつもりはないわ。これからもアル様の所に顔を出しに来るわ」
「あぁ。何よりそれは私が望んだ事だからな」
うん。
これからも王宮に来たらアルの顔を見に来よう。
「しかし、皇太后とはやはり面倒な者だな」
「シャル様の所は解決しているのよね」
「あぁ。現王妃だが俺が国へ戻ったのちに病を患い長い闘病生活となる予定だ」
「そうなの。でもそれならマリアが安全ね」
何か企て無いように監視も付けているだろうしね。
「あぁ。マリアの為ならなんだってするし、俺は鬼にでも、悪魔にでもなれるからな」
「ふふ。それなら安心してマリアをお嫁に行かせられるわ」
「ああ。安心して俺の元へ送り出してくれ。ああそうだ。花嫁といえば、リュカの所で写真撮影をするのだろ?楽しみだな」
「あっそれは…」
写真撮影の話を振られて少し気まずいわ。
アルの前で諦めるとは言いたくないの。
返事に困っているとシャル様がアルを肘で突いていたわ。
「セティーも撮るのか。とても美しいだろうな」
アルにも撮る前提の話をされて少し驚いたけど、否定しないと。
「あっ。えっと私は辞めとこうかなって思って…」
皇太后陛下や私を良く思ってない人に攻撃される理由を作るのは良くないし。
「何故だ?絶対に綺麗な写真になるはずだ。結婚式での写真撮影だって喜んでいただろう?」
「えっとそれは正式な結婚式だし。結婚式前にウエディングドレスを着て撮影なんて、多方面から色々と言われちゃうわ」
私の返答にアルとシャル様は顔を見合わせる。
「そんな事、気にしなくて大丈夫だ。婚姻前の令嬢が写真撮影をするだけだ。誰も何も言わないさ。もし誰かが何か言っても私が止める」
「でも…。ウエディングドレスはアル様に1番に見てほしいわ」
リーゼ義姉様みたいに先に挙式をするなら良いけど、それは出来ないし。
アルより先に他の人にウエディングドレス姿を見せるのって違う気がするわ。
でもアルが撮影に来たら、他の方にバレると思うの。
「大丈夫だ。なんとかする。私もセティーの写真を楽しみしているんだ」
「なんとかって…。負担になるわ」
「なんて事ないさ。私だって自分が動きやすいように周りを固めているんだ。なぁシャルだってそう思うだろ?」
アルに話を振られたシャル様はニッコリと笑って頷いたわ。
「あぁ。大丈夫だろ。セティーは気にしすぎる所があるな。その程度の事、なんて事ないさ」
その後もアルとシャル様から大丈夫だと念押しされ、私は写真撮影をする決心をしたわ。
「ありがとう。私、嬉しいわ。でも負担になるようだったらすぐに取りやめるから隠さずに言ってね」
「あぁもちろんだ。楽しみだな」
私はマダムフルールにドレスを注文したわ。
もちろん前に見て気に入ったビスチェタイプのドレス。
この際、せっかくだからウエディングネイルもしちゃおう。
ベールやドレスをなびかせてる写真も撮ってみたいわ。
会場にキャンドルを散りばめて灯したら幻想的かも。
カラードレスもウエディング用に仕立てて着たいわ。
自分の好きな出来る。
そう思ったら色々とやりたい事が浮かんで来たわ。
リュカに相談してみよう。
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「ベールをなびかせるのは良い演出ですね。青空や海での撮影でも映えそうですね。そのアイディア、他のお客様の撮影でも使わせて下さい」
「賛成してもらえて嬉しいわ。もちろん良いわよ」
リュカにやりたい事を説明すると全部賛成してもらえたわ。
「カラードレスはドレスのトレーンを足すだけで良いと思うの。こんな風に巻きスカートにすれば移動も楽だし」
「このアイディアも良いですね!」
「リュカとリュカの所のデザイナーにこのアイディアあげるわ。良かったら他のドレスにも使ってみて」
「本当にセティー様のアイディアは素晴らしいですね。これら絶対に流行りますよ。平民の結婚式でもこの巻きスカートは重宝しますね。安価でドレスが着れます」
裕福な方を除いて平民はドレスではなく、白のワンピースを着る事が多いわ。
この巻きスカートを付ければドレスみたくなるわ。
「それなら袖や首元も後付け出来たら良いんじゃない?この国の全ての女性が、結婚式でドレスを着れるようになったら嬉しいわ」
「それは良いですね。ベースのワンピースにオプションという事にすれば自分達の予算で好きなドレスが着れます。有福な家庭の女性達には絶対に興味を持ってもらえます」
リュカが本格的にブライダル事業するなら協力しないとね。
「後は場所ですね。何処かご希望の場所はありますか?」
「特には無いのだけど、アル様が気軽に来れる場所が良いのだけど」
私はリュカに事情を説明したわ。
「なるほど。それなら学園内ではどうでしょうか。学園であればアル様には表立って護衛の方は付いてません。礼拝堂や温室を借りて撮影は可能です。それと、カモフラージュとして、他の生徒達も撮影を行い、アル様はその視察に来るという形をとっては如何でしょう?他の生徒達は前日とセティー様の前に撮影し、その後はセティー様の撮影で貸し切ってしまえば他の方は居ません」
リュカの提案に心がパァッと晴れたわ。
「良いアイディアだわ!それなら学園内での催し物を見学に来たと言い訳もたつもの」
「アル様にも承諾して頂けたら、僕の方で場所の手配や他の生徒達への撮影依頼をしておきます」
「そんな、何から何まで申し訳ないわ。せめて場所の手配は私がするわ」
「いいえ。僕が行った方が、店の宣伝の為にセティー様に依頼したのだという話にも出来ます」
「それは、そうね」
「それに、カラードレスの写真なら世に出せますよね。是非飾らせて下さい」
「ふふ。商売が上手ね」
「お褒め頂き光栄です」
リュカのおかげで心置きなく撮影を楽しめそう。
模範生の仕事の引き継ぎが明日あるから、その時アルに話しましょう。




