結婚披露宴
オーケストラによる演奏が流れ、招待客は料理やお酒を楽しんでいるわ。
さてとお仕事、お仕事。
招待客に挨拶しないと。
「本日はマルヴィン家とミッドランド家の結婚披露宴にお越し下さり、ありがとうございます」
「本日はおめでとうございます」
「結婚式、お2人とも綺麗でしたわ」
「エリザベート様のドレスも髪型も素敵でしたわ。あのドレスが着こなせるのはエリザベート様だけですわね」
「ジェラルド様のタキシード姿も美しく。正に美男美女ですわ」
「それにあの花びらの演出!素敵でしたわ!自分の結婚式でも行いたかったですわ」
「本当に素敵でしたわね」
皆んな2人の結婚式を思い出してうっとりしているわ。
皆んなドレスや髪型、それに演出を褒め、これから結婚の予定がある令嬢達は真似したいと話しているわ。
「はぁ…本当にジェラルド様がご結婚されましたのね。とうとう他の方の夫に…」
一部の女性は、まだお兄様の結婚を受け入れられていないのか、気を落としているわ。
リーゼ義姉様に思いを馳せていた男性も居るし、本当罪な2人だわ。
「現実を受け入れて、自分の婚約者や夫と向き合うしかありませんわ。夢の人は夢の中で楽しむのが、長く夫婦生活を送る秘訣ですわよ」
「そう…ですよね。私にとってジェラルド様は夢の方でした」
婦人が女性達を諭してくれたわ。
「申し訳ありませんわセレスティーヌ様。なにせ高嶺の花同士のご結婚ですので、意気消沈する方も多いのです」
「婚約発表の時も同じような反応がありましたので心得てますよ」
「それは良かったですわ。失意のあまり良からぬ事を口にしてしまう方も居るかもしれませんが、流してくだいませ」
婦人の言う通り、いちいち相手にしてられないもの。流さないとね。
「セティー。ここに居たのか」
「アル様。本日はお越し頂きありがとうございます」
人前だから言葉には気をつけないとね。
「パーティーでも何か催し物があるんだろ?ジルが張り切っていたからな」
「えぇ!楽しみにしてて下さい」
お兄様とリーゼ義姉様が大広間の階段を2人でゆっくりと降りて来たわ。
2人はお揃いのデザインの衣装を着て、装飾にはお互いの髪と瞳の色を使っている。
リーゼ義姉様は髪を巻いて、編み込みのハーフアップにしているわ。
髪には真珠のが散りばめられ、髪にキラキラと光るラメもついて、動く度に軽く揺れて光っているわ。
「本日は私共の結婚パーティーにお越し頂き誠にありがとうございます。夫婦となった私共を祝福してくだされば幸いです」
お兄様が挨拶をして、2人はダンスを踊るわ。
この後私はアルとダンスを踊って、その後はマティアス様と踊ったわ。
それ以降は申し込んで下さった方と踊る。
貴族派の方々と踊るのは初めてだから少し緊張するわ。
「両家が共同事業を起こす話などは出ておられないのですか?」
「共同で事業を行う可能性はありますが、それは当主や次期当主達が決める事ですから」
「そうですか。もしその機会があれば、是非私目に役割を頂ければと思います」
「兄に話しておきます」
貴族派の方々は本当に仕事を欲しているのね。
色々な事件のせいで経済的に厳しい家があると聞いたわ。
オリヴィアさんのように、結婚して相手の方と事業を頑張っている人も居るけど、アルベール家からの仕事も無くなり、ミッドランド家は沈黙を貫いているもの。
勢力図は明らかにこちらの派閥が有利。
議会でも貴族派の勢いは無くなったと聞いてるし。
お兄様とリーゼ義姉様の結婚で両家が結びついて新たに事業が起きれば仕事にありつけるものね。
自分で何かするよりリスクが少ない上に、ミッドランド家も関わっている事業なら他の貴族派の家に面目が立つし。
「セレスティーヌ様。私とも一曲お願い致します」
「ありがとうございます。カミーユ様」
カミーユ様からダンスを申し込まれるとは思わなかったわ。
「カミーユ様、レニーさんの件で私に罪悪感は抱かないでください」
「しかし、元々は義妹であるクリスのせい。それに、一時とはいえ心を通わせた女性が起こした事を悔やまずにはいられません」
「双方相応の罰を受けました。クリスティーヌ様も改善しているとはいえ、どうなるかわかりません。それに最悪を免れたとしても、私が王太子妃、王妃となった際、辛い思いをするのはクリスティーヌ様ですから」
クリスティーヌ様をお茶会に招待する機会は少ないだろうし、パーティーで賛辞を上げることもないから。
高位貴族なのに、妃から袖にされる存在になって社交界での立ち位置は低くなるわ。
「それも含めて罰ですから。それさえ失う可能性だってまだあります」
「当人達が反省してくださればよろしいのです。ですから、カミーユ様はこれからの自身の幸せを願ったください」
「ありがとうございます」
ダンスが終わり最後に礼をして別れてるわ。
礼から頭を上げたカミーユ様の顔はどこか吹っ切れた顔をしていたわ。
さてと。
流石に6曲も踊ったら疲れたわ。
そろそろお兄様の所へ行きましょう。
お兄様を探すと、従兄弟のお兄様達に揉みくちゃにされていたわ。
いくら結婚どころか婚約者も作らず、親族からせっつかれたいたお兄様の結婚式とはいえ、タキシードが皺になっちゃうわ!
「ガルド兄様、それに他のお兄様方もお兄様をお放しください」
「「「セティー!」」」
従兄弟達は一斉に私に振り返ったわ。
「セティー今日も可愛いな」
「ドレス凄く似合ってる!」
「後で俺と踊ろう!」
従兄弟達はいつも通り私を褒めてくれる。
「いやーついにジルが結婚かぁ!俺の結婚より遅いと思っていたのにな!」
ガルド兄様の婚約者は私より1つ年下だわ。
学園でも何度か見かけたわね。
彼女が卒業する再来年に結婚する予定なのよ。
「しかもあんな美人を落とすとはなー。流石だな」
「美男美女で結婚だなんて羨ましいよ」
「しかも恋愛結婚とはなー。ほんと心底羨ましい!」
「ありがとう。今の私は世界一幸せ者だよ」
お兄様が満面の笑みで答え、従兄弟達は一瞬固まってから驚いた表情をして口を開いたわ。
「「「ジルが惚気てる!?」」」
「愛する人と結婚出来きて、少し浮かれてしまったかな」
「ジルがこんな風になるなんて」
「皆んなだって婚約者が居るだろう。結婚したら今の私と同じになるさ」
「「「いやぁー俺達はならねぇな」」」
従兄弟達は口を揃えて笑って答えたわ。
「ガルド兄様達、それくらいにして下さい。今日は婚約者と来られたのですから」
婚約者の耳に入ったら大変よ。
ガルド兄様の婚約者は産まれた時から決まっていた方で恋愛で決まったのとは違う。
だけど長年の連れ添った婚約者にこんな事言われたら怒りが込み上げるわ。
先程からお兄様方の婚約達が居る方から、視線が送られているわ。
「それもそうだな。バレたら後が面倒だからな」
「お兄様方、まずは婚約者とダンスを踊ってきて下さい」
「あぁそうするよ」
お兄様達がダンスを踊りに行ったので、お兄様は開放された。
「助かったよセティー。ありがとう」
「いえいえ。それに、そろそろですのでリーゼ義姉様を迎えに行ってください」
「うん。ありがとう」
リーゼ義姉様はお母様と一緒に一門の婦人達へ挨拶をしているわ。
会場内に大きなケーキが運ばれてきた。
高さのある3段のケーキ。
チョコレートで出来た花やパール、クリームのフリルにフルーツで飾り付けられ、1番上には砂糖菓子で作られたお兄様とリーゼ義姉様を模した人形。
そうこれはウェディングケーキ!
リーゼ義姉様が希望してしていたケーキ入刀。
その希望を叶えるべく我が家のパティシエ達は総力を注いだわ。
私はアドバイザーとして意見を出したの。
お兄様とも何度も打ち合わせや試食を重ね作り上げたケーキ。
ダンスの演奏が終わり、私は2人が近くに来たのを確認して声を上げる。
「皆様、ご注目下さい!皆様から温かな祝福を頂いた新郎新婦ですが、ここで一つ、大切なセレモニーをご披露いただきたいと思います。こちらは2人の結婚を祝福し、両家の繁栄を。そして皆様への幸せを分ける事を願って作られたウェディングケーキです」
2人がリボンがついたナイフを2人が一緒に握っている。
「夫婦となった2人に最初の共同作業としてケーキ入刀を行ってもらいます」
2人はケーキにゆっくりと入刀する。
「ウェディングケーキ入刀でございます!」
入刀直後に演奏が奏でられ、周りから拍手が送られる。
本当はこのあとファーストバイトをしてはどうかと提案したけど、それは貴族のマナー的に良くないという事で見送りになった。
その後ウェディングケーキはパティシエによって切り分けられ、招待客に食べて頂いた。
「素敵な催しでしたわ」
「あのケーキ素敵でした。味も大変美味しくて」
「『2人の初めての共同作業』だなんて、夫婦円満の義式みたいですわ」
「両家の縁を結ぶ良い催し物でしたわ」
「お母様、私自分の式で真似したいですわ」
良かった好印象みたいね。
「セティーさん。本当にありがとうございますわ。私の理想通りのケーキでしたわ」
「喜んでもらえて良かったです」
後日今日の結婚式とパーティーが話題となり、発案者が私という話が流れ、私の元には茶会の招待状が殺到したわ。




